それぞれの作品

 神域の戦神工場 ハードウェア


 基礎設計は既にアリシアが完成させている。

 天使達はそれを基に戦艦を組み上げ始めていた。

 ただ、人間の組み立て方と違いクレーンや機材は必要としない。

 パーツが必要ならその場で生み出し、望む形があるなら形を念じて与えれば良い。

 後はパーツに手を翳して、フワッと持ち上げる。

 そのまま組み込みたい部位にテレポートさせる。

 接合には溶接機は必要としない。

 原子の結合そのものを操作して結合させる。

 構造材もアカシックレコードに登録されている材質データから物質を呼び出す事が出来る。

 使われるのは3次元世界では存在し得ないアストロニウム。

 アストロニウムとは、低次元と言うエネルギーの振幅が低い世界でしか取れない低次元物質。


 物質は次元が高いほど励起する。

 そうなると物質として存在しない。

 だが、次元が低いほど遷移して物質としての形が保ち易い。


 その分、3次元より2次元の物質の方がモース硬度が高い傾向にある。

 これは”次元圧”と言うモノに影響している(水圧と同じニュアンス。低次元ほど水圧が高い)

 尤も2次元の物を高次元に持っていくと次元圧が下がるので元々の強度を損なうが、それでもかなり強靭な物質として存在を維持する。

 しかし、言うまでもないがそれだけ硬いと地球の技術では加工出来ない。


 そう、地球ではできないが、加工、構築、素材全てにおいて地球のどんな技術よりも高い水準を持っているこの世界なら話は別だ。

 地球から見れば、チート加工と言える圧倒的な技術差が存在する。

 どんな加工不能な存在でも原子レベルで操作すれば幾らでも加工できる。

 しかし、チート加工だからと言って問題がないわけではない。


 組み立てをしていたある男の天使が体をフラフラとし始めた。

 体がグラっと力無く抜ける。

 天使の代表者であるメラグは彼をそっと受け止めた。




「大丈夫か?」


「あ、あぁ。すまん」




 1人の天使が体調を崩す。




「無理をするな。あなたが倒れる事を主は望まれていない」


「しかし、主は我らの世界を守る為に己が身を削ったと言うではないか……この位で音を上げる訳には!」




 男の天使は力を振り絞るがまた力が抜ける様にフラッと成る。




「無理はするなと言った。慣れない作業で相当スピリットを使ったはずだ。良いから休め。主もそれを望んではいない。お前は初めてにしてはよくやっている。主を困らせるのはお前の本意でもあるまい?」




 男はグーの音もでず「分かった」と頷き工房から姿を消した。

 彼らの加工、構築、素材の全ての工程にはWNスピリットを使う。

 全ての存在は物質から電流、素粒子の一つとってもこのWNで構成されている。


 意志もこのWNで構成されており、神や天使の体はWNで構成されている。

 天使以上の存在はこのWNを直感的に扱う事が可能な存在であり“万物の事象を操る”事も可能だ。


 しかし、“万物の事象を操る”能力を使うには自身の意志を対価に使う必要が発生する。

 また、使う能力にも個人によって得手不得手があり、変換効率も異なる。

 さっきの男の天使は慣れない作業で負荷を感じる程にWNを消費した事が原因で倒れたのだ。

 本来は神であるアリシアからWNの供給を受けている。

 だが、天使の中には彼女からの供給量を下げる者もいた。

 天使にとって元3次元人であるアリシアは天使が羨む程の祝福を受けた存在だった。

 地球的な解釈をすれば、大きな激戦地から帰還した精強な英雄の様な存在だ。

 その精強なスピリットは天使の上位者を名乗るのに足り得るのだ。

 そんなアリシアへの憧れが少なからずあり、自分を高めようと自分の身を少しでも削って貢献しようとする者がこの中にも少なからずいる。


 神とは、自らを犠牲にして愛を施す存在だ。

 それが出来ない者は神とは呼べない。

 況して、彼らにとってアリシアと言う神は地獄と言う自分達では想像も尽かない耐え難い苦難を乗り越え、世界を守る為に自分を犠牲に戦い抜いた崇拝したくなるほど神だ。

 それだけの愛を施す存在を見習ってしまいたくなるのだ。





(はぁ……困りものですね)





 メラグは語り掛ける様に心で呟き、アリシアに報告を入れる。





(こればかりはわたしの責任だね)





 アリシアはメラグに念を送り返す。

 どれだけ遠くにいようとプログラミングをやっていようと彼女の処理スペックならキーボード打ち天使全体の状況把握しながら、電話を100件処理するくらい簡単に出来てしまう。

 今、こうしてメラグと話している最中、別の天使に指示を出している。





(それはあなたの責任ですか?)





(英雄悪って奴だよ。激戦地で戦った英雄に憧れて戦いたくなる心理だね。戦いなんて褒められたモノじゃない。そんな世界に引き込む原因を作っているのが英雄ならそれはわたしの罪だよ)





(では、彼に関しては……)





(特に何かするつもりは始めからないよ。強く成りたいと言う気持ちは間違っていない。彼がやろうとした事は目を瞑ります。でも、作業をあまりに遅延させ過ぎると判断したらわたしに報せてくれる?)






 神とは手間を惜しまない。

 効率を重視して個人を蔑ろにする様な真似はしない。

 男の天使が問題を起こす様ならきちんと説明して納得してもらう様に努める。

 それだけだ。




(了解しました。わたしからも念押しして言い聞かせておきます。貴方はご自分の仕事に専念を……)




(うん。ありがとう。メラグさん)




 アリシアは通信を切りメラグは何事も無かったかのように作業に戻った。



 ◇◇◇



 シン達は各世界の戦艦の戦闘データを天使達に伝えながらフィードバックを繰り返していた。

 この世界では仮に組み立てても後で仕様変更を幾らでも出来るのも利点の1つだ。

 データから戦艦の補強部分やどこに主砲や副砲を置くか変更していく。

 そんな最中、白い箱の形をしたバリア機構1号機が出来た。




 リフレクターユニットタイプⅠ


 神力保有 B



 障壁 大 障壁 大Ⅱ 障壁 大Ⅲ 反射 大 反射 大Ⅱ 反射 大Ⅲ 反射 大Ⅳ




「何とか出来たね」


「うん。意外と作れるものなんだね」


「まぁ後は動けばの話だがな」




 シンはバリアを遠隔から操作して起動させた。箱の周りに蒼い粒子の膜が取り囲み始めた。




「展開だけはうまく言ったな。リテラ頼む」


「アイ アイ サー」




 リテラは意気揚々とバリアから少し離れた。

 そこで拳銃を抜いて1発放った。

 弾丸は真っ直ぐにバリアに向かって行った。

 ビシリと言う音がバリアから鳴り着弾した。

 その瞬間、弾丸はリテラの方へ向かいリテラは左手で弾丸を握った。




「うん。機能としては成功だな」




 この装置はバリアに対象が接触すると対象が辿ったベクトルを解析し、同等のベクトル量で相手に反射するスキルを組み込んでいる。

 障壁で防護し障壁許容範囲の攻撃を全て反射する。

 細かな制御をすれば、攻撃を別の対象にすり替える事も可能な防御機構だった。




「やったね!」




 フィオナは親指を立てながらリテラに合図を送る。リテラも親指を立て返答した。




「だが、まだだ。耐久テストもしておこう。リテラ色んな箇所を適当に撃ってくれ」


「了解」




 リテラは銃を乱射した。

 弾はバリアに直撃すると跳ね返りリテラは跳ね返った弾丸を避ける。

 だが、1発の弾丸がバリアにビシリと当たるとそのまま貫通し、装置の左端を破損させた。

 すると、バリアは力を失うように勢いを失った。

 シンは箱に近づき、欠けたパーツを手に取り見た。




「……」


「何か分かる?」


「多分な。バリアの皮膜にまだ斑があるからリフレクト効果が再現しきれなかったんだな。加えて、精密過ぎるから箱の端っこが破損するだけで一気に機能不全。耐久性に難有りだな……はぁ……」




 シンは軽く溜息を付き一拍置いて口を開く。




「全体の組み立て直しだな」


「はぁ……せっかく作ったのに……」




 彼等なりにかなりの時間を労して作っただけあり流石に応える。

 だが、失敗したとは言え彼等が作った物は地球の技術では100世代またがないと作れないような完成度のオーパーツであった。


 箱の破損程度の機能不全を起こしたのもそれだけの精密な設計を箱の原子核1つにまで施しているからだ。

 この装置を作る為に地球には存在しない新たな元素を幾つか創造し原子レベルの操作で作っているのだ。




「だが、足掛かりは出来た。今はそれでよしとしよう」




 シン達はデータのフィードバックと並列しながらバリア機能を作り続けた。





 ◇◇◇




 神域の戦神工場


 アリシアは工房に籠り様々な武器を試作していた。

 OS開発に行き詰った事での息抜き兼戦力向上の為の兵器開発だ。

 ”武器創造”の力で様々な武器を試作してみる。

 アステリスが渡した武器と睨めっこしながら様々な武器が立てかけられている。

 例えば、こんな武器だ。




 アーサー ロンゴミリアド


 神力保有 SSS


  変形 攻撃力 極大 攻撃力 極大Ⅱ 攻撃力 極大Ⅲ 攻撃力 極大Ⅳ 攻撃力 極大Ⅴ 攻撃力 極大Ⅵ 攻撃力 極大Ⅶ 攻撃力 攻撃力 無限 槍技 極大 射技 極大 神属性 極大 偽神特攻 極大 偽神特攻 極大Ⅱ 神力生成 極大 神力生成 極大Ⅱ  神力生成 極大Ⅲ 神力 極大 神力 極大Ⅱ  神力 極大Ⅲ 心意砲撃 ? 心意槍撃 ? 神力吸収 極大 神力吸収 極大Ⅱ 対物特攻 極大 対物特攻 極大Ⅱ 対物特攻 極大Ⅲ 対物特攻 極大Ⅳ 対物特攻 極大Ⅴ 対物特攻 極大Ⅵ 対物特攻 極大Ⅶ 対物特攻 無限 防御貫通……


  エクストラスキル


  破壊の鉄槌




  オクスタン型の槍にバズーカの機能を盛り込んだ突撃槍。

  蒼く太いワイヤーを螺旋のように編み込んだ突撃槍だ。

  高い突破力と大軍面制圧、対拠点用に開発したオクスタンバズーカとも言える代物だ。

  突撃槍時には前方にエネルギーを展開し突き刺し、砲撃時は螺旋に編み込まれた槍が解け、内部の砲身が展開されるようになっている。

  そして、エクストラスキル”破壊の鉄槌“のスキルもそれなりのモノに仕上げた。


  使用者の現在のステータスランクを10段階上げる。防御系スキル無効。対物特攻能力を7倍にする。


  軍としての能力はアーサー エクスカリバーが上だが、個としての能力はアーサー ロンゴミリアドが上回っている。

  10段階のステータス補正と対物特攻による7倍補正により70倍の補正がかかる。

  しかも、対物は”物”と定義できる物全てが適応される為APやADに効き易い。


  しかも、スキルによる防御は”破壊の鉄槌”で無効化され、スキル”防御貫通”によりスキルに依存しない防壁、障壁と定義されるバリアを貫通する事も出来る為、ADのバリアすら容易に破る事が理論上可能だ。


 その他、息抜きと称して色んな武器を本気で作り過ぎ、その数は武器だけで数万を超え、防具類も数万にも上る。

 その中でロンゴミリアドは良い出来栄えだと言う自負があった。

 出来栄えで言えば、10本の指の中に入るだろう。


 息抜きとは言え、戦力増強の主眼に入れた武器ばかりだ。

 将来的に一般兵士にデチューンした量産モデルでも渡せれば戦力アップにもなるだろうから無駄な工作ではない。




「さてと、息抜きも出来た事だし気を引き締め直そう!」




 アリシアは自分の両頬をバシッと叩き気持ちを引き締め直す。

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