繭香の可能性
アリシア アイと天空寺 真音土の決闘について
チートコード使って負けるとか正義の味方ダセwwwww
負けた癖に他人のせいにするとか正義の味方以前に人間のクズwwwww
しかも、女の子に手を挙げるとか暴力亭主乙wwww
やっぱアレだ。アニメみたいな正義の味方なんていないんだ。中身開けたらこんなもんだべwww。
てか、アリシアちゃん超良い子じゃん。クズ正義が何をしても手を上げないとかマジ大人対応www
つうか、やっぱ、くそつえよ。チートコード使っても勝てないとかガチ過ぎる。
てか、この子が正義で桶wwwww
チートコード使って勝てねーとか勝てる気がしねーwwwww
などと書き込まれている。
天空寺・真音土の評価は下がりアリシア・アイの評価は逆に上がった。
これによりアリシア達の計画通り一時的に人は正義を不認識し易くなり、サタンの力を弱体化させる事が出来た。
これからはより精密に広範囲に残りの天使候補者を探す事が出来る。
宇宙組の部下からの報告によれば天空寺真音土のチートコード ”英雄因子”は完全には消えていないがかなり弱体化した様だ。
◇◇◇
そして、翌日は休みだ。
アリシアはシオンの授業の一環として英雄因子の補足説明をした。
真音土のシュミレーターのプログラムが書き換わっていたのは”英雄因子”による補正だ。
「敵を必ず倒す」と言う補正を叶える為にデータ上で無敵モードを発動、それがプログラムとして現れたのだ。
つまり、プログラムを書き加えたからの機体アバターが無敵になったのでは無い。
機体アバターを無敵にしたからプログラムに現れそれがプログラム上では”不自然な確率不調”と言う形で表現されたのが正しい。
機体アバターと言う概念に働きかけた結果なのだ。
だが、”英雄因子”も無敵では無い。
流石に存在しない確率を引き出す事はできないのもあるが、”英雄因子”と対を成す因子が側にいればその力は弱くなり中和され易い。
それが反英雄たるネクシレイターだ。
差し詰め、ネクシレイターの因子は”反英雄因子”であり、”過越”と言うスキルがこれに当たる。
天空寺の”英雄因子”はアリシアの因子により中和され、途中から効力を失ったのだ。
アリシア自身が悪魔の影響で弱体化しているのもに加え、あの試合では他の勢力からの目に見えない量子的な妨害もあり、中和までに時間稼ぎをする必要があったが中和さえすれば、英雄は雑兵と変わらない。
彼等が行う行為全てが”英雄因子”に深く繋がっている。
例えば、必殺技を身につけたとしてもそれは”英雄因子”があってこそ努力の成果であり実力なのだ。
本人は同じ構え、同じやり方で技を放っても”英雄因子”がなければ本来致命傷にもならない些細な技なのだ。
真音土もそうだ。
直撃コースで放ったつもりのライフルが直撃せず、掠る程度だったのは”英雄因子”が無ければ本来その程度の技だからだ。
つまり、英雄の努力の成果は”英雄因子”により容易に獲得した物であり、”英雄因子”で努力の結果を補填しているだけなのだ。
だから、補填した”英雄因子”の力が無ければ、英雄は凡人以下となってしまう事もあるのだ。
なお、ネクシレイターはその逆。
本人の超人的な努力による結果しかない。
つまり、反英雄には主人公補正が無い。
全ての力、全ての努力は彼女達の研鑽であり、契約した神から賜わったタラントン(尽きる事ない財産、能力)を増やして自分達の努力によって完全に還元している事で英雄に干渉されても比較的安定な戦闘が出来る。
これは慢心や高慢がある者には到底扱えない力だ。
確かにアリシアの力を使えば、こんな回りくどい事をしなくても天空寺を貶める事は簡単だ。
だが、人間とは無意識化で多かれ少なかれ、真実を見ている生き物だ。
アリシアが不正を働けば、その事が無意識的に分かってしまいアリシアが不正した事になる。
加えて、正義に対する失望を人間に認識させるなら人間にも分かる形で示した方が認識され易く効果的だったのだ。
そうなれば正義の味方がここまで失墜させる事は出来なっただろう。
何せ、真音土の力は”理不尽”だ。
少しの努力で大きな成果を得るように出来ているのだ。
みんなも薄々無意識で気づいていたが、今回の件で顕著となり、今までの不満が爆発したような感じだ。
人間世界は特別な人間のいない平等な社会主義と同じ。
そこに不正の証拠は無いが巨万の富を持った者がいる。
これが天空寺だ。
だが、天空寺の悪事を暴いた者がいれば今までの不満が爆発し巨万の富を持つ者に対して人々は不審を抱く。
「と、今回の出来事はこんな感じ。何か分からない事は?」
ある宇宙組の男性隊員が手を上げた。
「ネクシレイターも巨万の富を持った者に扱われますよね?大丈夫なんですか?」
「ネクシレイターは不正の無い形で成果を得ているから誰にも文句は言われない。尤も、嫉妬とかで不平を漏らされるけど、それは不正がないと分かっていて不正があると言っているのと同じ。時が経てば量子的には影響は無くなる」
そこで繭香が手を挙げた。
「わたし達全員、鍛錬を積めばあなたみたいに戦えるの?」
「うん。みんなにその可能性はあるよ。わたしの様に天空寺・真音土を倒せる可能性がある。あ、でも個人の適性みたいな物があるから必ずしも前線で戦う力がある訳じゃないよ。寧ろ、後方で役目を果たす主人公かもしれないから仮にそうだとしても落胆しないでね。前線で戦う事も重要だけど、物資を前線に補給する事だって立派な仕事だからね」
一同が「はい!」と力強く答えた。
「もう質問はないかな?なら、これで解散ね。この後は通常通りメラグから色んな教練を受けて下さい。では、解散!」
一同は「了解」と言って席を立ち解散した。
繭香も初めての授業を終え割り当てられた部屋に戻ろうとした。
ちなみに繭香は法的手続き等を経てギザスが保護者となりシオンに一室に住む事になった。
元家の荷物は後日届く。
それまでは殺風景な部屋だが居心地は悪くないと思っている。
繭香が戻ろうとするとアリシアが呼び止めた。
「何です?」
「本当はわたしが色々教えたいんだけど私も任務で忙しいからあなたの教育係を紹介しようと思って。入って」
そう言うと部屋の中に1人の女性が入って来た。
純白の艶やかな長い髪の穏やかな雰囲気の女性だ。
大人の落ち着いた女性像を思わせる。
彼女は左手の上に右手を添えた。
「お呼びでしょうか?主様」
「ありがとうルー。繭香。紹介するね。彼女はルー。今日からあなたの教育係だよ。ルーの言う事を私の言う事だと思ってよく聞いてね。」
「あ、はい」
突然の申し出に少し驚くが、当然と言えば当然だ。
入ったばかりで右も左も分からないなら教育係がついても不思議ではない。
それにアリシアが決めた教育係なら間違った方向には導かないだろうと確信していた。
「あなたはこれから命ある者としての振る舞い方と御業の勉強をして貰います」
「御業?」
「要するに魔術だよ」
「ま、魔術ですか!」
「これをある程度マスターすれば手の中でこの通り」
そう言ってアリシアは掌を繭香に差し出した。
すると、そこから光が溢れ出て光が止むと黄金に輝く丸い金属の塊が出て来た。
繭香は見覚えがあった。
伊達に資産家の家系の生まれではない。
その金属とは生まれた時から金庫の中に入っていた。
その塊をそっと手に持つ。
大きさは手のひらサイズだが、見た目以上にずっしりと重い。
これは間違いない。
「金……ですか?」
「その通り。こう言う事出来ちゃうからネクシレイターは資金に対する価値観が人間とはズレている。機体生産とかは試行錯誤しないといけないけど、シオンでは研究開発費は無料ですから」
「これ出来ちゃったら確かに札束なんて出されても嬉しくないですね」
「まぁ、子供が少ないお小遣いでわたしに施してくれたりしたら、その誠意の方が価値があるけどね」
「あ、そっちの方が嬉しいかも」
「わたしの夢としてはそんな事一度でも良いからされたいな……」
話に夢中になっているとアリシアは不意に思い出す。
「あ、そろそろ時間だ。ルー、後はお願い!」
「お任せを。主様、お気をつけて」
そう言って彼女は走って何処かに行ってしまった。
「彼女は何処に?」
繭香は気になり聞いてみた。
「我々にも教えられていません。とても大切な任務とだけ聞いております。恐らく、知っているのはアステリス様だけかと」
「アステ……誰?」
繭香は首を傾げた。
「あ、えーと。主様を含めた全ての生命を創造された創造神の名です」
「えぇ?アリシアは最初から神様じゃないの?」
「いえ、そんな事はありません。あの方は我等の誇りです。元人間でありながら神のお与えになった試練を乗り越え神格化された唯一の神です。主様は被造物で唯一創造神と真に対等に成られた方です」
「え……そんな凄い人なの……言葉遣い改めた方が良いかな」
思わず、口ごもってしまうほどアリシアの偉大さに気圧されてしまう繭香にルーは優しく微笑んで諭した。
「主様はそう言う事を拘る方ではありません。寧ろ、普通に接するのが良いかと思います」
「あの人も人並以上の苦労をして今の位置にいるんですね。変な言い方ですけど、そんな人に嫉妬するだけ恥ずかしいです。わたしは僅かでもあの人の才能に嫉妬した」
「主様は既に気づいています。でも、ただ嫉妬するだけの者はここには来られません。それにその様に悪い事を告白出来るからあなたは主様に見出されたのだと思いますよ」
「そうなんですかね……」
「はい。ですから、まずは小さな事からやりましょう。小さな事に堅実な者はいずれ大きな事を任される。主様のそうであった様にあなたもその様にすれば主様に届くかも知れません」
「届く……わたしがアリシアに届くのですか?」
「どのように届くかは分かりません。それを掴めるかは最終的にあなたの意志です。ですが、人間に比べればあなたの可能性は低くはありません。況して、人間社会の様に努力しても誰にも評価されない、報われないと言う事はここでは決してありません。どんな小さな事でも虚しい空虚な物にはならないのです」
繭香には嫌な記憶があった。
いくら頑張っても報われない。
相手の求める者になろうと答える日々。
だが求めても、求めてもキリがない。
あれこれ言い訳をつけて努力に報い事はしなかった。
それは人間の貪欲さが為せる事だ。
繭香は次第に努力する事をやめた。
努力は誰でも出来るとは言うがそんなのは努力する力すら奪われた事のない絶望を知らぬ者も与太話に過ぎない。
努力する事は誰でも嫌な筈だ。
だが、繭香の場合、努力する機能すら無くなっていた。
繭香には努力する事すら許されなかった。
常に怒りと憎しみに感情を抑えるので手一杯。
そんな中で無責任な大人達は努力しろとか努力が足りないなど呆れた事を平然と言うのだ。
繭香の言い分は分からない、理解できない、努力しない言い訳だ、などと勝手な事を言うのだ。
そもそも、絶望した事の無い人間には努力する機能が欠落している事など分かる筈がない。
その周りの人間の心無い言葉で繭香は心を閉ざしあの眠りの中に落ちた。
だけど、今なら分かる。
「そうだよね。何もしたくないよね。幾ら踠いても報われず踠けば踠くほど自分の首を絞めるだけだもんね」
あの言葉は同じ絶望を見た者にしか呟けない。
その通りだった。
努力する報われない努力する報われないそれを繰り返す度に自分は闇に落ち、背中に死の鎖を繋がれた。
同じ気持ちを持った人がここで大きな事を成した。
それだけで少しは頑張っていける気がした。
「あなたの事情は分かります。ですから、少しずつ焦らず行きましょう」
「はい、よろしくお願いします」
「では、まずは座学から始めましょう」
繭香はルーに連れられ部屋を出た。
「少し楽しみ」と繭香は今までにない高揚感に少しだけ微笑んでいた。
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