今日からあなたはわたしのモノです
まずはギザスが大剣を翳しアリシアのコックピットを狙う。
左からコックピットに迫る大剣。
普通ならもう逃れられない。
だが、アリシアは相対速度を合わせて右手で大剣に触れた。
相対速度を合わせ全てを0の状態にした。
すると、大剣は彼女の右手を破壊する事無く彼女はその力だけを利用して反作用で宙返りして見せた。
反転した彼女は左手の刀を両手で構えコックピット目掛けスラスターを噴かす。
「チッ!」
ギザスは人間離れした反応速度で直撃を避けた。
だが、コックピットに僅かな切れ込みが入ってしまう。
ザスはそのまま後方に跳躍し距離を取るが、アリシアは間髪入れずにそれを追撃する。
「曲芸師か!テメは!」
ギザスが知る限りあのタイミングで避ける人間はいない。
裏を返せば反撃されると予測されない。
大剣と右手の力が僅かでもズレたら腕が飛ぶか、捥げてしまう。
だが、均等な力ならモーメントを0に出来る。
アリシアは大剣のモーメントを瞬間的に0にリセット、ギザスが再び力を込めるのを待ちその力を軌道に活かしたのだ。
もし0にしなければ、ギザスが剣の手応えで右手を即座に切断するからだ。
先に先手を取ったと思いきや逆に反撃を食らった。
やはり、並みの相手では無く今の技とて人間のそれを大きく超えており、人間が行使できるモノではない。
迫るアリシアをギザスは迎え撃つ。
間合いに入りアリシアの刀がギザスに疾り、ギザスは大剣で大太刀を受け止めた。
剣で剣を受け止めて斬り合うこれが接近戦の支流ではあるが、ギザスにとっては相手が悪い。
アリシアは刀の接触で伝わる感覚でギザスの剣を見切った。
敵の剣の刀線刃筋を見極め刀に円運動を持たせながら、腰を回して斬り裂いた。
分厚い鉄の塊がいとも簡単に切断され、ギザスは直ぐにまた距離を取る。
あの剣は特注品で戦艦の砲撃にすら耐え得る強度を持っており、この20年折れた試しは無い。
だが、それをたった一太刀で彼女は斬り伏せた。
まるで今までの20年を一喝する様に……彼女はたった2回の攻撃でギザスを追い詰めていた。
ギザスは追い詰められ折れた大剣を捨て残り1本を取り出し両手で構えた。
「攻めてもダメ、防いでもダメ、避けても……限界あるだろうな……一方的じゃねーか……」
どの技1つとっても規格外だった。
振られる剣技、呼吸、足運び、読み合い、フィジカルコントロールそれら全てが人智を超え、それを彼女は息を吐くように体現している。
ギザスから見ても、これほど絶望的な差は感じた事はなかった。
不思議と彼からは不敵な笑みが浮かぶ。
ようやく、ようやく自分は死ねる。
彼女はそんな彼の期待に応える様に刀を滑らせた。
彼女はコックピット目掛け一太刀横に振るう。
ギザスは後方に下がり、紙一重に避ける。
彼女は更に畳み掛ける様に刀で再びコックピットを狙う。
ギザスはギリギリのところで直撃を避ける。
アリシアは2連撃を避けられた後、すぐに彼を通り過ぎる様に通過して距離を取る。
再び距離を取り、再度突撃して来た。
アリシアは刀を一度納刀し構えた。
「居合って奴か!次で決める気か!」
ギザスは両手でしっかりと剣を握り直し迎え撃つ。
居合は一撃必殺。
つまり、どんな手を使っても初段を躱せば隙が出来る。
(まだだ。まだ使う時じゃない)
ギザスは機会を待った。
切り札を使う時では無い。
アリシアはその間も更に距離を詰める。
彼女は彼との決闘を想定したのか銃火器を一切携帯しておらず、刀一振りで挑んでいる。
恐らく、彼女自身ギザスと同じ条件で戦う事を想定したのだと推移出来る。
だからこそ、彼女は想定していない。
「そこだ!」
間合いに入ったアリシアにギザスは腰に隠されていたハンドガン”エイリアンピストル”を素早く取り出した。
「!」
アリシアは突然の事に驚いた。
まさか、ギザスが銃を使って来るとは想定していなかった。
弾丸は直撃コース。
アリシアの反応が良いとしても完全には避けきれないコースを取っている。
しかも、回避する時間も距離も足りない。
ギザスはアリシアの回避速度や対応速度を頭に入れた上で回避困難な弾丸を放っていた。
(避けられない)
アリシアは思わす刀を抜き、刀の軌跡が空中に奔った。
すると、何かの金属音がしたと共にギザスは驚いた。
アリシアの刀が抜かれたと思うと弾くような音がしたからだ。
「な!弾を弾きやがった!」
ギザスは慌てて早撃ちを続ける。
だが、思わぬ反撃に動揺して狙いに焦りが見える。
銃と刀の優位性が心理的に崩され、ギザスの狙いがブレる。
アリシアは的確に銃口を見切り射線上から消える。
最初の不意打ちに驚きはしたが対処してしまえば、どうという事はないが、ギザスも2流では無い。
直ぐに落ち着きを取り戻し、狙いを絞りアリシアを狙う。
だが、ストライクゾーンの弾は2発3発と弾かれる。
そして、気づけば”エイリアンピストル”の弾は無くなっていた。
リロードしようにも、もう既にアリシアは間合いに入り、刀をコックピットに定め切り掛かっていた。
「負けたか……ふふ」
ギザスは不敵な笑みを浮かべる。
ようやく、長く続いた地獄が終わる。
ようやく、生と言う呪縛から解かれ解放される時が来た。
これで全てが終わる。
だが、不意にある感情も浮かんだ「悔しい」だ。
(今更なんだよ。バーカ)
その言葉を自分に投げ掛けた自嘲する。
そして、アリシアの剣筋がコックピットを斬り裂き、ギザスは静かに目を閉じる。
思えば、最悪の人生だった。
碌でなしの親元を離れ、軍に入隊、軍歴を買われて王家の近衛軍の隊長になった。
最初の女王陛下は立派だったが、後継のバカ王子は碌でなしだった。
あんな奴の為に命を張った自分が馬鹿馬鹿しくてしょうがない。
あの時に戻れるなら直接殺しに行きたいくらいだ。
糞王になってから汚れ仕事や人間の醜いところを散々見た。
人の世は腐ってやがる。
奪い取る事が正義であり、力であり、命だと本気で思っているような奴だった。
ギザスは祖国崩壊後、そんな世界に嫌気が指し、死に場所を求めて20年彷徨った。
早撃ちを捨て、ただ無心に剣を振った。
その努力がようやく……だが、その余韻はいつまでも続く事に流石に彼も違和感を覚え、不意に目を開ける。
すると、地面に激しく打ち付ける音がした。
「うわぁあ?!」
彼は思わず声をあげ、コックピットから放り出された。
彼は地面に転げた。
「イッテェぇ……何がどうなって……」
彼は自分の機体を見た。
赤い機体はコックピットを綺麗に寸断されていた。
だが、まるでギザスの頭の上の部分だけを精確に切った様機体のコックピットと下半身が残り、上の部分は地面に転がっていた。
俄かには信じられないが、アリシアはギザスの座高までも計算に入れた上でギザスを殺さない様にコックピットを切断したのだと理解出来た。
すると、勝者であるネクシル レイが彼の目の前に立っていた。
コックピットが開くと飛び上がる様にアリシアが上から落ちて来た。
そして、直ぐに彼に駆け寄ってより彼の目の前で手を差し出した。
「大丈夫ですか?」
彼は思わず彼女の手を取ろうとしたが、直ぐに手を払った。
「一体どう言うつもりだ!」
「どう言う?」
「何で殺さない!そう言う契約だろう!神なのに契約の1つも守れないのか!」
彼は思い通りにならなかった事に苛立ち彼女に怒りをぶつける。
彼女は何事も無かった様にキョトンとした蒼い丸い瞳でこちらを見つめる。
その顔には怒りすら抱こうとしない。
「契約なら守りましたよ?」
「はぁ!?どこが!オレはこうして生きて……」
「わたしはあなたの命を貰うと言っただけですよ」
「だから、オレはこうして……」
「だ・か・ら・、今日からあなたはわたしのモノです」
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