利己心だらけの会議

「見苦しいぞ。大体、ただの妄想なら我々がここに集まる事は無い。現に次元の門が存在するのは我々も認識しそこから何が出て来た事も周知だ。あの敵性体の説明を願ったのは我々だ。彼女はそれに答えているだけに過ぎない。それにあの存在を熟知しているのは彼女だけだ。上官とは多くの判断材料を持つ者の事を言う。そうだったはずだな?御刀司令?」

 



 ビリオは目の前の席にいる天音に尋ねた。




「それで相違ありません。大統領閣下」


「他の者もその認識で相違無いな」




 ビリオの言葉に頷く者や中には何も言わず項垂れる者もいた。

 少なくとも否定する者はいない。




「と言う事はこの件で誰が上官に当たるかわたしが言うまでも無いな。ならば、黙って聞け!これは大統領命令だ」




 大統領のその言葉に全員が不承不承ながら首を垂れ納得するしか無かった。




「すまない。見苦しい所を見せた。話を続けてくれ」


「そうですね。次は何が聞きたいですか?」




 そこで基地司令官の1人が手をあげる。




「では、あの敵性体への対応策は?」


「現状、切って倒す事です。後は過越を受ける事です」


「過越とは、なんだ?」


「神の施す魔除けの儀式と捉えて下さい。それを受ければ獣から襲われる優先度が下がります」


「神?神とは実在する?」


「目の前にいるでしょう?」





 その言葉に彼等は息を飲む。

 流石の天音もあまりの突飛よしもない言動に面喰らう。

 ある軍人もその事で思わずアリシアに尋ねる。




「えーと、すまない。何かの冗談か?」


「冗談を言っていると思いますか?それにその類の話ならニュースでも流れていますし、ここにいる何人からラグナロクのロキ氏からわたしの事を聴いているはずです。この期に及んで冗談を言っていると思いますか?」


「口から出まかせを!仮に神なら言葉一言でバビの解体をできたのではないか?なぜ、奇跡を見せない?!」


「奇跡を見たから神を信じる訳ではありません。神を信じるから奇跡を見るんです。確かに奇跡見せれば事足りますがだとしても誰もわたしを信じはしない。そんな人に過越を施しても無意味です」


「高慢な!幾ら戦功が良いからと言って事もあろうに神を僭称するとは!ただの小娘が神を名乗るなど我々を侮辱するにも程がある。ならば、わたしに雷でも落としてみろ!」




 ある男は憤りを現しにして口が滑ってしまった。

 口が災いを呼ぶと知らずに……

 アリシアは目を閉じ肩から深く息を吐く。




「ならば、あなたが口にした通りの事を行います」




 アリシアは左手で指をパッチンと鳴らした。

 すると、その男のモニター越しに電撃が奔った。

 男は悶えながら椅子から崩れ落ちた。

 外からは男の異常知り駆けつけた部下が退席を要求して去って行った。

 他の全員はその様子を呆気にとられて眺める。

 アリシアは左手をそっと上にあげた。




「まだ、奇跡見せた方が良い?頭の上から金塊を落とす事も出来ますが?」




 そんな事になれば金塊の質量と位置エネルギーから頭蓋骨が砕けるのは想像に難くない。

 遠回しに「死にますか?」と脅迫しているに等しい。


 人を脅迫するのは神として褒められた事ではないが実際、古代エジプト時代は人々が天の国に対する理解が追い付いていなかった事で脅迫染みた掟を以て、神が民を従えた時代があった。

 本当は良くないやり方だが、時に人を脅さないと天の国への道から反れてしまうのでそう言う脅迫時代も確かにあった。


 その分、掟を守ったら羊が1頭から2頭になり、水瓶の水が勝手に補充されるなど褒美も一番極端な時代が第1の時代だった。

 今の時代も多少はそう言う事が必要なくらい人々の明哲さは失われているのでこうして脅迫しているのだ。




「いや!いい!もう君が神様なのは十分に分かった!」




 ヒュームはアリシアを宥めアリシアは左手を下げた。

 だが、彼は今の出来事を何かの手品と思っている節があった。

 ただ、自分が災難に遭うのを逃れるための方便を取ったに過ぎず心の底からアリシアを神とは信じていない。

 そこにある軍人が尋ねた。




「仮に君が神だとしてだ。何故、次元の門を閉じない。神なら閉じる事も簡単だろう?」


「わたしの力は今、制限されているんですよ。地獄の門を開きたい敵の妨害で力を制限されている。だから、完全封鎖が出来ない」


「その敵が……我々を滅ぼそうとしているのか?」


「そうです」


「その敵を倒せば何とかなるのか?」


「何とかなります。その敵の眷属を倒すだけでも効果があります」


「その眷属とは?」


「現在確認されているのがロア ムーイ大尉、ユウキ ユズ ココ博士、宇喜多 元成です」




 その人物達は彼等に衝撃を奔った。

 ロア ムーイは宇宙軍の衛星落としを止めた英雄だ。

 だが、今はジュネーブが一切関与していない命令である「アリシア アイ抹殺命令」の重要参考人として手配されている。

 ただ、この中の数名はロアの活動によって甘い汁を吸っているモノがいるのだ。

 ロアは自分が正義の味方と勘違いしている馬鹿だ。


 そんな彼に正義の行いを敢えてさせて、事前に戦闘を増長させ、復興の為の株式発行による配当金や国際機関の援助を利用して戦闘で発生した難民の支援と装い国や寄付金の一部を懐に納め、半ば「管理戦争」と呼べる状態を作り、自身の利益の為にロアを擁護している者もこの中にはいるのだ。


 ユウキ博士は高名な量子力学者であり、兵器開発にも携わるアクセル社の兵器開発部所長。

 ただ、その実、人類存続と言う理念の元で「優れた因子」を持った人間の拉致や人体実験や人間の兵器化などを推し進めるマッドサイエンティストだ。


 ユリアもかつてこの実験の一環で攫われ、思考を人間の脳に似せた量子コンピューターに情報を移植され、ユウキは非合法な依頼を請け負うサイト(ファザーと呼ばれるモノが管理している)からガリア隊に実戦使用のデータ収集を依頼した。


 彼女の発明は有用であるが「人類存続」の為なら非情冷酷な判断を平然と下せる人間であり、彼女が作るオルタ回路の有用性に気づいているここにいる何人かは彼女がここで捕まると研究が滞ると利己的な事を考えている。



 宇喜多 元成は様々な軍規違反や人権侵害を犯した悪名高い犯罪者だ。

 ただ、アリシアがいない間に実質彼が地球の実権を握っておりどうやら、リオ ボーダーの失脚と汚職の発覚により3均衡として「何故、事前に牽制しなかったのか?」「何故、抑止力として働いていなかったのか?」「働いていればルシファー事変が起きていなかったのではないか?これは大統領の職務怠慢によるモノだ!」とこの件でビリオ大統領は野党から袋叩きに合い、次の選挙では落選すると最近まで言われていた。


 だが、最近になり何の前触れもなく人気を取り戻し、次の選挙も当選と騒がれ始めている。

 これは謎の支援者Fと名乗る人物から「宇喜多 元成の逮捕を遅らせろ、もしくは見逃すように手配しろ。そうすれば、選挙に勝たせてやる」と言う誘いに乗ったためだ。

 胡散臭い話ではあるが、次の選挙に勝たねばならないと言う貪欲に抗えず、支援者Fの協力し今の状態を得てしまったのだ。


 どの人員も混沌とし過ぎる。

 まるで粘り付くようにこの会場の人間に罪と言う汚れをこびり付かせ思考を緩慢にしている。

 すると、アリシアは彼等にロア出現時の様子と様々な観測値を表示したデータを出した。

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