計画が動く

 極東基地


 10分前

 この間に起きた事を語るなら、10分前突如、統合軍が管理していた衛星兵器が管理下から離れ、何故が極東基地の真上を陣取り、何故が極東基地をロックオン発射態勢に入った。


 御刀 天音大将指揮の下で衛星の破壊を試みる。

 まずは海上の艦隊にミサイル発射を指示した。

 だが、何故か衛星からはこちらが放ったミサイルの自爆コードが発信され、ミサイルは全て撃墜。

 

 続けて海上にいる戦艦の光学兵器で衛星を撃ち落とす事にした。

 だが、その直後何者かに襲撃を受けた様な言動を最後に艦隊からの連絡が途絶えた。

 なので、基地に配備された陸上戦艦の光学砲を使って撃ち墜とそうとした。

 だが、全機が整備不良でまともに動かず光学砲が撃てない。

 切り札として基地に設置された高出力光学砲を使おうとした。


 だが、何故かその直後何者かの爆破工作で砲台が使えなくなり正直、お手上げだ。


 天音は悔しそうな顔を浮かべた。

 何者かは知らないが自分をこうも嘲笑う様な手口、見事としか言いようがない。

 自分を恨みそうな人間は数知れない。

 だが、この必要なまでの手口とまるで自分を屈服させたい様な私的感情の露出から行方不明になったあの男うきたを思わせる。

 だとしたらあんな下衆に負けたのが凄く悔しい。


 彼女から苦々しい顔が浮かぶ。

 僅かな後悔の時間は無情で基地から碌に避難させる事すら出来ないままに衛星の光の帯が落ちて来た。




「これで……終わった」




 天音は観念した様に呟き光が基地の頭上に迫る。

 誰もが死を覚悟した。

 接触まで刹那の時間しかなくもう出来る事は無い。

 誰もがそう思った。

 眩い光が基地を包み込み誰もが目を閉じ終わりの時を待つ。

 だが、1秒2秒3秒経とうとその時が来ない。


 天音は恐る恐る目を開けた。

 すると、目の前のモニターに衛星の攻撃を身を盾にして守る大きな蒼い物体が宙に浮かんでいるのが見えた。


 天音は周りの人間に状況確認を呼びかけた。

 部下は慌てて状況を確認し出す。

 すると、蒼い艦(?)から連絡が入る。




「こちらGG隊シオンの艦長滝川 吉火だ。司令官に至急繋いでくれ」




 天音は恩師の言葉にすぐさま反応した。




「こちら基地司令の御刀よ。状況を報告せよ」




 天音は私的な感情を出さず、淡々と対応する。

 色々、聴きたい事はあるが……それを押し殺して状況把握に努める。

 少なくともGG隊は敵では無い。




「現在、こちらの防御機構で敵の攻撃を防いでいる。命令があればすぐさま衛星破壊も可能な状況だ」


「確認するけど、破壊出来るのね?」


「出来る」




 吉火は断言した。

 リフレクターの機能があれば、大抵のモノは反射できるからだ。

 それこそ、局所的に出力さえ上げれば、太陽クラスの隕石を向かって来ても跳ね返せる。




「ならば、今すぐに落としなさい!可及的速やかに!」


「命令を受諾した。反撃行動に移る」




 そのまま吉火はすぐに天使達に指示を出し、実行に移した。吉火の指示で天使達はリフレクターを操作した。

 リフレクターは調整され、敵のレーザーのベクトルが変わり、元来た方向に戻って行き、そのまま衛星に直撃した。


 天音達は唖然としてそれを見つめた。

 アレだけの高出力兵器をいとも簡単に跳ね返す。その現実は目を疑うモノだったが、すぐに我に返り衛星がどうなったか、オペレーターに確認させた。

 衛星は完全に沈黙し破片は全て大気圏で燃え尽きたと報告された。




「御刀司令」




 モニターにあの少女が現れた。

 GG隊を作り数々のADを狩り尽くし神々すら殺した傑物。

 そして、今も自分達を危機的状況から救ってみせた存在。

 その名を知らぬ者はこの場にはいないほど誰からの周知される英雄がそこにいた。




「アリシア アイ。只今、極東に帰還しました。着艦許可貰えますか?」




 これだけの事をして相変わらず、平常運転の彼女を見ていると何故か自然と落ち着く。

 まるで深い泉に岩を落としても荒立てる事無く深く深く陳謝するかのような落ち着きた。

 オペレーター達は未だ呆然として現実から戻ってきていないが、天音はオペレーターの背後に歩み寄りインカムを外し彼女の申し出を受け入れた。

 



 ◇◇◇





 ファザーベース




「何?また、失敗しただと?」




 グリップが象の牙で出来き、龍の彫り物が彫られ、金メッキが施されたコルトパイソンを磨く手を止め、宇喜多は怪訝な態度でファザーに迫る。





「申し訳ありません。敵はどうやら高度な防御技術を保有しており、衛星の攻撃を難なく防ぎ剰え、そのまま反撃して来ました」


「言い訳なんざ聞きたくは無い!良いから結果を出せ。あの御刀を……いや、御刀諸共あの小娘も葬れ!」


「承知しました」




 ファザーは何も言わず、承諾した。

 あくまで機械である以上、王の人間の言う事には絶対に従うのがAIだ。

 あくまで機械である為、ファザーに怒りの感情などはない。




「情報によればアリシア アイは第一万高等学校へ入学が決まった様です。暗殺の機会は十分にあるかと……」


「いや、ダメだ」




 宇喜多は強気な口調で物申した。

 その顔は悪どい笑みを浮かべている。




「暗殺程度で殺せるとは思えん。学校に入ったら学校ごと吹き飛ばせ。何人死のうと構わん。どうせ、ゴミなんだ。纏めて焼却すれば良い」




 宇喜多は悪魔地味た命令をファザーに下す。

 ファザーはただ「承知しました」と承諾した。

 その裏では“事が順調に進んでいる”事にほくそ笑んでいた。

 




 ◇◇◇





 天の国


 大天使達は地球で起きた出来事を精査していた。




「先日、地球で起きた大規模な時空の歪みで地獄との連結が確認されました」




 辺りが騒めく。

 彼等にとって地獄との連結は大きな意味が持っていた。

 因果量子力学的な観点として知恵に明哲なソロな現状をこのように解釈した。




「つまり、人間達は本格的に我々に対して牙を剥いたか……地獄から囚人を解き放った。その事実はもう感化出来るものでは無いな」


「また、地獄との接続の際に出た余波が世界に伝播しこちらで確認した天使候補者達に直撃、意識を失った者もいるようです」




 ダビは頭を抱えて嘆いた。




「何という事か……これでは救いを伝播しても”過越”を受けられないではないか……。」




 ダビは事態の深刻さを嘆いた。

 彼等を救うにはどうしても”過越”を受けて貰わねばならない。

 それが自分の意志でなければならず、意識を失えばそれも出来ない。


 つまり、サタンは彼等を人質に此方の攻勢を牽制しているのだ。

 見捨てると言う手もあるが天使達にそんな選択肢は無い。

 見捨てると言う考えを持ち合わせてはいない。

 だが、嘆くダビに対してソロは現状を前向きに捉える。




「逆に言えば、イリシア神が福音に労力をかけなくても大なり小なり痕跡を辿ればまだ、見つけていない候補者を優先的に選別出来たと言える訳だ。それは良い事だ」




 前向きな話を取り出すと周りの人間も同調して「おお!」と感嘆の声を上げる。

 だが、ソロはそれを手で制し右の人差し指をピッンと上に突き立てる。




「ただ1つ問題はある。候補者は痕跡を辿れば良いとして、見つけた場合だ。夢を経由して過越を伝えようにもサタンが必ず妨害を入れて来る。起こそうにも目覚める見込みも薄い。神の力も万全では無い。起こすのは苦労だろう」


「では、どうするべきだと考える?」


「やり方が全く無い訳では無い」


「何か知恵があるのですか?」


「簡単な話だ。候補者が救えないのは地球におけるサタンの力が強過ぎるからだ。ならば、力を削げば良い」


「成る程、確かにその手なら夢を経由して救う事も……」


「ちなみに候補者が一番少ない地域は?」




 ソロの問いかけに側近の天使は答えた。




「地の果ての地域です」


「まぁ、あの地域はサタンの影響を受け易い、当然か。その分、サタンの力が注がれている。なら、そこの力を削げば、夢経由で”過越”を行える。それを足掛かりに地球の人間全てに過腰を伝え因果的に言い訳出来ない状況を作り出せば、始末する際の弊害も減る」




 皆がソロの知恵に感嘆し一様に首肯する。

 ”過腰”は候補者だけにして残りの人間は適当に始末すれば良いと人間は考えるかも知れないが、決してそうではない。

 もし、神や神の使いが”理不尽”を振り撒くのは非常に良くない。


 “理不尽”はサタンの領域であるSWNを生み出す。

 故に人間が神やその使いから”過越”と言う高次元に至る救いの報せを聴かずに地獄に堕とされれば、神が”理不尽”を敷いたと認識され、SWNが大量に発生する。

 しかも、神とは平等で公平な存在と定義されている。故にかつての”神の大罪”の時のように神の存在定義を否定するような行いはかつての”権能”が失われた事件のような出来事が起こるかも知れない。

 だからこそ、全ての人類に”過越”や過越のきっかけを伝え、その上で裁く事で潜在的に”理不尽”と思わせないようにするのだ。


 見張りの兵士が危険を知らせたのにそれを無視して災いにあったならそれはその人の責任であり見張りの兵士に罪はない。


 その見張りが警告の仕方が気に入ろうが気に入りまいが警告は警告だ。

 どんな言い方の警告をしても無視をすれば、死ぬとその者は分かっているはずなのだ。

 つまりはそう言う事だ。


 そして、報告する天使が次の報告を伝える。




「また、あの地域の数少ない候補者の多くが特定地域の学び舎にいると思われ、そこにイリシア様が御入学する話が持ち上がっています」


「成る程、好都合だ。イリシア神に候補者の救出とあの土地でのサタンの権威を失墜して貰うように頼み、影響緩和後、地の果ての地域から福音侵攻を開始する。その後、全世界に福音を伝え地球を滅ぼす。それで良いか?」




 全員はそれに賛同するように首肯した。





 ◇◇◇





 

 帰還後、アリシア達は司令室に呼ばれていた。

 そこでアリシア達は天音からある申し出を受けていた。




「ふぇ?入学?」




 アリシア、リテラ、フィオナ、シン、オリジンは司令室に呼ばれ、天音から辞令を受けた。

 それは万高等学校に入学すると言う話だった。




 よろず高等学校とは、戦後の治安の悪化に伴い作られた治安維持を生業とする学徒制度だ。

 一般の高校と同じ教育プログラムを受け尚且つ学徒全員が予備軍人として扱われる。

 大概の卒業生はそのまま士官待遇で軍に入隊でき、技官として整備兵や兵器開発エンジニアへとしての将来的な活躍が見込め、成績優秀者に至ってはPMCと契約も可能だったりとかなり優遇された就活可能な将来性のある学校だ。


 しかも、入学試験はかなりハードが低い。

 偏差値が低いと言う事ではなく、仮にも予備軍人を教育する学校なので入学してから退学する人間も少なくない為だ。

 だから、定数確保のために入学は容易になっている。

 加えて、在学中に死亡するリスクがある事でも知られている為、好待遇だが、割と入学者が少ないのも現状だ。

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