凶兆
ケルビムⅡ降下直前 バビロンR格納庫基地
基地内では銃撃戦が行われていた。
統合軍の潜入部隊とニジェール支部との戦いだ。
「くそ!何で向こうに此方の作戦がバレている!」
「絶対、バレない作戦じゃなかったのか!?」
ニジェール支部のあまりの横暴が、3均衡の目に余り、ボーダー主導のもと制圧作戦を行うはずだった。
尤もボーダーは失脚したのでエジプト基地主導の下で基地の制圧作戦が行われていた。
初めこそ、仲間を装い容易に潜入出来た。
そのまま基地に制御室に潜入、制圧するはずだった。
だが、部隊長に話があると基地の責任者と部隊長が個室に入った直後基地の防衛システムが作動、壁に掛けられたセントリーガンや巡回のタンク型ロボット兵器が一斉に押し寄せてきた。
50人いた潜入小隊は最初の不意打ちで半数が減った。
副官が隊長に連絡を入れるが、連絡は無かった。
副官は「クソ!」と悪態を付き生き残りを連れて、その場から離れた。
撤退した彼らだったが、施設の隔壁は次第に閉まっていく。
逃げ道は徐々に塞がれている。
その後を追うようにロボット兵とニジェールの歩兵部隊が迫り、彼等に緊張感が奔る。
自然と息は荒くなり、自分達が袋小路になっているのを感じる。
それでも走るしかなかった。
1秒でも長く生きるにはそれしか無い。
だが、そんな彼らをあざ笑うように彼は行き止まりに辿り着いた。
「行き止まりだ!」
「このまでか!クソ!」
「諦めたらそこで終わりだ。直ぐに防衛線を張るんだ!」
副官は速やかに指示を出す。
部下達はリュックと一体化した仮設用の防壁を地面に置いた。
リュックの背部を敵に向けそこから強化プラスチックで出来た防壁が展開された。
リュックから地面に杭が刺さり、防壁を固定した。
軽く丈夫に出来ている仮設防壁は戦車の砲撃を1発だけなら凌ぐ程度の耐久性がある。
ロボット兵器とニジェールの兵士が彼等を発見した。
「撃て!」
小隊は迎撃を開始した。
小隊が先手を取った事でニジェールの兵士を削る事が出来た。
残りのニジェール兵士はタンク型のロボット兵器の陰に隠れながら、撃ち合いを始めた。
ニジェール側は防壁から出た統合軍の兵士を狙うと同時にタンク型ロボット兵器は統合軍の防壁にダメージを加えていく。
統合軍側の火力は低い。
本来なら友軍を装い基地内部を制圧する想定だったのもあり、ここまでの攻勢は想定していなかった。
最大火器と言えば、タンクロボット兵器に通用するかも定かでは無い、分隊支援火器2丁と現在隊員全員が持つグレネード弾10発だけだ。
副官は直ぐにグレネードを使用する様に指示を出した。
グレネードには安全装置があり、約10m以内では爆発しない。
安全装置が無ければ、手元で爆発する可能性もあるからだ。
敵はそれを理解している。
タンク兵器の弾幕を張りつつ、少しずつ前に前進させてくる。
現在の距離は15m前後、使うなら今しかないのだ。
「撃て!」
副官の指示で隊員は一斉にグレネードを放った。
グレネード弾はタンク兵器に放物線を描きながら、飛んでいく。
タンク兵器に直撃したグレネード弾は一斉に爆発した。
爆煙が辺りを包み視界を遮る。
だが、爆煙の中からゆっくりとこちらに迫る影がある。
タンク兵器だ。
装備していた外付けの機関銃は無力化出来たが主砲と装甲は無傷だ。
「クソ!なんて硬さだ!アレは只の軍用じゃないぞ!」
当たり方にもよるが、普通のタンクロボット兵器にグレネード弾が直撃すれば、少なくとも装甲を歪める事は出来る。
だが、敵のロボはその歪さすら無い。
得体の知れない装甲を使っているのが分かる。
続けて副官はタンク兵器に分隊支援火器を一点集中で火力をぶつけ、各個撃破を試みた。
分隊支援火器がタンク兵器を蜂の巣にしようとした。
だが、タンクの装甲は凹む事すら無かった。
副官は直ぐに指示を切り替えた。
「カメラを狙え!」
部隊全員がカメラを狙い始めた。
タンクの頭頂左右に付いた小さな小型カメラに向けて乱射される。
しかし、カメラは小さく思うように当たらない。
カメラの大きさは5.56m1発程度の大きさしか無い。
仮に当たったとしてもカメラにも耐弾加工は施している。
豆粒のようなカメラに10発は当てなければ、壊れない品質だ。
工作部隊は決定的な一撃を与えられないまま敵の進撃を許していく。
タンク兵器の主砲が防壁に直撃し強化プラスチックは白い筋で埋め尽くされていく。
(ここまでか……)
まさに絶対絶命であり作戦も失敗としか言いようがない。
彼らは死を覚悟した……その時だった。
敵が後退を始めたのだ。
敵兵が誰かから通信を受けた素ぶりを見せると敵兵は砲撃しながらゆっくりと後退を始めた。
副官は何事かその時はわからなかったが直ぐに事情を把握した。
基地内放送が流れた。
「警戒レベルSを発令。敵対ADの接近を確認。バビロンRを出撃。各員は持ち場で待機せよ」
幸か不幸かこの基地のADの出撃で兵士はADに乗艦せねばならないようだ。
基地内放送によればADが接近しているようだ。
このまま基地に留まるより、ADで迎え討つ方が効果的と判断されたのだろう。
どこのADか大体の検討はつくが、結果的に彼らは助かった。
すると、基地全体が揺れ始めたのだ。
副官直ぐに脱出を指示した。
生き残った隊員は来た道を戻るように脱出を始めた。
だが、彼らの中には一抹の悔しさがあった。
任務を果たせず撤退戦を行いその上、敵のADに助けられたのだ。
彼らは辛酸を嘗めながら撤退した。
◇◇◇
ニジェール支部の指揮官は悩んだ。
一言で言えば「最悪」だ。
軍の潜入工作は支援者Fのお陰で予め気づいていた。
その為の対策は用意し敵に罠に嵌ったと見せかけた。
そこからの不意打ちまでは上手くいっていた。
だが、敵勢ADが迫ることまでは予期していなかった。
基地のレーダー、カメラから敵は宇宙統合軍のADなのは明白だ。
更に彼等は既に地球統合軍の人間ですらない。
双方から狙われる立場に成っていた。
このまま外に出たら恐らく、宇宙統合軍のADに蜂の巣にされる。
「どうする?どうすればいい?」
恐怖のあまりに頭が回らない。
まるで心臓に2本の剣を突き立てられた様に頭が回らない。
最悪の状況だ。
すると、更に最悪な報せが舞い込む。
「基地0時方向に戦艦多数!地球統合軍です!」
最悪が更に混迷を極めた。
このまま出撃すれば両陣営から板挟みになる。
バビロンRで宇宙統合軍のADと戦っても勝ち目はない。
かと言って、地球統合軍と戦って勝てる見込みは5分と5分であり、「一体どこに希望があると言うのだ!」と言う状況だった。
指揮官は自問自答し、ガタガタ震えながら頭を抱える。
(考えろ!考えろ!考えろ!)
脳内で永遠とそれを繰り返すが頭が回らず、考えられない。
すると、副官の男が呟いた。
「隊長。まだ、希望があるかも知れません」
それは彼らに希望を齎す案だった。
「なに?何か策があるのか?」
「状況を整理すれば、宇宙側は地球の敵で地球は宇宙の敵です。宇宙は我々を地球の敵と思っている。だが、地球も我々を敵と思っている。」
頭が回らない指揮官は何を言っているか分からず苛立ちを覚えた。
「何が言いたいんだ!さっさと言え!」
高ぶる怒りをそのまま露にする。副官は至って冷静に事実を述べる。
「つまりですね。今の我々は中立的な立ち位置にいる訳です。ですが、我々は地球側とは手を取り合えない。そうなれば残る選択肢は1つしかない訳です」
指揮官はようやく事の意味を把握した。
直ぐに部下に指示して敵ADとの回線を開かせた。
賭けにはなるが、もはや彼らにはこの手しか残っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます