候補者との因果

 入学式当日


 アリシアとフィオナ、リテラ、シン、オリジンは誰よりも早く学校に訪れていた。


 GG隊は迫害され易い組織だ。

 些細な理由でも殺される動機になってしまう。

 故に先に学校を下見して怪しい物が無いか、爆発物が無いか等を隈無く探す。

 東京湾に出来た人工島の上にある学校は高等学校の割に大きい。

 400mトラックがあり、市街地戦を想定した訓練施設やAP開発用のラボと工場、病院など様々な施設がこの人工島に集められている。

 まるで一種の基地か要塞だ。


 そんな広い施設を隈無く調べるには流石に時間がかかる。

 だから、誰もいない様な時間から隈無く調べる必要がある。

 幸い、天音の計らいで軍からテロ対策の一環として爆発物が無いか、事前に確認する事を学校に要請している。

 事前に渡されたIDをセキュリティに通して中に入っている。

 彼等は手分けして調べ始めた。

 リテラは東、フィオナは西、シンとオリジンは北、アリシアが南だ。


 ちなみにシンとオリジンが一緒なのはオリジンがまだ、人間社会に慣れていない為に同姓であるシンと共に慣れて貰う為だ。

 各自、各々の持ち場に向かう。

 アリシアの向かう南エリアは主にAPの格納庫と工房であるラボが点在する。

 何かあるとすれば一番怪しいエリアだ。

 実弾武器も完備されており、暴れるなら最適だろう。


 アリシアはAPの格納庫の前に来た。

 格納庫はかなりの大きさだが、APが格納庫されているのは地下だ。

 この学校だけで108機のAPが収容されている。

 有事の際には軍の兵力として使われるからだ。

 だが、高等学校である以上戦力の保有数には制限がある。

 この108と言う数字は学校が保有出来るAPの上限(1個連隊規模)である。

 法の改正が無い限り、上限は変わらない。


 アリシアは格納庫の扉に近づき、IDで扉を開けようとしたがある異変に気付く。

 僅かだが、人の気配がした。

 誰もいない時間に格納庫に人がいるのだ。

 加えて、扉の前には靴跡が付いていた。

 しかも、比較的新しい。


 もしかすると本当にテロリストが何かしている可能性がある。

 アリシアは胸のホルスターからH&K USPを持ち、IDを翳してそっと扉を開け、中の様子をそっと確認する。

 薄暗い格納庫の中には誰もいない。

 だが、確かに気配はする。





(この感覚……地下か)






 足元から伝わる僅かな足音でアリシアは鋭く捉える。

 地獄でもその手の敵がいたから自然とそう言う感覚を培った。

 加えて、ネクシレイターに成ると感覚や感性が拡張してしまう。

 相手の想いや意志などもかなりダイレクトに伝わる。


 それ故にネクシレイターは魂の在り方を尊ぶ。

 物欲よりも霊的な価値観を持つ。

 その感覚で分かる事だが、足音の主はそれ程敵意や悪意の類はない。

 何か作業をしている様にも思える。

 それが何の作業なのかまでは分からない。


 案外、敵意も悪意も無く遊び感覚で爆弾を趣味で作っている可能性も否定は出来ない。

 その爆弾を趣味で爆破する様な相手かも知れない。

 実際のところは近づいてみないとはっきりした事は分からない。





(手応えからして地下2階かな?)





 アリシアは入学の際して渡された端末で格納庫の見取り図を確認した。

 この入り口から入って右横に螺旋階段があるのが分かる。

 各APの出撃孔の横にはエレベーターがある。

 彼は整備移動を円滑にする為に付けられたものだが、使えば犯人(仮)に悟られる可能性がある。


 アリシアは螺旋階段から地下2階を目指す。

 道中、軍用のSNSでシン達に状況を伝えながら、階段をゆっくり降りていく。

 地下2階まで何事も無く降りる事が出来た。

 ゆっくり降りると地下2階の一角に明かりが灯っていた。

 誰かがAPの前で独り言を呟いていた。




「あ!こりゃダメだわ!たく、時間無いのに!」




 女性の声がした。

 遠目から見ると黒髪ポニーテールの女性が煤まみれになりながら、機体の整備をしていた。

 整備士志望の学生かも知れない。




「一応、近づくか」




 アリシアは彼女のいるコックピットブロックまで一気に跳躍しコックピットを跨ぐ橋の上に着地した。

 女性は勘が良いのか、直ぐに着地時の足音に気付き、後ろを振り向きざまにベレッタM92の派生であるベレッタM203を構える。

 アリシアも咄嗟にH&K USPを構えた。

 互いに銃口を突きつけたまま硬直状態となった。


 しばらく、相手の顔を見つめ合う。

 黒髪のポニーテールが特徴的な整った大人びた感じの女性だった。

 可愛いよりはカッコよく勇ましいと言うイメージが近い女性だ。

 カッコよくて頼れそうなお姉さん的なイメージと言ったところだろう。

 顔立ちからして悪い気は感じない。

 だが、まだハッキリとはしない。

 相手が敵なのか、味方なのか、判別する機会を探らねばならない。

 だが、礼儀としてはアリシアから話すのが礼儀だろう。




「わたしは軍の者です。事情を聞きたい。こちらで何を?」


「ふーん。軍の人間ね……認識番号は?」


「05 1224 2311 115」




 女性はCPCに番号を打ち込み、認識番号をサーバーに紹介した。

 すると、ヒットがあった。

 その名前を見て彼女は驚いた。




「アリシア アイって……あのアリシア アイ?!」


「あの……かどうかは知りませんけど、確かにわたしはアリシア アイです」




 彼女はマジマジとアリシアを見つめた。

 知っている情報と照らし合わせると蒼い髪のポニーテールにつぶらな瞳……そして、独特な蒼い瞳の輝き方。

 映像で見た本人の風格その者だったと彼女は思った。




「えぇ?嘘。なんでここに?」


「任務です。入学式に際しての事前調査とテロ防犯の一環です」


「あー何となく読めたわ。つまり、わたしは不審者って事か。こんな時間に格納庫に入ればそれもそうか……」


「ここの学生さんですよね。学生証、見せて下さい」




 彼女は「良いわよ」と言いながら、ゆっくりとポケットの中の学生証を取り出した。

 アリシアもCPCを操作して、学生証の照合を行った。

 そこには”橘 千鶴 2年生 パイロット科”と書かれていた。




「パイロット科の2年生ですか。わたしの先輩ですね」


「えぇ?もしかして、ここに入学するの?」


「そうですよ」


「あなた、正規の軍人でしょう?ここに入学する必要あるの?」


「義務教育の波には逆らえなくて。それに色々込み入った事情がありまして」


「ふーん。事情ね。まあ深くは詮索しないわ。寧ろ、優秀な後輩が入ってくれるならこっちは歓迎するだけよ」


「そんな、わたしは優秀じゃ無いですよ。ただの出来損ないと言うか……全然、強くないし……」




 それを聴いた橘 千鶴は盛大な溜息と共に呆れたようにアリシアを見つめる。




「あなた、本気で言ってるでしょう?」


「勿論」


「はぁ……日本人もビックリなくらい謙虚ね。あのね!AD倒したり、異形の神倒したり、小隊で小国制圧した女が出来損ないなら、わたしなんかゴミよゴミ!」


「いや、わたし、そんなつもりじゃ……」


「そんなつもりなくてもそうなの!謙虚なのは良い事だと思うけど、少しは自信持ちなさい。ではないと人によってはあなたの言葉で傷付くんだから……過信しろとは言わないけど、あなたは少しくらい自信持たないと逆に上級生とかには侮辱に捉えられるわよ」




 謙虚過ぎると侮辱に当たるという単語がアリシアの心に刺さる。

 侮辱するという行いをアリシアは最も嫌う事の1つだからだ。

 それに以前にもレベッカから似たような事を言われた。

 その時は容姿についての言及だったが、どうも自分は謙虚過ぎるのが悪いところのようだ。

 なら、あの時の様に習うとしよう。




「侮辱ですか……それは良くはないですね」


「そうそう」


「なら、そこそこ出来るだけにします」


「そこそこ……うーん。まぁ良いか。過信するのも良くないし」




 今回も無難に熟せたようだ。

 今後は自分の評価は全部、そこそこと言っておけば無難かもしれない。

 それなら極端に誰も傷つけないしそれでいいようね。




「ところで橘先輩は……」


「姉様」


「はい?」


「わたしの事は姉さんか、千鶴姉様と呼ぶ事。良い?」




 理由は分からないが、幾ら神様であろうと先輩に言われた以上従順しなければならない。

 でなければ、和合と連合が乱れる。

 それに魂の年齢を見るに千鶴の魂の実年齢は確かにアリシアのよりも年上なので”姉様”と言う表現も間違ってはいない。

 加えて、神としての自分がGG隊やGG団体の面々に模範として行いを示さねば示しがつかない。

 アリシアが神である事を理由に高慢に振る舞ったら民とて高慢に振る舞う。

 どこで人がアリシアの事を見ているか分からないのだ。

 先輩の言う事に逆らう後輩なんて社会的な印象が悪い。

 せっかく、GG団体のメンバーが頑張ってグリーンアップ、クリアアップを取ったのだ。

 それに恥じない行いをしないとならない。

 アリシアは特に理由を聞く事も無く彼女に従う。




「はい。千鶴……姉様」




 多少、恥ずかしくはあるがそこは堪えた。




「うん。宜しい!」




 千鶴は満足そうな笑みを浮かべる。




「姉様……質問いいですか?」


「何?」


「姉様はこんな時間に何をやっているんですか?」




 つまり、ところそれが聴きたかった。

 まだ、回らねばならないところがある以上、彼女が何をしていたのか目的を聴かねばならない。

 良い人そうだから問題は無いと思うが念の為だ。




「あーちょっと明日の出撃に合わせて機体の整備に来たのよ。本当は1週間前に終わるはずだったんだけどね」


「何かアクシデントでも?」


「それがさ。1週間前からわたし、意識を失ってたみたいなのよ。でも、気づいたら病室でさ。目覚めたら1週間経ってたのよ。それで「整備をしないと」と思って病室抜け出してここに来たのよ。整備は整備科がやってくれるけどどうしても自分で調整したい所があったからここに来たの」




 アリシアはある出来事を思い出していた。

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