悪魔を滅ぼし民を救う計画

 地獄




「はぁ……はぁ……」




 アリシアは黒いダイレクトスーツを着込んで大太刀化した”来の蒼陽”を握りながらただ1人戦っていた。

 迫り来る敵を斬って斬って斬りまくる。

 地獄にあるアフリカに出来たゲートに敵が押し寄せない為にアリシアはただ1人で間引き作戦を実施している。


 本来ならAPを使って薙ぎ倒したいが、サタンの妨害の影響は全ての世界や時空に及んでおり、この世界でAPを使う事を妨害されているので使いたくても使えない。

 何故、3次元では妨害しないかと言えば、サタンの力の源たるSWNは地獄で多く発生、生成され負の感情などがその発生要因とされている。

 それはヘルビーストの数に比例していると言え、3次元に漏れ出た程度のヘルビーストならサタンはそれほど問題視せず放置するが、地獄のヘルビーストの数が激減するのは好まない。


 無論、地獄とは3次元よりも術の干渉がし難い世界ではあるが、神の力よりも強大な力を持った現代のサタンなら地獄に影響をある程度与える事は可能であり、アリシアがAP使えたとしても僅かな間だけになってしまう。

 更には地獄のヘルビーストの掃討兼自己強化の為に黒いダイレクトスーツで自らに枷を付けている為に僅かでも使えるAPの力を一切使えない状態にまで自らを追い込んでいる。

 結果、リスクはあるが生身で戦うしかない状況になっている。


 神になる修行の時からずっとそうしてきた。

 アリシアは大太刀化した”来の蒼陽”を振るう。

 ヘルビースト達は命を欲する為にアリシアに襲いかかる。

 無類の強さを誇るアリシアだったが、それでも完全無敵とは言えず、地獄の過酷さや妨害もあり、隙を見せる事もある。

 突如、大太刀化した”来の蒼陽”が空を舞い、10トントラック並みの大きさの狼に突進を喰らい岩壁に叩きつけられる。

 叩きつけられた岩壁はメキメキと音を立てながら砕けていく。


 この世界の素材全ては次元が低い為に硬い。

 アリシアが叩きつけられた岩壁するモース硬度数万に達する。

 並みの人間なら即死だが、アリシアは鍛えられている為、耐えられる。


 アリシアは右腕を噛まれながら、これ以上進まぬように必死で抑える。

 彼女の右腕は長年の鍛錬もあり、そう簡単に折れはしない、捥げたりもしない。

 だが、ヘルビーストはよだれを垂らしながら必要に彼女に食い下がる。

 その間に多くのヘルビーストが我先にアリシアに群がってくる。

 アリシアは手の空いている左手で狼の喉元を突き刺し、狼は悶える様に息苦しさを覚える。

 そして、隙が出来た瞬間にアリシアは狼を蹴り飛ばした。

 狼は大きく吹き飛ばされ周りのヘルビーストもそれに巻き込まれる。

 アリシアは再び大太刀化した”来の蒼陽”を握り締め、大きく振り翳した。




「アスタ!」




 アリシアは大きな声を上げ低次元では発動し難い術を発動する為に詠唱して”認識”を高める。

 ヘルビースト達は群を成しながらアリシアに迫る。

 アリシアは目をハッと見開き言い放つ。




「ガニマ!!!」




 アスタガニマ

 天の国の言葉で”神の裁き”と名付けられた”神火炎術”を応用した最高クラスの火炎術。

 その炎は高位の炎であり、人間には視認出来ない。

 視認出来ない蒼い炎が周りの岩石や空気の中のゴミなどで燃やし炎色反応を起こしながら蒼く灯る。

 高位の炎は複合技である”ドラメントバスター”以上の威力を持っている。

 勿論、練習すれば威力が上がるのでこの世界では積極的に使っている。

 加えて、スキルは詠唱し耳などで”認識”する事でもあるのでシャウトを叫んだ方が発動し易いのでこの過酷な環境だからこそ、その練習にもなる。


 ありとあらゆる存在を無にしてしまう技。

 命無き者の存在は消え去り、穢れた者は穢れを喰らい完全な無に還す。

 アリシアの剣先から放たれた蒼い光は濁流の如く大地を薙ぎ払い、幾万幾億幾兆の敵を薙ぎ払い辺りには敵は消えていた。

 今日のノルマは達成されただが、まだ終わらない。

 アリシアは汗だくになった顔を激しく振り汗を払う。




「ダメね。こんなのじゃ。もっと、鍛えないと守り切れない」




 アリシアは今回の戦いを分析した。

 達人の域を超えた者にしか分からない境地に彼女はただ1人達していた。

 俗に言う剣聖を超え、剣神になっている。

 その域に達した者にしか分からない境地に達しており、そんな彼女は今のままでは何も守れないと思っており、更に研鑽を積まないとならないと思っている。

 不意に彼女の頭の中には自分が育てている子供達や仲間、教徒達の顔が浮かび、彼らが炎に包まれ焼かれる姿を幻視する。

 それを想像するだけでアリシアは胸が張り裂けそうで握られた大太刀化した”来の蒼陽”を震わせるほど強く握り絞め、唇を噛み締める。

 もっと強くならないとならないのに自分がそれに至っていない事に焦燥感を駆り立てられ、そんな自分に苛立ってしまう。





「鍛えないと」




 アリシアはどこかに走り去った。

 1秒も無駄には出来ない、1秒も自分に顧みる余裕もない、与える気も無い。

 その1秒でどこまで強くならないとならない。

 そうしないと彼らの”死んでしまう”そう思うとアリシアは我慢ならなかった。

 日を追うごとにアリシアの覚悟も決意も目つきも鋭くなり、教徒や仲間の前では笑っていたが、その顔はまさに修羅に落ちたような顔をしていた。




 ◇◇◇




 その後、何処かの渓谷。

 神から賜わった地獄での試練装置と自作の訓練器具を使い修行していた。

 渓谷には巨大な鉄橋(訓練器具)が掛かっている。

 その橋の真ん中辺りの鉄骨の一部が明らかに蒼い有機物の塊があった。




「はぁぁっっはぁぁぁぁ」




 アリシアは激しい吐息と立てながら耐えていた。

 自分をただの橋を支える鉄骨の一部として扱い最も荷重のかかる場所を支えていた。

 フロントブリッジで鉄骨と一体化する。

 汗は激しく滲み出てあまりの痛みに至るところから体液が漏れる。

 両手は痛みを堪える為に近くにある鉄の棒を握り締めるが、あまりの痛みと彼女の腕力に鉄の棒には彼女の手形がクッキリと残る。


 辛い


 その一言に尽きる。

 地獄では神に近い程次元圧で苦しめられる。

 1立方cmの世界に体を押し込められた感覚だ。

 そんな状態で魂や人の形を保つのだから、相当な精神力と体力が必要だ。

 耐え切れない者がヘルビーストになるのだ。

 況して、神の魂の大きさは人間の比ではない。


 人間よりも遥かに地獄では圧殺され、魂と体には常に重しが圧し掛かっている状態だ。

 加えて鉄骨の代わりを担うのは人間以上の負荷が掛かっている。

 それでも彼女は耐える。

 辛くなりそうな時、諦めそうな時、常に自分と契約した人達、仲間、子供達の姿が浮かぶ。




「わたしが……倒れたら……誰が……守るの……私は負けられない!負けられないの!」




 彼女はそう言って自分にかかる負荷を更に上げる。

 苦しみもさっきの比ではない。




「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっうぁぁぁぁぁぁ!くはぁぁぁ……っ……」




 あまりに痛みから全身の体液が絞り出される様に流れ出る。

 苦しみも負荷も更に増やして彼女は常に冷酷に振る舞う。

 弱音を吐く自分は必要とされない。


 徹底的に排除するまで冷酷冷徹に自分に振る舞う。

 弱音を少しでも吐けば負荷を何倍にも引き上げた。

 いつもの事だ。

 だが、弱い心はいつも消えない。

 いつもこうして定めた目標をやり切っても弱い心は完全には消えない。

 




(私は……弱い……弱過ぎる……でも、守らないと……あの人達を……あの子達を戦わせてしまう……それは……それだけは!)






 彼女は切に祈る。

 彼女の心の中にはいつもそんな想いが敷き詰められ、抱きながら地獄を耐える。

 常に彼女を感心は自分の民や仲間の事だけだ。


 民を生かす事を史上原理に動いている。

 本来なら戦い争い会う事は良い事ではない。

 でも、今はそうしなければならない。

 だから、民を霊的に死なせない為に自分が戦うのだ。

 だが、もうすぐそれも終わる。

 世界と言う戦争茶番劇はもうすぐ終焉を迎える。


 悪魔を滅ぼし民を救う計画。


 ストラスに合わせてアリシアが考えた計画。


 プロジェクト オメガノア


 それまでアリシアは地獄で自分の任務に従事する。


 地獄で研鑽し少しでも強くなり、ヘルビーストを狩り、3次元での戦争の機運を減らしつつサタンに力を与えない様に……。

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