GG隊発足

「FBIの長官が……ファザーだと!」


「その通り。FBIの長官など始めからいなかった。故に第3者機関はまるで機能していない。コードブルーはその真相を突き止めたんですよ。捜査機関はまるで仕事をしない。自分が証拠を集めても効果がないと感じた彼女は私に独自のコンタクトを取りました。まぁ多少、酷い目に会いましたが私は彼女との繋がりを持っていました」




 それにリオは怒鳴り声を上げて反駁した。




「嘘だ!でたらめだ!そもそも、コードブルーは死亡している!死人がどうやって新設部隊を具申する!」


 

 

 さっきまで「アリシアが具申した」と言う話があったと言うのに今更と思えるような発言に電話越しのアリシアは呆れていた。

 都合が悪くなると都合の良い時に事実をなかった事にする人間の悪癖を改めてみた瞬間だった。

 だから、アリシアはヒゥームにこのようなセリフをあてがう。




「生きていますよ。そのように装っただけで」


「何だと……」


「一度は死の淵を彷徨ったそうです。ですが、生き返った。それで彼女はファザーが自分を殺しに来た事を悟ったのです。ですから、ファザーが作りあげた戦争の火種を消す組織が必要と考え始めた。それがGG隊です」



「そんな真相だったのか……」とヒゥームは彼女から渡された情報に目を通した。

 見た限りボーダーが作成した命令書、カイロ武装局へのアクセスの痕跡、現場指揮をしたボーダーの肉声の内容。

 疑いようがない。

 ヒゥーム(アリシア)はビリオ大統領の感情を動かす為にトドメを刺した。




「大統領。あなたはこのままで良いのですか?」


「……」


「あなたの孫はこの男の茶番で殺されたのですよ。いや、世界にはファザーの茶番で起きた戦争で多くの被害者が生まれている。難民は増え、飢えに苦しむ者を産み、迫害や誹謗中傷を受け、新たなテロが次々と産み出されている。我々は戦争再発防止の為に結成された3均衡だ。此処でこの茶番に終止符を打たねばなりません!大統領!民意を持つ貴方には3均衡解任権が与えられている。今、それを行使すべきです!」


「……」




 彼は無言でスマホ型PCを操作した。

 すると、会議で投影されたボーダーの姿が消えた。

 この瞬間、ボーダーは解任された。

 そして、ビリオは何処かで電話をかけしばらくすると電話を切り口を開く。

 それと同時にアリシアは「もう自由に話して下さい。電話はこのままで」と言って何も言わなくなった。




「今、わたしの権限で軍を動かした。ボーダーを拘束する様にな」


「大統領……」


「これを見る限り疑いようはないだろうが、何分慎重に成らざるを得ない。ボーダーはまだ逮捕はしない。証拠の精査が終わるまで権限と身柄を拘束するだけだ」




 大統領は項垂れた。

 とんでもない過ちに気づき、後悔と慚愧の念で押し潰されそうだ。




「ヒゥーム。私がもっとしっかりしていれば、孫は死なずに済んだのだろうか?」


「それは神ではない私には解りかねます」


「神か……そうだな。もし、いるならそれは神にしか分からないのだろう。きっと神が今のこの世界を見ればこんな茶番戦争をさぞお嫌いになり人間に愛想尽きるだろうな」




 ビリオは深く溜息を尽く。




「我々がテロリストと呼んでいた彼らも、もしかしたら私の不甲斐ないさで作られた虚構だったのかも知れない。そう考えるとわたしは自分がした事が馬鹿げていて仕方ない。何の為に放火を容認したのかも分からなくなりそうだ」




 ビリオは後悔と慚愧が更に高まり、悔いる気持ちで満ち溢れた。

 平和の為にした事が全て裏目に出ていた。

 知らなかった。

 いや、何処かで気づいていながら、止められなかった自分の弱さを痛感した。

 何故、止めなかったのか?止めていれば孫は死なずに済んだかも知れない。

 後悔先に立たずとはこの事だと激しく嘆く瞬間だった。




「ヒゥーム。コードブルーは独自でこれだけの証拠を集めたのだな」


「えぇ。その様に聞いています。大変優秀な女です。一介の兵士のスペックを明らかに逸脱しています」


「確かに我々でも知らぬ事を1人で調べ上げる。下手をすれば我々が用心しなければならんかも知れんな」




 ビリオは少し間を置いて沈黙し熟考した後、決心をつけて口を開いた。




「だが、それ故に今この世界にはそれだけの力が必要なのかも知れない。我々は我々自身を律する目を必要とされるのかも知れない。ヒゥーム。コードブルー、アリシア アイと連絡は取れるか?」


「丁度、今電話が繋がっております。回します」




 ヒゥームはCPCを操作しアリシアに繋ぎ直した。




「もしもし」


「コードブルー。アリシア アイ中佐ですか?」


「そうです」


「地球統合政府大統領 ビリオ・ハルバートです」


「初めまして大統領閣下。お話しできて光栄です」




 アリシアは儀礼として丁寧な口調でビリオに挨拶した。

 礼儀を重んじるのはアリシアと言う神にとっては当然の事であり、これから人類を救う上で必要な必須スキルとも言える。

 一応、地球の代表者と言える人間に非礼無く接するのは丁度いい練習でもあった。

 練習そこそこに挨拶を済ませるとすぐさま要件を入った。




「それで新設部隊認めて頂けますか?」


「その前に聴きたい。君は何者なんだ?君は不可思議だ。君の活躍は私の耳に入っている。だからこそ、気になる。この僅かな間に君は在り得ない程の戦果を残している。それに君はまだ15の乙女だ。そんな1人の少女にこれだけの力があるのがわたしには不自然で成らない。だから、君の正体を教えてくれ」




 アリシアは一瞬、迷った。

 自分の事を正直に伝えるべきなのか?伝えて、伝わるのか?

 いや、正直に語らないのは自分に疚しい事がある事を現してします。

 だから、素直に正直に答える。




「わたしは自分の事を人間と思ってる。でも、ある人はわたしの事を神として扱った」


「神か……」




 確かにそう言えるかもしれない。

 宇宙神を倒せる同等の存在。

 それは即ち、神と定義しても良いのかも知れない。

 少なくとも彼女が魔法的な人知を超えた力を使えるのはビリオも知っている。

 そう言う意味では、誰かが神と讃える事もあるかも知れないと解釈した。




「最初の頃のわたしは賢しく、無力な愚か者で何の力もありませんでした。でも、自分が惨めで弱い存在と分かった時、初めて道が開けた。強い人から力を借りて私は貴方達の言う偉業を為して来た。そして、わたしは次第に力を付け強い人に御礼をし方を並べ「お前は立派に成った」「今日から神だ」と言われただけの只の人間です。だから、私が貴方に言える事は1つだけです。己の弱さを認められない人間に未来はない」




 ビリオの彼女の15とは思えぬ貫禄に面喰らう。

 娘にしては生きた経験の重みすら感じさせるほど重厚で、それが自然と彼女に雄弁さを与え「そうか。得心した」とビリオを自然と納得させる。

 ビリオが分かったのは自分の弱さを認められず、権力を振舞った自分に誰かを救う事は出来ないと言う事だった。




「それで君は何を所望する」


「まずは、今から送る物が取り急ぎ必要です」




 彼女は所望内容をメールで送った。

 ビリオはメールの着信を確認すると「了解した」と答えた。




「では、決断しましょう。わたしは新設部隊GG隊を承認する」


「私も同意だ。なお、ボーダーは権利を剥奪されている為、これで3均衡の全会一致とし現時刻を以てGG隊を発足する。なお、GG隊には世界全域での武力行使、憲兵としての各種権の行使、警察機関との連携を認める」


「ありがとうございます。では、早速権利を行使したいのでアメリカ地区ジョージアの警察と軍にこの決定を至急伝えて下さい。10分後に権利を行使します。それと閣下。加えて、お知らせがあります」


「何?まだ、あるのか?」




 色々な事が一気に起き過ぎて疲労困憊ぎみのビリオは何とか精神力を振り絞り耳を傾ける。




「今、わたしは客人と行動しています。その客人があなた達とコンタクトを取りたいそうです」


「それは誰が?」


「ラグナロク神国のロキ大神大将です」




 ビリオもヒゥームのその名を聞いて白目になりそうになるが、必死に堪えて傾注した。




「何?敵国が我々とか?しかも、地球圏にいるのか?」


「それに関してはわたしが監視しております。彼らも地球には干渉しない姿勢を見せています。内容と和平交渉の前段階と言う形を取りたいそうです。日程の調整が出来ましたらご連絡下さい。それでは失礼ながら多忙につき、これにて失礼します」





 そう言って彼女は電話を切った。

 彼女は宣言通り1時間満たない間に新設部隊を受諾させ、あまりの激動的な展開に物凄い疲労感に襲われ、ビリオは席にもたれる。




「……とんでもない娘だ。我々を手玉に取りおって」


「アレには極東の御刀も苦労している様です」


「あれだけパワフルに動けばそうだろう」


「若いですからね」


「と言うより臨海寸前の核融合炉みたいな女だ」


「しかし、まさか宇宙神との交渉か……さて、どうなる事やら……」


「それは今からメンバーを編成しなければならないな。相手は仮にも神だ。無礼を働かないように努めねばならない」




 それから3均衡はアメリカのジョージアの警察と軍に新たな命令を発令した。

 それから数分しない内にGGと名乗る組織から違法な人体改造に加担したと思われる人物のリストが送られた。

 警察は資料にあったジョージアにある人体改造されたと思われる現場に急行。

 森の中にあった小屋の地下室の中から人体改造に使ったと思われる様々な器具と実験カルテを押収。


 カルテには記入者が記述されていた。

 それから数日後、改造に加担した軍属とローゼンタールと繋がりがあったジョージアの上院議員、及びローゼンタールの技師する数名が逮捕された。

 更に上院議員からは村を襲う様に指示を出した殺人未遂による再逮捕も重なった。

 アリシアのその連絡を受けた。




「今、逮捕されたようですよ」



 

 昼に始まり1時間でGG隊発足、そして、事件の容疑者の逮捕まで僅か数時間で行われ、既に辺りは夜になっていた。

 村人は歓喜に沸いた。

 これで村を救われた。

 事件の調査の為に近い内に軍の憲兵が派遣される。

 なお、今回の件で村の鉱山資源は村の正式な財産となった。

 無論、手続きはアリシア(アスト)がやった。

 そこでもう1度正式な再交渉が行われるらしいが、それは軍人ではなく民間のネゴシエイターだそうだ。




「いや、アリシア様。何から何までありがとうございます」


「ううん。良いの。でも、これだけが確認したいな?わたしの事信じてくれた?」


「はい。勿論でございます。あなた様はまごう事なき神でございます。わたし達は神がお与えに成った信仰を守り、この地で生きていきます」


「そっか。ありがとうそれだけでわたしが救われました」


「はっはぁぁぁ!勿体なきお言葉です」


「じゃ。わたしは次の使命があるから行くね」




 アリシアは大きく手を振りコックピットに乗り込んだ。

 村人はアリシアに深々と頭を下げ見送った。




「さぁ、行こうかユリア。皆があなたを待ってる」


「うん。帰ろう。お姉ちゃん」




 アリシアはネクシレウスのスラスターを噴かせた。

 ネクシレウスは加速していき、一直線に消えて行った。

 そこには姿を隠した客人を連れて……。

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