戦神1人で戦う
『でしたら、アカシックレコードにアクセスして、市街地戦のプロの戦闘データをトレースするのは如何でしょう?』
アリシアは手のひらをポンと叩いた。
「その手があった!私と相互性のある有力データは?」
アストはアカシックレコードにいる管理者天使アーカリアにアクセス、検索をかけ、僅かな間にすぐに結論を出した。
『リナと言う。女性パイロットのデータが有効と判明。実行しますか?』
「なら、実行!」
アリシアは即答した。
『実行開始!』
しばらく、沈黙した。
すると、頭の中にデータが流れ込んでくる。
断片的にその人の記憶の様なモノも垣間見る。
垣間見た情報でリナが自分とは無関係ではないと言うのは分かったが、それはさて置いて読み込みを完了した。
「良し!行くよ!」
アリシアは勢いよく脚で駆け出し地面を轟かせながら走り出した。
そして、勢いよく急ブレーキをかけた。
「ん?」
違和感を禁じ得ない。
(アレ?何で今、走ったの?APならスラスター使うんじゃ……)
『あっ……』
アストが突然、間の抜けた声を発した。
『アリシア。私は少し勘違いをしていた様です』
「ふぇ?」
『そのデータはこの世界の人間のモノではありません。別の世界のAP擬きのパイロットデータでした』
「AP擬き?」
『どうやら、我々の世界とは、だいぶ離れた世界の市街地戦のプロのデータだった様です。そのAP擬きにはスラスターが無く、足を使った機動が基本の様です。ですから、APの機動の本質が違い過ぎますね』
「……」
あまりに事に2人の言葉が詰まった。
『すいません……』
アストは申し訳なさそうに呟き顔など無いが、きっと頭を下げ項垂れている事だろう。
「あなたは悪くないよ。確認しなかった私が悪いわ。なら、今度はこの世界のプロのデータを……」
『アカシックレコードへのアクセスも軽度とは言え、御業です。乱用は良くない』
「でもね……APが走ってもせいぜい150キロ前後だよ。明らかに速度不足だよ」
『この際、諦めて普通に突撃しましょう』
「結局、そうなるのか……仕方ない!」
やはり、自分の戦闘を貫くのが一番と思い、アリシアは機体を市街地に向けて加速した。
「来たな!国家の犬め!」
「現れたな。レジスタンスの残党が!」
まずは国家軍が作戦通りにまず、大通りでアリシアを迎え撃つ。
ネクシレウスは直進的な大通りをスラスターを左右上下に噴かせ、肢体を駆使して避ける。
当然の事だが、弾丸は命中しない。
「ち!化け物め!これだけの弾幕普通に躱すじゃね!」
敵の回避能力の高さには、脅威を通り越して敬意すら抱く。
ただ、速さを活かした小狡いだけだと思う者もいたが、敵は確実にこちらの動きを見て、弾丸を予測し、見切っていると分かる。
腕のほどは本物であるのは見て取れた。だが、それもここまでだ。
国家軍の指揮官が命令を出す。
「隠れろ!」
部隊は命令に従い、建物の路地裏を活かし建物の影に隠れた。
アリシアは自機の加速を慣性無視して路地裏に入ろうと機体を90度に反転した。
敵はその隙を逃さず、横道から現れ、銃口を向ける。
アリシアは右から迫る敵に振り向き、内臓されたスラスターの瞬発的な推力をかけ、自機を加速した。
スラスターの反力を利用して大きく後方に跳躍、宙返りしながら空中に上がる。
恐らく、敵は自分が反転したところを狙う。
背後を取られる前に急いで距離を取った。
「奴が空中に上がった!ミサイルで撃ち落とせ!」
人工衛星が彼女をロックオンした。
戦域にいる以上、彼女を以ってしても、必ずロックオンされる。
戦域外にあるミサイル車からアリシアに向けて砲撃が行われる。
「やはり、空も封じて来たか!」
分かっていても為す術がない。
下手に高度を下げる訳にはいかない。
アリシアが下を見ると逃げ惑う人々がまだ映る。
国家軍がレジスタンスとの交戦を一時停止した事で攻撃の手はアリシアに向いた。
それが市民への被害を避けていた。
昔の自分なら自分を犠牲にした上で市民を見捨てる価値観を持っていたかもしれない。
一歩間違えれば、シンの様に市民を見殺しにする考えをした自分もいたかも知れない。
だが、それは出来ない。
今、高度を下げれば爆撃が市民に及ぶ可能性があり、今の自分には市民を見捨てる事は出来ない。
良心と自分に課せられた義務感が見捨てる事を拒む。
アリシアは飛んでくるミサイルを刀で斬り裂いた。
信管だけを的確に斬り裂き、地に落とし空を縦横無尽にかけながら、ミサイルを斬り裂く。
地上にいる敵も自分に目掛け銃口を向け発砲する。
ライフルが使えれば、ポジションを変えようとしない敵を一網打尽に出来る。
尤も市民への被害を考えると跳弾が怖くて使えない。
だが、こちらがライフルを使えない事を良い事に一方的に撃ってくる。
アリシアは通常の機体が行使出来ない通常の瞬間速度24倍の速度で機体を駆る。
最早、敵には瞬間移動している様にしか見えない。
すると、ミサイルの弾着がズレ始めた。
「どうした!弾着ポイントがズレているぞ!」
「敵が速すぎて衛星のロックオンが追いつきません!」
「何!そんな馬鹿な!」
その事にアリシアも当然、気づく。
「弾着がズレてる!良し!更に加速すれば地上のAPなら!」
アリシアは勝機を見出し機体の加速を上げていく。
『アリシア!機体速度を落として下さい!』
「何か問題?」
(機体コンデションも体調も問題ないはず……何が問題なんだろう?)
『ユリアさんのバイタルが急変しています。これ以上の加速は彼女の生命維持に関わります!』
よく聴くと背後のユリアの激しい吐息が聴こえる。
アリシアはこの殺人的な加速の中でも生きていける。
だが、ユリアは違う。
例え、慣性変換や加速度変換、自己循環器システムを使ったとしても6歳の女の子に耐えられるGではない。
1人で戦って来た時間が長過ぎた所為なのかも知れない。
他人への配慮が欠けている自分に気づく。
敵の気配や些細な動き、思考を敏感に読み取れるのに意識的に他人への配慮が自分から消えていた。
「ごめん……ユリア……」
アリシアは機体の速度を落とし、ユリアの負担を考慮し通常の瞬間速度の5倍にまで落とした。
ユリアの表情は和らぎ、バイタルも安定した。
「敵。急に速度を落としました」
CPのオペレーターの知らせを受け、指揮官はニンマリとした。
「そうか。どうやら、敵はスタミナ切れの様だ。このまま畳み掛けろ!」
ミサイルの弾幕は更にアリシアに注ぐ。
アリシアに出来るのは下からの攻撃を避け、ミサイルを斬り裂く事だけだ。
すると、レジスタンスのAPが接近して来た。
レジスタンスのAPは好機と見たのか、国家軍のAPに発砲した。
どうやら、レジスタンスはネクシレウスを敵とは、認識しなくなっていた。
「クソ!レジスタンスめ!邪魔をしよって!レジスタンスにも砲撃を向けろ!撃て!」
衛星のロックオンがレジスタンスにも向いた。
「いけない!」
アリシアには衛星のロックオンがレジスタンスに向いたのが分かる。
このまま撃てば地表に被害が傾く。
「ここで取れる最善の手は……」
アリシアはミサイルの弾幕が薄くなった僅かな隙を突いて、地表のレジスタンス目掛け突貫した。
レジスタンスは友軍と思われた蒼い機体の思いがけない接近に戸惑う。
アリシアはそのままレジスタンスのAPを切断した。
レジスタンスにロックオンされたミサイルは対象を失い自爆した。
だが、アリシアは気づいた。自分は一瞬でも地表に降りた事で、下にいる逃げ遅れた母親と娘がいる事に気づいた。
弾幕が迫る中でアリシアは躊躇しなかった。
弾幕が迫り、アリシアは我が身を盾にして弾幕から親子を守った。
だが、止まったアリシアにミサイルは容赦なく降り注ぐ。
国家軍のAPも間接的とは言え、自分達の命をレジスタンスから救ったアリシアに無慈悲に弾丸を注ぐ。
アリシアはその場から動けなかった。
自分が離れれば親子が死んでしまう。
幸い、ネクシレウスの装甲はアストロニウムで出来ている。
地獄程の性能は無いがモース硬度は100を超え、カーボンファイバー並みの強靭性はある。
だが、それでも絶対無敵というわけではない。
ネクシレウスの背後の繊細な部分から徐々に削れていく。
右背部マウントハンガーが破損、G3SG-1バトルライフルを保持出来なくなった。
ライフルがその場に落ちる。
本来なら親子には逃げて欲しいが、国家軍が余計な弾幕を張った所為で動けない。
だが、このままやられたままでもいられない。
幾ら硬くても永遠に持つ訳ではない。
「くそ!なんだあのAP!これだけ撃ってるのに。原型留めてやがる」
「くそ!カテェ!くたばれ!」
CPは交戦中の友軍の会話を聞いて、ある思惑が浮かんだ。
「これだけのミサイルと弾幕の前でも壊れないAP。恐らく、未知の技術が使われているに違いない!A小隊。そのまま弾幕を張りながら近づき、敵APを捕縛しろ!」
「「「了解!!!」」」
国家軍のAPはライフルを乱射しながら、ネクシレウスに歩きながら迫る。
「余計な事を考えてくれる」
敵の思惑が伝わる。
だが、チャンスでもある。
敵が接近すれば、ミサイルを自ずと止めなければならない。
捕獲する際も味方への跳弾を抑えて止めるだろう。
反撃のチャンスはそこだ。
「CPへ。対象の下に民間人がいる」
隊長はアリシアの不審な行動に目星をつけた。
「馬鹿な奴だ。市民など守らなければ、優位に立てたモノを……民間人を人質にしろ。そうすれば余計な反撃は出来まい」
「くそっ、変な所に気づくな!」
アリシアはは思わず、舌打ちをした。
これでは反撃が出来ない。
無論、親子を見捨てれば、勝てない相手ではない。
だが、彼等の事を見捨てるのは自分自身の存在意義を捨てるに等しい。
ただの見栄なら、存在意義を躊躇いなく捨てられる。
でも、今のアリシアは人間ではないのでそんな事は出来なかった。
敵はスピーカーで呼びかけて来た。
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