利他心より利己心
「証拠は以下の通りです。専門家に見せれば分かると思います。ユウキ博士が開発したシステムをロア大尉が使いその所為で次元の門が開いた。それを指示したのは宇喜多 元成の様です。彼等を野放しにすれば世界の何処かで次元の門を開く可能性があります。今のわたしでは複数箇所を同時に抑えるのは限度があります。彼等はわたしの敵と結託して世界を混沌に陥れる事を容認している。なので、わたしは外部独立権を行使します。彼等を拘束して下さい」
だが、彼らの顔は悪い。
利己的な利益を優先するあまり彼らの逮捕を見送らせようとする動きが働く。
「し、しかしだな。彼等は社会的に影響力が大きい。それに君の言う敵が本当にいるのか確認しない事には我々も動く事は出来ない」
彼等は利益と保身の為に動く事を渋る。
「そんな猶予はありません。それにわたしの敵は人間には見えない。神や天使でないとその存在を見る事も銃で撃ち殺す事も出来ない。あなた達にその存在を示していたら10万年かかりますよ」
アリシアは伝えるべき事は伝えたが、彼等は一様に難色を見せる。
「それではいるか分からんではないか!」「人を謀るのもいい加減にせんか!」などのヤジが飛ぶ。
目には見えないと言う事を言い訳にして彼らは自分の貪欲に溺れる。
だが、そもそも可笑しな話だ。
こちらに証拠がある。
それを精査すれば彼らの犯行は歴然なのにも関わらず、彼らはそもそも証拠を精査しようとせず「目には見えない」=「アリシアの嘘」と決めつける。
確かに悪魔は目には見えないが、それが分かるように証拠を示しているのに彼らは全く不合理な事を言っている。
彼らの言い分が正しいなら「細菌は目に見えないから存在しない」と言う頭の可笑しな人間が言いそうな事を今、彼らは言っているのだ。
普通に考えれば、地球の生存を優先して彼らを逮捕するのが合理的だ。
地球がなければ金儲けも出来ないのだから……にも関わらず、そう言う合理性が取れない辺り彼らは目先の貪欲に駆られているとしか思えない。
ロキとの会話はこの会議に参加している全ての指揮官クラスは知っている。
宇宙神との対話があったにも関わらず、彼らの意識はこれ1つとして変わっていない。
頭にあるのは利己心と貪欲そして、自分の地位に対する危機感だ。
そんな損得勘定を巡らせている。
「この議題はまた次の機会に持ち越す。とにかく、この件はアリシア中将に一任する。それで良いかな?」
さっきまでアリシアを擁護していたビリオすら話の折が悪くなると内心転身し焦りから無理やり会議を終わらせようとする。
皆が一様に首肯した。
「では、解散だ」
ビリオはなし崩しに会議を終わらせ、それに同調して次々と離れていく。
さっきまでアリシアと足並みを揃えていたビリオも現実的な困難にぶつかるとその足並みを簡単に崩した。
一度はアリシアが神である事を受け入れたがその信頼を簡単に壊した。
尤も、人間とはそんな者ではあるのはアリシアもよく知っている。
(やっぱり、ダメか……)
分かっていた。
変な目で見られると分かっていた。
神の存在を提唱し奇跡を見せて証しても納得しないのが人間だ。
奇跡を都合よく曲解され、無かった事にもするのだ。
奇跡を手品扱いしたり、祈りによる奇跡を心理学的な治療と当てはめたり人間の都合の良い尺度で考え、曲解する。
要は自分達の科学などが基準で説明出来ない者は全てオカルトで片付けるのが人間の悪い癖だ。
社会的な困難や自分の地位を脅かす影響を優先して固執して神の声を聞かないのも人間だ。
神である自分がいれば、逮捕が現実的困難でもいずれ、成し遂げられる。
その証として分かり易くバビを解体して見せたのも理由の1つだ。
その証として分かり易くGG隊を1日の発足させたのもそうだ。
なのに、それでも信じない。
アリシアの中に彼等に対する哀れみしかない。
彼等の決断の遅さが他の人類の死を意味するからだ。
1人の従順で多くが救われ、1人の不従順で多くが死ぬ。
それが神の法だ。
世界の運命は全て人の意志で決定している。
つまり、1人の人間の意思決定が人類の”総意志”としても受け取れる時もあるのだ。
これはWN量子力学的に正しい検知だ。
彼らの行きつく先が地獄である事がアリシアは悲しい。
アリシアの浮かない顔を天音は最後まで見続けた。
そして、静かに退出した。
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