研究と試行錯誤

 バビ解体戦争開始の少し前 アメリカ アクセル社本部





 そこには1人の研究者がいた。

 量子物理学者ユウキ ユズ ココだ。

 ちなみにこの名前は偽名だ。

 彼女にとって人生の転換期となった時に謎の声にそう名乗る様に指示されたから名乗っている。


 偽名を名乗る前は自分の論文と理論は完璧だったのに誰も評価しなかった。

 だが、偽名を使い始めてからは量子物理学界では右に出る者がいない存在となった。

 自分の力と実績が評価されたのだ。


 謎の声により見出され、結果を出して掴み取ったのだ。

 今、彼女は自分のラボに篭り、あるシステムの解析をしていた。

 先日、支援者Fと言う軍属から量子回路と呼ばれるシステムを渡された。

 何でも、入手したデータが完璧とは言えないらしく。

「実戦仕様に耐え得るだけの性能を復元して欲しい」と言う物だった。




 ユウキは半ば面倒臭そうに送られたデータを開いた。

 どうせ、大した物は入っていないのだろう。

 天才である自分以上の物を作れる人間なんていないと自負していたからだ。

 だが、依頼である以上受けない訳にはいかない。

 しかし、中身を見てすぐに考えを改めた。

 そこに描かれていたのは以前の異常重力波で感知した粒子を使った何らかの装置だと分かった。


 恐らく、設定した事象を発生させる装置だと考えられた。

 だが、ユウキの頭脳を持ってしてもそこに何が書かれているか、完璧には分からなかった。

 この設計は極小単位で制御された緻密な設計図だ。

 とてもではないが、今の技術では再現は不可能だ。




「一体どうなってるの?こんなものどうやって……」




 ユウキはデータの詳細を見直した。

 すると、出自に関する記述があった。

「コードブルーの使う機体のシステムを再現したモノ」と書かれていた。




「コードブルー。確かNPのアリシア アイだったわね」




 ユウキは半ば驚嘆の顔を覗かせる。

 コードブルーは既にこの技術を画一化して実戦に仕様していると言う事だ。

 それに気づいた支援者Fは恐らく、軍備拡張を狙ってこの技術を欲している。

 だが、軍の設備でもこれが何なのか完全には把握出来ず、ユウキの元に舞い込んだと推測される。

 ハッキリ言ってこれを作った奴は天才だ。

 自分以上の天才と認めなくてはならないほどに……ユウキはアクセル社の人間だ。

 すぐに会長に頼んでNPのアリシア アイとコンタクトを取れる様にアポを取ろうとした。

 だが……。




「えぇ?戦死した?」




 何とパイロットは既に死亡していた。

 ならば、機体だけでも渡してほしいと頼んだが、機体の消息は不明と答えられた。

 それなら関係者と話がしたいと持ち掛けた。

 そこで2人の少女が対応して来た。

 ユウキは自分の名前と所属を明かした。

 2人は何か神妙そうな素振りを見せ、会話に間が生まれた。

 この2人にとってユウキの名前はシンから聞かされた「神の誘惑」と言う怪しい兵器を作った危険人物だった。

 どう対処していいか困惑する。


 その後、間を置き2人は何事も無かった様に会話を始めた。

 ユウキはその間が気になりはしたが、特には気にしなかった。

 話を聴くとどうやら、彼女達に機体にも量子回路が搭載されている様だ。

 だが、彼女達は作り方までは知らなかった。

 ユウキは「知ってそうな奴はいないの?」と尋ねた。

 2人は心当たりがあった。


 2人はしばらく電話から離れ、数分後戻って来た。

 2人は知ってそうな男から伝言を預かったと言った。

「お前に話す事はない」と言う簡潔なものだった。

 2人はそれを伝えると「と言うことなんでお引き取り下さい」と告げ、一方的に電話を切った。

 ユウキは舌打ちをした。




「くそ、徹底的に秘密主義でいるつもり?話す事が無いですって。私の事を無能とでも言いたいの?」




 と言うよりシンは無能に用はないと言っている事など彼女は知る由もない。

 そもそも、自分を天才と自称する人間が自分が無能である可能性を考えたりはしない。

 況して、”神の誘惑”などと言う物を作れば、警戒もしたがるものだ。


 ユウキは頼みの綱だった情報源が役に立たないと分かり、ユウキは舌打ちをした。

「使えないわね」と悪態を漏らす。

 だが、使えない者を気にしても仕方ない。

 要は結果を出せば、過程は何でも良いのだ。

 未完成の量子回路を可能な限り、復元する方法ならある。


 データには人間から搾取した量子粒子を使用すると書かれていた。つまりはWN粒子だ。

 その為に「素体モルモット」を調達した。

 PMCモーメントから人材を派遣してもらい量子回路を使った実験を行った。

 実験は思いのほか、難航はしなかった。

 過程で何人か死んだが、その結果分かったのは量子回路に適した人材の選別と人材にあった回路の最適化とそのデータのフィードバックだ。

 条件としては正義感が非常に強い、規律や法、秩序を遵守すると言った人理主義者が適任だった。


 それに該当しない者は量子回路に命を奪われる意志薄弱な軟弱者とユウキは定義づけた。

 そして、条件に該当する者を基準に量子回路の不足部分を補填し最適化と修正を繰り返す。


 ユウキはその量子回路をオルタと名付けた。

 オリジナルとは違う新たな形と言う意味が籠っている。

 ユウキはアリシアのいない僅かな間にオルタを完成させた。

 依頼主である支援者Fに復元したと連絡を入れた。

 その後、支援者Fはユウキを贔屓にする様になるのだった。


 支援者Fはユウキに更なるテクノロジーを渡し、ユウキはそれを喜んだ。

 ユウキは支援者Fを利用して技術を得る。

 支援者Fは世界平和の為にユウキを利用した。


 ユウキはこの技術がいずれ混沌とした世界情勢を変えると信じた。

 その為なら過程など、どうでも良い。

 結果だけを重視する。

 その考えが破滅を呼ぶとも知らずに……。




 ◇◇◇




 神域の戦神工場


 バリア機構、情報精査中


 戦艦シオンは守りを重点に置いている。

 バリアはその為の必須機構だ。

 あらゆる攻撃を塞ぐ障壁。

 シン達はアカシックレコードに記録されたデータと睨めっこしていた。

 と言っても彼らにはアリシアのようなアクセス権はないため閲覧するにしても効率が悪い。


 アリシアから仮権を貰ったが、神の知恵とも言えるアカシックレコードへのアクセスは厳重で神で無ければ完全な閲覧は出来ない。

 この世界は過越を受けた人間なら量子化して到達できる次元だが、アカシックレコードはそれ以上の次元に座する。

 権利が無ければそもそもアクセスすら出来ないが、天使以上神未満個体ではどうしてもアクセスする権利以前に個体としての力が足りないのだ。

 そうなると個体の次元を上げるか、情報の次元を下げて閲覧するしかない。

 彼らはパソコンと3次元的なイメージを介して情報を閲覧する。

 リテラ、シン、フィオナは悩んでいた。




「ん?この重力障壁なんてどうかな?」


「悪くはないが、それならADにも使われている。俺達が求めるのは多分、もっと上なんだろう」


「そうだね。確かに求める物が違う気がする」


「なら、原初粒子を使ったバリア機構と言うのがあるけど……シンとフィオナはどう思う?」


「それも悪くないんだろうが……」


「なんか違うよね……」





 ありとあらゆる世界の兵器や武装、防壁のデータがアカシックレコードには記載されている。

 “モノ”が持つ量子的な情報がWNを伝いアカシックレコードに刻まれる。

 設計した本人の知らない情報が、そこには記載され粒子の挙動1つ1つすら記録されている。


 シンはどれにも難色を見せる。

 どれも悪くはない。

 だが、求められているモノと違う気がする。

 アリシアはフィオナ達の管理を自分に任せた。


 口では言わなかった。

 だが、直感で分かる。

 そんな自分は彼女の意志を出来る限り、反映してフィオナ達は導く役割がある。

 ここで不用意な事は出来ない。




「アリシアは多分、贋作を作られせる為に此処を用意したんじゃない。学ばせる為だったんじゃないか?」


「「学ばせる?」」


「俺達は「俺的最強バリア」を作るためにここにいる訳じゃない。それで良いなら様々な世界のバリア機構を全て搭載すれば良いだけだ。だが、そんな贋作なら誰かが模倣するかも知れない。それでは意味がない」


「なら、どうすれば?」


「多分、参考にする為だろう。その上でどんな物を作るか考えるんだ」


「いきなり言われても……あたし達あの子みたいな技術肌じゃないし……」




 元々、リテラもフィオナもアリシアよりはアウトドアなタイプの人間だ。

 リテラはアリシアが作った弓を使っては狩りをしていた程には狩人だった。

 その獲物を調理する薪を確保したり割ったりしていたのが、フィオナでありアリシアは肉を捌き、調理する役割だった。


 難民だった事もあり、自分達で食料を確保する為に野生動物を捕まえていたのだ。

 主にリテラが仕留めて、フィオナが薪や力仕事でアリシアが狩りの道具や火を起こし調理を担当していたのだ。

 そう言う面でアリシアは手先が器用でモノを作る事には長けていた。

 だが、技術者肌ではない自分達ではアリシアのようにはモノは上手くは作れない。




「あいつもいきなりやれとは言わねーよ。もし、オレらにそれが出来るなら「直ぐに作れ」て指示してる。そうしなかったのは時間掛けてでも取り合図、完成品をこしらえろって事だろう」


「そうなの?」


「あいつに高慢は無い。過程なんてどうでも良いから結果を出せなんて言わない。結果に於ける過程とは小さな結果だ。そんな小さい事も蔑ろにする奴は大きな事なんて残せない。残せたとしても必ず弊害が残る。オレ達は小さな事であっても蔑ろにする事は許されない。だから、あいつは直ぐに大きな結果は求めない」




 そう、結果だけを求める奴がいるとするならアニメ的にはストイックでカッコいい、あるいは冷徹、クールと思うかも知れない。

 だが、現実で結果だけを求めるのは迷惑この上ない。それでは宇喜多と同じだ。


 目先の欲だけを求めて突撃する野獣と同じだ。

 ただ、獲物がいたから真っ直ぐに向かって襲った。

 知性のある者の行いとは言えない。

 まさに今の宇喜多を現わしていると言える。


 そんな人間は「過程は問わない。結果を出せ」と言うだろう。

 過程を結果よりも疎かにする時点でその人間は獣と変わりない。


 会社でも同じだ。

 小さな事が出来ない人間に大きな事を任せようとする人間はいないはずだ。

 少なくともアリシア アイと言う人物は小さな事に忠実でない者に仕事など与えない。

 小さな事に忠実でない者は大きな事は任せられない。

 例え、能力が低くてもアリシア アイと言う人物が選ぶ人材とはそんな人間だ。


 アリシアなら「過程は確実に。結果は後に現れる」と言うだろう。

 シンはアリシアから自然と2人の管理を担当している。

 そんな彼はアリシアの意図を的確に読み、それを従順させる義務があった。


 そもそも軍隊で雑用と言う小さな事すら出来ない者など実戦にすら使えない。

 雑用が地味とか実戦したいのに雑用ばかりでヒーローぽい事が出来ないなど言う奴は真っ先に死ぬ事などGG隊でなくても他の軍隊でも周知の事だ。

 シンやフィオナ達はその事はよく叩き込まれている。




「まぁ、とにかくだ。データを精査してどんな概念の機構にするか。そこから考えようぜ」


「そう言われても取っかかりないと厳しいね」


「リテラもそう思う。あたしもそうなんだよね……」


「なら、さっきリテラの言った原初粒子を使うのはどうだ?恐らく、オレ達を構成するWNと似た様な性質があるはずだ。割と流用出来るはずだ」


「成る程、あたしとしてもそれなら取っかかりとして良いかも。なら、その原初粒子絡みの技術を閲覧しようよ」





 3人は闇雲に情報を閲覧するのをやめ、一点に情報を集め始めた。

 調べる内にその原初粒子と記載されたそれはWNと類似の性質があると判明した。

 並行世界によってWNが別称で呼ばれているのか、それとも亜種存在なのか、そこまでは分からなかったが、WNに関する性質などに類似性が見られ応用可能である事が判明した。

 その技術の中には原初粒子を使った障壁システムも記載されていた事も行幸だった。

 3人は技術を応用派生させながら、何度も何度も試作品を作り続けた。

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