降誕福音戦役

バビに流れる蒼い光

 円卓と赤いカーペットと天井を照らすシャンデリアしかない部屋。

 そこに地球の王となった(と思い込んでいる)男、宇喜多がいた。

 彼は数日前に起きたガリア隊の最後の戦闘映像とこの数日に起きた自分にとって不都合なGG隊に関連した事件の資料を見ていた。




「何故、コードブルーが生きている?」




 彼は資料を見ながら忌々し気に苛立ち、グスタフ マクレーンにぶちまける。




「交戦したガリア隊に交戦記録がありました。ガリア隊は全滅した様です」


「そんな事はどうでも良い!間違いないのか?お前は死んだと報告したんだぞ!」


「声紋からして間違いなく本人です。それとコードブルーの介入により我々の支援者たるリオ ボーダーが解任され、コードブルーを基軸とした外部独立部隊が完成しました」


「何でそんな部隊が出来るんだよ!出来る前に潰せば良かったろう!」


「それが具申から僅か1時間の間に決定した事の様です。これでは介入の余地がありません」




 宇喜多はテーブルを強く叩いた。

 反動で置かれていたワイングラスが床に落ち、中に入ったワインが零れる。




「ふざけるなよ!王は俺だ。俺の断りもなく勝手な事をしやがって……絶対に……潰してやる!」




 怒り狂う宇喜多はアリシアを潰そうと新たな指令を用意し始めた。

 




 ◇◇◇


 

 

 時は宇喜多がアリシアの存在に気づく少し前に遡る ワープ中


 一気にイギリスを経て、ベナン基地まで戻ろうとしたアリシアは不意に鋭く捉えた。

 ワープ中の空間を認識できないのでユリアはコックピットで石の様に硬直している。

 ユリアにとってこの空間は認識出来ないくらい、ほんの一瞬の出来事だ。

 時間の流れが異なり認識能力の高いアリシアくらいにしかこの空間で活動出来ない。




「アスト」




 アリシアはアストを呼んだ。

 外で起きた異変を確認する為だ。




『現在、バビ国家の中を移動中。ですが、外では国家側がレジスタンスと交戦中。バビ軍基地半径10キロが戦域となっています。バビの独善的な労働基準に反抗したテロです。ですが、このまま行くとバビが隠し持つ”悪魔の咆哮”を使われる可能性が極めて高いです』




 悪魔の咆哮

 アリシアにとって初めて戦った因縁とも呼べるAPの事であり、かつ忌むべき存在であり、無視する事は出来ない。

 それに単なる戦争では、終わらないようだ。

 少し不味い意味で空間が多少、歪んでいる。

 恐らく、悪魔の咆哮に含まれるWNが次元に干渉しているのだろう。

 兵器実験で試射をしたなら影響が出ているはずだ。

 その結果、例のが現れる可能性を秘めていた。




(早く何とかしないと……)






 アリシアは即断即決する。

 




「両陣営を叩きます。互いに交戦力を低下させ、撤退させる。わたしが市民への被害が想定される攻撃をしたら全てキャンセルしなさい」


『了解。その前にユリアさんを後ろの席に固定した方が良いかと?』


「あぁ、そうだね」




 アリシアは硬直したユリアをコックピットの後ろに座らせ、シートベルトで固定した。

 本来は非常食等を積載するスペースでシートベルトも人間用とは、言い難いがそれでもシートベルトしないとユリアが死ぬかも知れないので多少の事は我慢して貰う事にした。


 


「それと”慣性変換”と”加速度変換”をユリアに付与して、ユリアの生存維持を優先して、自己循環器系は全てユリアに使って」




 ユリアがアリシアを信じた事でユリアはアリシアの民となっている。

 民である以上、アリシアからスキルの譲渡が可能になっている。

 また、神の規格に合わせて作られた自己循環器システムならまず、戦闘中に生理バランスを崩して興奮する事は無い。

 極度の興奮も抑えてくれるのでとりあえず、安心して戦える。





『了解』


「これで良し!良いよ。ワープアウトして!」


『了解。ワープアウト!』




 アリシアは新たな戦場に脚を踏み入れた。




 ◇◇◇




 バビ連合国家


 大戦中に出来た独立国家。

 旧スーダンとニジェールの東側、北中央アフリカとナイジェリア東側にかけて国土を持つ独立国家である。

 ADに対する対抗策として旧スーダンが戦時の混乱を利用して他国を占領、砂漠の砂を手に入れ、ケイ素産業を発展させ、アメリカと中国両陣営にシリコンを輸出する事で媚を売り生き残った国家群である。

 また、大戦中に戦力に対する危機感も相まって戦力として、サレムの騎士の前身であるイスラム過激派を戦力に取り込んでいた。


 今では独立国家を維持する名目を掲げた立派なテロリスト支援国家になったが、統合政府も市場のシリコンの供給の20%を担っているバビを滅ぼすのは市場を混乱させると考えており中々、手が出せずにいる。

 また、過度にシリコン特化産業にした所為で、国内ではシリコン職とその他の職との間で職業差別が発生、それに起因したテロも発生している。

 そして、今まさにその節目となる大きな戦闘が起きていた。




「我々を食い物にする国家を許すな!もっと快適で自由労働を勝ち取れ!」


「レジスタンスを許すな!ケイ素で出来た我が国家の恩恵を崩す反逆者達は!子供であろうと容赦するな!」




 市街地周りの砂漠では、進行して来たレジスタンスと市街地にある基地を守る為に防衛をしている国家軍が激しい戦闘をしていた。

 物量も兵器の質も国家軍が優位だった。

 バビ国家はサレムの騎士の支援国だ。

 国内では半ば合法的にテロリストを戦力に加えている。


 最近になり隣の国ニジェールから統合政府に反発する者が続出、バビ国家の軍事力は急激に伸びていた。

 このまま不確定要素起きなければ、レジスタンスの敗走で勝負が決まる。

 そんな戦場に一閃の蒼い光が走った。

 それは夜の暗闇を引き裂き、まるで全ての不浄を消し去るほどに眩く、夜である事すら忘れる程の一閃が辺りを包んだ。




「なんだアレは?」


「こっちに向かってくる!」




 アリシアはワープアウトすると冷静に今の状況を把握した。

 今の彼女は余程の事がない限り人を殺せない。

 無暗に人を殺せば、大抵の人間は地獄に落ちる。


 地獄に落ちた人間の意志はWNを伝い次元と因果、運命を揺らす。

 怨念とも言えるだろう。

 その怨念はサンディスタールの力となり更に大きな災いと戦いを引き起こす。

 故に彼らにを伝えるまでは簡単に人を殺す訳にはいかなかった。

 無論、殺さねばならない時もあるが、今回の様な大きな紛争では望ましくはない。




『被害を考えると刀による接近戦を推奨』


「了解」


「アレ?もう着いたって、わぁ!」




 機体の突然の揺れにユリアは驚く。




「何々?!どうなってるの?!」


『ユリアさん。アリシアお姉ちゃんはちょっと急なお仕事をしないとならないんだ。少し揺れるかも知れないけど、我慢して下さい』




 アストは戦闘に入ったアリシアに代わりにユリアを宥める。

 アリシアは一気に戦域に侵入、交戦を開始した。

 交戦中の両機は敵の援軍と思い、ネクシレウスに銃口を向ける。

 だが、アリシアの前では弾丸は子供が投げるボール並みの速度だ。

 スラスターを噴かせて横に消える。




「速い!」




 敵の尋常ではない加速にロックオンサイトが追いつかない。

 アリシアは横に避けたと同時に刀を抜刀した。




「行くよ」




 アリシアは敵がこちらに銃口を向け直すよりも速く接近した。

 その速度は平均値で通常のAPの12倍の速度が出ていた。




「バカ……」


「は、はや……」




 言い切る前に両軍の機体は腰の重心変化装置ごと上半身と下半身を両断された。

 両軍の識別信号に撃墜マークが表示され、両軍は同士討ちだと初めは思った。

 だが、次々と両陣営のAPがマップから消えて行く。

 互いの指揮官は唖然とする。




「なんだ一体!」


「友軍が消えていく!」




 すると、各隊の分隊長から連絡が入る。




「敵と接敵。は、速い!まるで蒼い閃光……ぐはぁ!」


「何だ!あの速度わ!ロックオンが追いつかない!う、うはぁぁぁぁ!」




 互いの分隊長が撃墜された。

 



 レジスタンスの指揮官が通信を入れる。




「おい!無事か!」




 分隊長が応答する。




「ああ。無事だ。下半身を斬られた。もう戦闘は出来ない。回収を頼む」

 



 国家軍の指揮官が通信を入れる。




「こちらCP!返事をしろ!」




 分隊長が応答する。




「CPへ。生きています。だが、下半身をやられた。戦闘は出来ない。回収部隊を頼む」




 レジスタンス間でやり取りを行う。




「敵はどんな奴だ!数は!」


「1機だ」


「1機だと?」


「だが、途轍もなく速い。旋回能力も尋常じゃない。殆ど目で追いきれない速さだ」

 



 国家軍間でやり取りを行う。




「アレは化け物です!アレを動かしているのは人間じゃない!」


「何か、特徴はないのか?」


「機体がガンメタリックな蒼である事以外分かりません」




 互いの指揮官は、まるで敵同士が連携するかの様に同じ指示を出した。




「全軍に通達する!レジスタンスと思われる蒼い所属不明機が戦場を荒らしている。見つけ次第殲滅せよ!」

 

「ただし、交戦は市街地に限定する。敵には破格の機動スペックがあり殆ど反撃の余地を与えず接近戦に持ち込まれる」

 

「そこで市街地に敵を誘い込み市街地の死角と機体の小回りを利かせ敵の機動性を削ぎ落とす」

 

「相手の機動を落としたところを奇襲するんだ。敵は1機だ」


「万が一敵が上空に逃げようとしてもだ。我がバビ軍の衛星が空から蒼い機体に攻撃を仕掛け空を封じ、君達を援護する」


「「確実に撃ち落とせ!」」



 

 全軍が市街地に向けて、集結し始めた。

 互いが互いに蒼い機体を敵の最終兵器か何かと思っていた。

 その様子をアリシアは見ていた。




「まぁ……これだけ倒せば、普通そうするよね」




 アリシアは既に両陣営合わせて50機近いAPを落としていた。

 敵の残り戦力は両陣営合わせて200。

 2連隊並みの戦力だ。


 普段通り行けば、朝飯前の数ではある。

 不安要素があるとすれば、AP乗るのが久しぶりなので感覚が戻らない。

 今まで砂漠とか宇宙とか神様とか地獄の群勢相手に正面しか戦えなかった。

 詰まる所、彼女の戦闘経験が「真っ向勝負」ばかりだ。

 今回の様な不意打ちを狙う戦いに対して攻守共にまるで無知。

 正面切って戦うなら彼女は間違いなく世界最強だ。

 だが、市街地戦はもはや未知であり、アリシアは確信していた。




「アスト。念の為に聴くけど私の市街地での戦闘能力って、どの位?」


『ハッキリ言って他の能力と比べて弱いです。このまま勝ちたいなら市街地ごと吹き飛ばすことをお勧めします』


「それは絶対ダメ!不味いな。闇雲に行って装甲値でゴリ押し……いや、やられないにしても時間かかるな。建物ごと斬り捨ててサラ地に……それだと市民がいると不味い。どうしようアスト……」




 アリシアは困り果てた。

 最強、故の弱点で細かい事が出来ない。

 スキルを使えれば良いが、信者が少ない現状使うべきでもない。

 無理すれば使えるが、出来れば体に負担はかけたくはない。

 神になった事でサンディスタールからの妨害も強くなっている。


 発動率に関しては今のところ問題ないがその分、神力の消費は多めになっている。

 そうなると悪霊と言うサタン系のWNが入ってくるのだ。

 浄化のスキルがあるので何とかなるかも知れないが、それも敵がどの程度、妨害するかにもよる。


 ただ、かなり強い妨害なのは間違いない。

 何せ、少し前に使ったアーサー エクスカリバーが既に使用不能状態になっている。

 しばらくすれば使えるようになるが、聖剣の使用に制限をかけるほどだ。

 妨害はかなり強いはずなのだ。

 やはり、無闇にスキルは使わない方が良い。

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