藍色の正体

 2日後


 シンはアリシアに呼び出され、シオンの研究ブロックにある一室。

 そこに入るとアリシアが忙しなくキーボードを入力しており、シンは邪魔しないようにそのまま黙って入った。

 それに今はアリシアとプライベートではフラットな関係でいる様に意識する。

 他の者がいれば敬礼でもするが、今は明らかにプライベートだ。




「来たんだね。シン」




 彼女の目の前には液体に満ちた大きなシリンダーがあった。

 中には人間と思わしき者が入っていた。

 その容姿を見てシンは驚いた。

 その顔立ちはアリシアの生き写しとも言える容姿をしていたからだ。


 最初は体のスペアでも作っているのかと思った。

 だが、よく見るとその体には女性らしい膨よかな胸はなく、その代わりに局部には女には無い突起物が付いていた。

 そうこれは男だ。




「何やってるんだ?」


「ちょっとね。私の中にある人をこの中に入れるの」




 シンはそれ以上は詮索しなかった。

 こう言う事はアリシアにしか分からない事なのだと直ぐに分かった。

 ただ「そうか」とだけ答えた。




「それで話って何だよ?」




 シンは本題を切り出した。

 恐らく、あの戦闘前に話したい事があると言っていたその件に呼ばれたのだと思う。

 一体、何を話すのだろうか?

 今のアリシアならシンの正体については知っているだろう。

 わざわざ、その確認のために呼んだのだろうか?と思っているとアリシアはキーボードを打つ手を止めた。




「シン。あなたの来歴について一応、確認して良い?」




 アリシアは真如な面持ちで語り始めた。

「一応」と言う事はやはり、既に正体は露見していると見るべきだろう。

 ただ、それが本題と何らかの関係があるのではないか?と考えられた。




「あなたはこの世界では無い大戦中に発足された日本の強化計画の被験体005ですね」


「あぁ……その通りだ」




 やはり、気づいていたか……とシンは内心思った。




「あなたにとってこの世界はパラレルワールドでありこの世界には強化計画は存在しない。あなたはNPとエレバンそしてユウキ博士の抗争により破滅した未来から来た」


「あぁ、そうだ。アレは……酷いものだったな」




 シンは自分の過去を語り始めた。

 シンは大戦中後期に誕生した改造兵士のモデル005。

 戦闘に適した優秀な遺伝子を掛け合わせ、調整されて誕生した。


 幼い時から戦闘教育を施された。

 その時の戦闘教官はあの滝川 吉火だった。

 初期の頃のシンはそれ程優秀でも無く、秀でた遺伝子操作にも関わらず秀でた才能も無かった。


 周りと比較してもその能力は乏しく。

 そのせいで虐められた事もしばしばだ。

 幼少期を過ごし劣等感を抱えながら、成長した彼は内気で気の弱い少年だった。

 そんな生活をしている間に大戦は終わりを迎えた。


 だが、だからと言って自分を取り巻く環境は変わらなかった。

 そんな彼にある日彼に転機が訪れた。

 スポンサーであるアクセル社からある機体が回って来たのだ。

 それは様々な搭乗者を拒む機体で何故か機体側から強化計画の元に送るように指示を促した様だ。


 様々な被験者が機体に乗る中、脱落していく。

 そして、シンの番が回って来たところで少し事件が起きた。

 計画の研究員がシンの能力の低さを指摘し機体に乗せるには相応しく無いと言って来たのだ。

 その時のシンもそう思った。

 自分には才能があるように生まれたはずなのにそれを活かせない。




 努力しても報われない自分は意志は弱くてダメな奴なんだ。


 こんな高性能な機体に乗る資格なんか無い。


 そう考えたのだ。


 だが、その時だ。




 機体が突如起動しシンを連れて行こうとした研究員をデコピンで弾き飛ばしたのだ。

 機体は腰を低くしてそっと右手を差し出した。

 その機体は無言で訴える。




 まるで乗れと言わんばかりに……。




 シンは恐る恐る右手に乗りそのままコックピットまで登った。

 コックピットブロックに入り機体を立ち上げた。

 そして、彼の人生は変わった。

 途端に意識を奪われパンとぶどう酒を持った老人に神について問われた。


 当時のシンは「どうでもいい」と答えた。


 いてもいなくても自分を助けてくれる存在ではないからだ。

 だが、老人は答えた。




「お前の救われる時が来た」




 それがテリスとの出会いだった。

 シンはテリスの話に耳を傾け、体を池で洗いパンとぶどう酒を飲んだ。

 オレはネクシルに見出され、”ネクシレイター”となった。




「あなたは数々の戦場を生き抜き。どんな作戦も遂行する戦士となった。ネクシルに乗る者として人の命を奪う事を嫌い、人が嫌がる任務を請け負い、自らを犠牲にして世界の平和に貢献した」


「あの時はただ世界平和に尽くせて良かった。戦う為に作られたオレがようやく生き甲斐と言える事がようやく出来たからな」


「そして、あなたは出会った。出会ってしまったのでしょう。ツーベルト マキシモフとレベット アシリータに……」




 シンが15歳になった時(この時間軸で3年前)シンは新設された部隊に配属された。

 極東軍実戦機甲開発中隊その部隊はNP部隊と呼ばれた。

 表向きは先行量産機を実戦で使用する事を一環とした開発部隊でオーパーツと呼べるネクシルを次期主力の量産機とする為のデータ取りとそのフィードバックを行うアクセル社、PMCモーメントとの共同部隊だ。

 だが、実際はそれとは違う目的が裏で進行していた。



「あなたはそこで吉火さんを筆頭にツーベルトとレベット3人でチームを組んだ」


「あぁ……そうだ。オレにとっては悪い意味で忘れらない3人だ。復讐しようとも思った程にな……今も左程変わらん。吉火も完全に信じた訳ではない。レベットも平和活動とやらでADをけしかける。ツーベルトは言わずもがなだ。アレは酷過ぎる。ツーベルトは軍人らしいところがあったが、妙に正義の味方を気取るところがあった」




 シン達はチームを組んでから様々作戦に従事した。

 そんな時だったレベットは退役して平和指導者となった時、事件が起きた。

 それはエレバンと言う組織が人類を滅ぼす兵器を作っていると言う情報だった。

 シンの元にテリスが渡る前からTSによりエレバンの存在は知られ、アクセル社の独自の情報網によりその情報を手に入れた。

 そこでシンはNPがエレバンと戦う為の組織である事を知らされたと同時にシン達は調査に乗り出した。


 その過程でシンはエレバンの首領リカルド ラインアイと出会う。

 シンは彼に銃口を突きつけ、計画中止を促す。

 だが、彼は命乞いする事なく確固たる意志でシンと対峙した。

 そんな彼の強い意志に感化されオレは思わず聞いた。




「何がそうさせるんだ」



 リカルドは答えた。



「人類を減らさねば人類が死ぬ」



 嘘を言っているようには思えなかった。

 少なくとも彼は本気でそう思っているとネクシレイターとしての感性で分かった。

 リカルドに詳細を求めるとリカルドは詳細を語ってくれた。


 リカルドの家系は大昔からある体質を持っていた。

 それは戦争の予兆を視覚化する能力だった。

 紫の澱んだオーラが包む時その大きさに応じて世界に災いが起きる。


 リカルドの先祖の誰かはその能力を利用して戦争需要を利用して莫大な富を得た。

 それがエレバンの前身とされる。

 そのオーラは人間から絶え間なく流れている様だ。


 その能力もまたリカルドも受け継いでいる。

 彼は知ったのだ。

 人間の人口が増えれば増えるほどオーラが拡大する事に……そのオーラの大きさを数値化し導き出されたのが”人類の破滅”だった。




「人類の破滅……」


「そうだ。近い将来、人類は破滅する。我々が大戦を起こしたのは人類を間引きしなければ、世界が破滅するからだ。まぁ、君には分からないだろうな」


「いや、分かるよ。人類の高慢さや妬みが争いを産んでいる。家庭単位で行われている事だ。戦争が起きて破滅しても何ら可笑しくはない」


「ほう。君にも見えているのかな?」


「見えないさ。だが、分かる」




 リカルドは何か納得する様に頷く。




「君からはあのオーラはないな」


「えぇ?」


「君は心から争いを好まない。銃を持っているのは生きる為かそれとも平和の為の手段かいずれにせよ。君は良く育った様だな」




 シンは自然と銃を降ろしていた。

 彼からは悪意のようなモノを感じない。

 敵意がない敵に向ける銃口はシンには無かった。




「分かってくれるの……」


「一度、本部に連絡するだけの価値はあると思っただけだ」


「そうか。なら、そうしてくれ」

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