神(あお)と悪魔(あか)の救い(たたかい)

 剣撃と銃撃が激しく火花を散らす。

 紅と蒼が激しくぶつかり合う。

 蒼は”高機動戦術”で転移する紅を追う。

 その速さは単純な速さで転移先に速やかに移動する。

 人の目にはどちらも瞬間移動していると錯覚するだろう。


 紅は転移をしながら射撃に最適なポジションを取る為に転移を繰り返し、蒼は転移先を予測して転移直後を狙い斬撃を放つ。

 紅は翼から無数の銃撃を放つと同時に蒼が接近、刀の間合いに入れ斬りかかる。


 近接能力の乏しい紅は間合いに入られると直ぐに転移を始め、新たなポジションを探り蒼は直ぐにそれを割り出し接近する。

 紅は転移する事が出来るのもあり、戦いの主導権は紅が握り、蒼は後手に回っていた。


 紅は蒼と距離を取り、翼を展開しマシンガンのように弾丸を放ちマシンガンの最大効果範囲に入れ、最大限の弾幕を張る。

 蒼はライフルを抜く事なく左手に刀だけを握り迫る。

 弾幕の濃さもあり、蒼には被弾が見られる。

 だが、どれも致命傷では無い。


 蒼は弾幕の隙間を縫う様に体の手を脚を唸らせながら人型で迫る。

 脚を広く開脚させ、刀を持つ手を無駄なく動かし弾を弾き、スラスターで空中での急激な可変機動を取る。

 体をうなり上下に動く様を波打つ様だった。


 蒼は人型とは思えぬ加速で一気に迫る。

 紅は蒼が間合いに入る前に離れようと転移を行う。

 だが、蒼は同じ手は喰わない。


 蒼は左手に持った来の蒼陽を投擲し投擲された刀は紅に迫る。

 紅は突然の攻撃に気が動転、刀を一瞥いちべつし、後ず去る様な仕草を見せる。


 だが、既に転移が始まっており、止まらず、刀は紅と巻き込まれる形で消えた。

 そして、再び紅が姿を現した。

 気が動転した直後なのもあり、気に乱れているのが目に取れる。


 だが、敵が来るまで僅かな猶予があると思っていた。

 その瞬間、一緒に転移した刀が上空でガシリと握られた音がした。

 紅が空を見上げるとそこには太陽を背にして迫る蒼がおり、蒼は既に間合いに入っていた。


 蒼は微かな隙を見逃さない。

 WNによる空間転移は意志の状態に左右される。

 強い意志があれば、大きな事が出来る。

 繊細に意志も持てば、繊細な事象を起こせる。

 今回の様に気が動転すれば、転移先を読み取られる事もある。


 紅は蒼よりも有利となる条件が揃っていた。

 転移戦術が無制限に使え、武器の射程も長い、火力も高い。

 更に蒼は本調子とは言えず、呪いを受けている。

 しかし、純粋な戦闘能力では例え、悪魔であろうと地獄試練を勝ち抜いた神に勝てる道理など無い。


 蒼の斬撃が敵のコックピットに鋭い一撃を叩き込む。

 普段、人を殺さない蒼も相手が悪魔なら手加減も慈悲もなく殺意を現さない殺意を浮かべ、斬殺にかかり、コックピットに鋭い一撃が食い込んだ。

 紅は抗うように体を振る。

 剣先はその所為で僅かにズレ、コックピットの中身が隙間から見える。

 そこにはマスク越しに絶望の暮れた、苦悶の表情でこちらを見つめる紅がいた。

 だが、蒼は一切容赦はしない。

 蒼は左手で刀を振り切ると左脚を回し蹴りを放ち、コックピットに振り翳し斬りつける。

 蒼の鋭い剣脚が敵のコックピットに更に亀裂が奔らせ、敵を地面に叩きつけ紅は砂漠に没した。


 砂塵が舞い上がり露出したコックピットに入り込みロアは砂塗れになり、蒼はトドメを刺そうと動きを止めた敵に一気に迫る。

 だが、紅は不意に立ち上がり、腕を腰に置き仁王立ちしながら顔を天に向け、紅は雄叫びをあげる。

 すると、彼の周りにドス黒い光が集い、それが機体の傷を癒し紅の傷を癒していく。

 そして、まるで筋肉が隆起したように機体が肥大化を始める。




「なんて悍ましい……」




 そんなアリシアの声は届く筈がない。

 彼の目も心も罪と悪で塞がれ、アリシアの感性が届く事はない。

 寧ろ、アリシアの想いが如何に純粋であろうとその想いを固執と偏見で全て悪に塗り替えるだろう。




「見たか!これが人類の希望だ!人類は貴様の支配など必要としない!未来は人類の力で切り拓ける!オレたちは神など必要無い!」




 そう、それをアニメなどで言えたらカッコ良いのだろう。

 かつてのアリシアもそれに憧れていたところがあったから気持ちだけなら分かる。


 神は人智を超えた考えで人類を滅ぼそうとする。

 あの文献にも終わりの日に神が裁きを下すと記されている。

 それに不信感を抱いたあの文献の読者が人類社会を守る為に神と人が戦うと言うテーマでゲームやアニメなどではヒーローは仲間の力を借りて神を倒すと言うストーリーが定番のようになっている。


 だが、それは人の力を信じたいと言う幻想からなる想いからであり、それが現実の人間の思想にも浸透している。

 人類は人類の力でいつか平和な世界が来るとそんな偶像ありもしないげんじつに縋るのだ。

 

 いつかきっとみんなを笑顔に出来ると信じて未来に向かう。


 そんな思想が人間ならあるのだろう。

 だが、人類は同じ事を常に繰り返す。

 その度に「いつか、いつか」と繰り返し、それらしい「人類の希望」を提唱してもどれだけ新しいと思える思想も正義も既に誰かが提唱したモノであり、人はいつも「いつか、いつか」を繰り返す。


 人は昔からあるものを新しいと言って繰り返している。

 国が唱える思想も戦争や戦う事の一択であり、平和指導者は戦わない事を一択とする。

 それが時代により新しく見えるだけだ。


 結果、人の世は戦いに溢れ、大国は戦争する事がやめられず、拮抗する様に平和思想を唱える。

 戦い、革命、平和のサイクルを常に繰り返す。

 希望や未来など一時の幻覚に過ぎず、いつの世も本質的に変わらない。


 戦いを起こす為に平和があり、平和があるから革命が起き、革命があるから戦いが起きる。

 正義の味方はそんな人類の望む罪悪システムを回すパーツに過ぎない。

 人は人の世罪悪システムを守る事が正義と思い込んでいるだけに過ぎない。


 それを希望と未来と言う綺麗な言葉で並べ立て、塗り固められているだけだ。

 神はそんな罪悪の世を終わらせ、楽園に導こうとしているだけでそれが少し人間の考えを超越しているだけの事だ。

 それを人は己を偶像で獲るに足りないモノと見下しその価値に気づいた者を蔑むのだ。

 そして、ロアは罪悪の世を守る事を正義ぐうぞうを掲げ、多くの人々を罪悪の世に繋ぎ止めようとしている。

 だから、時代は繰り返す。

 偶像に囚われない救いあお偶像に囚われた救いあかは決して相容れず争う宿命にあるのだから……。




「貴様に!人類の希望の光を見せてやる!」




 すると、それに呼応する様にヴァイカフリから紫色の光が放たれ、その光はロアの意志と人類の意志に呼応して力場を形成する。




「英雄の罪悪を再現するつもり!」


「この想いを悪とは言わせない!人間はお前が思うほど愚かではない!皆が平和を望んでいる!貴様の様な神など不要だ!」




 アリシアの顔が微かに歪む。

 感じてしまう。罪悪システムを愛する者達が希望と平和、自由を言い訳に自分を迫害しようとする。

 皆が一様にアリシアの存在を認識しながら、アリシアが真の神だとわかっていながら皆が一様に言う。


 神など要らない。


 アリシアは辛かった。

 彼等は世界を救おうと地獄の試練を乗り越えた彼女を要らないと言った挙句、排斥し呪うような事を口打ちする。

 アリシアは黙り込んだ。


 心が痛い。

 心を抉られた様な感覚だ。

 痛くて辛くて寂しい。

 誰も彼女の想いも愛も理解しようとしない。

 世界を救う為に地獄で犠牲となった彼女の想いを悟れない。


 何より世界中の人間が何も知らず、死後地獄に行くしかないのが不憫でならない。

 あの世界で一生を過ごすのは肉体的に死ぬ事よりも辛く。

 魂が完全に消えた方が幸せと思える程に過酷だ。


 そんな世界に行かせる事を良しとする者は果たして正義足り得るのか?

 アリシアはそれを悟らせようと努力しているだけだ。

 地獄に行ったからこそ行かせない為に自分の身を犠牲にして愛を施しているだけだ。

 それを悪と断じられたら誰だって悲しくなる。




「そこだ!」




 ロアは機体に紫色の力場を纏いながら転移した。

 アリシアに転移を悟らせない為に左右に動きながら転移し加速していく。

 放たれる力場を利用してドンドン加速していく。


 放たれる醜い力場がアリシアの意識を乱す。

 回避をしようとするが上手く集中できない。

 きっとロアにとっては優しくて温かい力場と錯覚しているに違いない。


 だからこそ、自然とアリシアに対して恐怖を抱かず、いつも以上に攻めロアは次第に距離を詰めてくる。

 アリシアも負けじと距離を取るが敵に動きを先読みされ、徐々に距離を詰められる。




「くっ!意識が乱される!」


「オレがこの戦いに終止符を打つ!」




 そして、ロアはアリシアに追い付き一気に加速をかけ、間合いを詰める。

 ここまで来るとアリシアの意識は遠くなり、ここまで距離が近いとアリシアは手を動かす事もままならない。

 意識を保つだけでやっとだ。




「こんなところで……」


「当ててみせる!」




 ロアは更に加速する。

 そして、既に回避する事すら出来ない距離まで迫っていた。




「わたしはまだ……」




 だが、彼女には諦める気はない。

 最後の最後まで足掻く。

 それが彼女の唯一の特技だ。






(良い報せだよ。セットアップが完了した)





 頭にオリジンの声が響いた。

 接触まで限りなく0に近い時間しか残っていない。

 だが、彼女にとっては状況を覆すに十分な時間だ。





(超神化。実行)





 アリシアは言葉に成らない声で呟いた。

 ロアはアリシアに激突した。

 確かな手応えがあった。

 直撃を受けたネクシレウスの周囲からは爆風と爆炎が舞い上がり、ロアは爆炎の中を突っ切りまるで全てを貫いた様に悠然と現れた。

 激しい爆風が辺りの空気を震わせ、誰もがロアの勝利を確信した。

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