迫られる決断

「ちゃんと振向けよ……」




 シンは作戦が上手くいくを願うように呟く。

 敵はシンとリテラの方を振り向いた。

 そのまま撤退戦をしている様に見せる為に砲撃を行いながら後退を開始、シンとリテラは砲撃を繰り返す。


 敵は素の機動力こそネクシルに及ぶ事は無いが、それを転移でカバーしながらシンとリテラを追撃する。

 敵はシン、リテラの背後を取る為に背後に回り込みたがる。

 だが、そのくらいの事は読めている。

 シン達は背後を取られた瞬間に後退に加速をかけて敵を追い越す。

 また、背後を取られても更に加速、後退を繰り返し転移後に現れた敵に的確に砲撃を浴びせる。


 シン達が放った弾丸はビシビシと音を立てながら、敵の装甲に被弾していく。

 敵の装甲にはシン達が放った弾丸が液体化し装甲にはこびり付きシンは放たれた弾丸の数を確認した。

 弾丸は良い具合に敵の装甲に事を満足げに見つける。




「ネクシル4!やってくれ!」


「了解!」




 リテラはライフルを燃焼弾の弾倉に変えた。

 そして、狙いを定めて敵全てに当てる様に弾丸を放ち、燃焼弾は敵の装甲に被弾した。

 被弾と共に弾頭が擦れ、摩擦熱で発火する。

 すると、敵の装甲にこびりついた液体のように弾頭が一斉に着火、爆発する様な音を立てながら何かが気化して敵機を取り巻く。

 液体が気化してチャフと同じ効果を発生させる。


 気化したチャフが敵のレーダーを潰しアンテナを狂わせ、敵はレーダーを機能不全に追い込む。

 加えて、WNに干渉するチャフである為、気配などを読み難くしている。

 それと同時にシンは煙幕を張り姿を消した。

 この煙幕もWNに干渉する為、視覚情報が読み難くなり、敵はシン達の姿を捕捉できなくなった。


 敵機はその場に留まり、周囲警戒に入った。

 敵の奇襲があると考えたからだ。

 不用意に進めば、敵の罠に嵌る可能性もあると言う警戒心もある。


 紅い機体はその場にとどまり警戒し始める。

 不気味な静寂が立ち込め、訝しむ素振りを見せる機体までいた。

 攻撃して来る素振りすら全くなく紅い機体はキョロキョロと周りを見渡す。




「ネクシル3。いまだ!」


「了解!」




 フィオナは待機から解かれ、敵陣の中心に突如現れた。

 フィオナは後退するフリをして離脱し”神時空術”に属する”亜空間待機”と言う術で待機し隠れ、シン達が敵を誘導するのを待っていた。

 フィオナは煙幕の中でも敵が見えている。


 ネクシレイターとなった彼等は仮に目を瞑っても気配と感覚だけで全てが見えている。

 フィオナはセルファーⅦを抜いて内蔵ハンドガンを敵に向けて放った。


 敵は装甲への被弾を感知した。

 レーダーは死んでいるが、マシンガンの照準器には確かにフィオナを捉える。

 フィオナが得意とするのは乱戦だ。

 そのセットオブジェクトは敵と敵との相討ちを狙う事も主眼に置いている。


 敵がフィオナを狙った瞬間にフィオナはアサルトで離脱、そのまま敵にフレンドファイヤーを誘発させる狙いだった。

 敵にも識別信号はあるだろうが、誤発した弾が当たればそれで良かった。


 だが、敵は一向に撃とうとしない。

 そのままで硬直したように動こうとしない。

 次の瞬間、敵機はフィオナ目掛け一斉に体当たりを仕掛けてきた。




「!」

 



 フィオナは咄嗟にアサルトを起動させ、直ぐにその場から消えた。

 あまりに唐突な攻撃に思わず反応してしまう。

 莫大な質量が自分にぶつかると考えると恐怖心を覚えぬ訳が無く背筋がスッと寒くなったのを感じ冷や汗が顔から垂れる。


 フィオナが離脱しシン達の元に戻った。

 敵はそのまま味方同士で体当たり……にはならなかった。

 敵の体当たりはまるで物理モーメントを急に失う様に消え、衝突はまるでクッションの様に消えた。




「どうなってるの?」


「成る程、概念兵器を使って味方に絶対に誤射しない様にしているのか」


「じゃあ……わたしのアサルトは無駄撃ち……」


「そうとも限らない。あのままお前が動かないなら押し潰せた可能性もある。任意で概念兵器をオフする事が出来たから仕掛けたとも言える。」


「でも、そうなるとどうやって攻略しようか?シオンのリフレクターを利用して反射させる?」


「多分、敵もそれを理解しているだろう。現にこれだけの数がいるのに1機足りともシオンを攻めようとしない。シオンに攻めたら負けるのを理解しているからだろうな」


「なら、どうする?」




 シンは「何か決定打になる攻撃があれば……」と考えていた。

 いや、正確には結論は出でいるのだ。

 だが、それは一歩間違えると、とんでもない事が起きる。

 そんな切り札が1つだけあった。




「味方殺しの期待も出来ない、シオンも使えない、そして圧倒的な物量。勝てるとしたら一撃必殺で一網打尽に出来る兵器が必要だな」


「まさか……」




 2人はシンの言いたい事を理解した。

 そう、天の国でダイヤモンドの惑星を破壊したあの兵器以外無い。




「アタランテ……アレを使うしかないのか……」




 シン達は試されていた。引き金を引くか引かないのかを……。

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