宇宙から来る災い 再び

 宇宙


 ウィーダル ガスタ中将は辞令を受けた。

 先日のロア ムーイに妨害された衛星落としを陽動としてケルビムⅡは地球圏に接近させていた。

 そして、今、地球へ降下が指示された。




「目標ニジェール。ケルビム発進!」




 ケルビムⅡはその巨体を震わせ発進した。

 光学迷彩は徐々に解け、その巨体を露わにする。

 周りの小衛星がバリアで砕ける。

 まるで小衛星が小石に見える程だ。

 全長は前回のケルビムⅠの2倍の大きさとなっており、大きさも出力も前回の2倍以上になっている。

 巨大な円盤はその巨体でゆっくりと地球圏に迫る。

 その目の前には地球圏の衛星網がある。

 レーダーステルス機能はあるが、この大きさなのでカメラで確実に見つかる。




「まもなく、地球の衛星網です」


「よし。電磁波を照射!」


「了解!電磁波!照射!」




 艦内のオペレーターがウィーダルの指示で電磁波を放った。

 ADの高出力動力から成る強力な電磁波が衛星に直撃した。

 それが静かに衛星群に直撃し静かに地上に落ちた。

 衛星群は太陽フレアの様な電磁気の嵐が直撃した。

 衛星群は異常な電磁波に機能不全を起こし機能を停止する。

 地球側ではこの事実に不信感を抱くだろうが、これでADに対する対応が遅れるのは確実だ。

 今の攻撃で数百単位の衛星が使えなくなり、監視網に欠落が生まれた。




「進路そのまま!全速前進!これよりニジェールに降下し敵ADを叩く!」




 ウィーダルは命令を出すと部下達は命令を復唱し全速前進した。

 ウィーダルが席に着くと通信がある事を確認しウィーダルはボタンを押して応答した。




「中将閣下、宜しいですか?」


「なんだ?」


「中将閣下の御命令だった。カメラの増設とコンピュータの増設が完了しました」


「そうか。御苦労だった。スペックの程はどうなっている?」


「現在のスペックなら通常のAPの30倍の速度まで対応可能です」


「そうか。ならば、結構だ。急な調整に手間を取らせたな。ありがとう」


「いえ、御命令ならば何なりと」




 男は何かもどかしさがある様に見え、ウィーダルはそれを感じ取る。

 何が言いたいか察しは着く。




「あの……発言しても宜しいでしょうか?」


「なんだ?言ってみると良い」


「その……ここまでのスペックが必要なんでしょうか?カメラとコンピュータを増設すれば、確かにロックオン性能は向上しますが”あの敵“にそこまでする必要はないのではないかと……」


「ほう。つまり君は手抜きをしろと言うのか?」


「いえいえ、滅相も無い。ただ、幾ら高性能なAPが相手だからと言っても性能が必要過多だと思ってしまいまして……その……出過ぎた事でした!申し訳ありません!」




 彼はモニター越しに敬礼し謝罪した。




「いや、良い。君の疑問も尤もだ。ならば、1つ問おう。君は想定外の敵と対峙する時どう対処する?」


「想定外の敵ですか?教科書通りならそれすら想定したリスクヘッジをすべきだと考えます」


「そうだ。だが、言うだけなら簡単だ。問題はどこまで見据えて準備出来るかだ。我々はケルビムを作る際にAPを殲滅する事も想定に入れていた。こちらがAPにやられる際の試算もした。想定外込みで大隊規模ならやられる可能性は示唆されていた。だが、蓋を開けたらどうだ。たった1機に我々は撤退を余儀なくされ、ケルビムは大破だ。誰がこの想定外を想定した?あんな化け物が世界にいると誰が予測できた?」


「確かにその通りですが、前回の戦闘では奴の限界速度は12倍の様でした。その2倍強の数値は大き過ぎるのでは?」


「言っただろう。想定外を想定せねばならないとならん。もし奴が現れた時また想定を超えられたら叶わん。我々にとってこの戦いは重要な意味を持つ。想定外でしたでは許されんのだ。想定外の想定外まで想定しなければ成らん時代になったのだ」




 この戦いは負けられない故に声に自然と熱が籠る。

 統合政府を壊滅させねば、自分達はいつまでも隷属される。

 使い捨てのように扱われ、虐げられる。

 ここで壊滅させねば、我々の命はいつか尽きる。

 いつまた、コロニーを攻撃されるか分からないのだ。

 世界は変わらない。

 幾ら改革を進めようと弱者を虐げるのが人間だ。

 そう言った虐げられた者達の気持ちなど彼らは配慮しない。

 何かにつけて自分達の正義をチラつかせる事に辟易する。

 殺るか殺られるなら先に殺す。

 それを教えたのは地球統合政府自身だ。

 だからこそ、負けられない。




「その為の2倍の見積もりですか」


「そうだ。打てる手は全て打っておかねば成らん。それにだ。私の予想ではこれでも見積もり不足を否めない」


「これでもでありますか!」


「相手は人間では無い。一個単位の兵士では無いのだ。人間扱いしていたら奴には勝てない。恐らくだが、奴はこの想定外すら超えるかも知れん」


「あの戦いから1ヶ月経ってないんですよ。そこまで限界値を超えるとはとても……」


「だが、油断は禁物だ。それにこれだけの対象捕捉システムがあれば並みのAPなら容易に迎撃可能だ。どの道、この措置に損は無いのだよ。悪いがこの話はこれでいいか?」




 ウィーダルは次の指示を出さねば成らなくなった。




「は!貴重なお時間ありがとうございます!御武運を!」




 男は通信を切った。ウィーダルは席に「ふぁ……」とも溜息を整える。




「さて、ここからが正念場だ。アリシア アイ。奴は必ず来る。その時こそ決着の時だ」




 彼は静かに闘志を燃やす。

 あの時の雪辱を必ず晴らす。

 あの事件は彼の中で最大の驚きでもあり、最大の汚点でもある。

 だからこそ、意地でも負ける訳にはいかない。

 ケルビムⅡは大気圏に入った。

 バリアを展開すれば容易に突破出来るが、それではエネルギーロスだ。


 ウィーダルは冷却やスラスターの減速を指示しながら徐々に地球に降下していく。

 大気摩擦が円盤を赤く輝かせる。

 恐らく、地上ではもう此方の突入は把握しているだろう。

 ニジェールのあるアフリカ最大の基地であるエジプト基地と近隣な海域にいる戦艦からミサイルとレーザーが放たれたのを確認した。




「前面50の32と21の68にバリア展開!」


「了解!50の32と21の68に展開!」




 ウィーダルの指示で部下がバリアを制御した。

 メインモニターに表示された縦横100マスの区分。

 これがバリアの制御単位だ。

 50の32とは、「縦50番目横32番目だけにバリアを展開しろ」と言う意味だ。


 無論、そこだけにエネルギーを注ぐのだから、それ以外の漸弱になる。

 だが、そんなのは杞憂だ。

 ウィーダルの予測通りエジプト基地からの攻撃は50の32と21の68に集中して直撃した。

 地上では目標への命中を確認して安堵しているだろう。


 だが、その希望と言う幻想は数秒で消える。

 弾幕煙からその巨体が再び現れれば希望を砕くには十分だ。

 エジプト基地は再度ロックオンを開始した。




「次!72の51、41の86!」


「了解!72の51、41の86!」




 再び、ピンポンントでバリアが展開された。

 エジプト基地からの攻撃が命中した。

 今度こそ!と希望を抱くが数秒で絶望に変わる。

 ADは大気圏を突破し悠々と地上に向けて進撃していた。

 エジプト基地の司令官は悪夢を見ている様だった。




「馬鹿な……あ、あれだけの弾幕で無傷だと……こんな……在り得ない」




 これが宇宙のハゲ鷹と言われたウィーダルの力だ。

 多くの艦隊戦で培った経験で敵の攻撃ポイントを直感的に把握しているのだ。

 こんな芸当が出来るのはウィーダルだけだ。

 エジプト基地では対応を追われていた。




「敵!ニジェールに降下しています!このままでは後数分で地上に到達します!」


「直ちに近隣の部隊に連絡!ニジェールに迎えと伝えろ!」




 最早、彼らの希望はニジェールに封印されているバビロンRだけだった。

 エジプト基地はAD基地に潜入した部隊が、ADを接収するのを待つだけだ。

 だが、作戦予定終了時刻が過ぎているにも関わらず、部隊からの連絡は未だ来ない。

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