断罪の王

 ロアは高慢な高笑いでシンを執拗に狙い続ける。




「そして、神に逆らいし悪魔は神の手で討たねばならない!」


「お前は!ロア ムーイなのか!」


「如何にも!我はロア ムーイ!時にツーベルト マキシモフとも安室陽 レイヤとも呼ばれた神である!」


「チッ!やはり、そうなのかよ!」




 テリスから話は聞いていた。

 ロア ムーイと言う名前はある種の記号であり、ある大罪人の魂の名前のアナグラム的な記号とされているようだ。

 その魂は複製され、世界をその魂の意志のままに惑わし、世界を混沌に落とす為に敵が用意したモノだ。

 テリスの話ではそれがツーベルト マキシモフの事、ロア ムーイらしい。


 姿、形、趣味嗜好、声が違えど、同じ魂を持つ、故に同じ罪を繰り返す””と言うシステムの一端だ。

 人がかのうせいを信じ尊ぶ事で世界が平和になるとしたらロアはその逆だ。

 ロアは奇跡を見せてかのうせいを信じろと言う俗物であり、それでは可能性を信じ尊ぶ事は出来ない。


 何故なら、奇跡と言う力で人の想いを服従させているのだ。

 奇跡だけを見せたらただの見栄だ。

 奇跡とは真の可能性を尊ぶ上で邪魔なモノでしかないのだ。

 考えなしに無闇に行うモノではない。


 そんなモノに可能性を感じる必要はないが、それに多くの人間は騙され、その力に魅力され、取り憑かれる。

 そして、ロアは「人の心の光」と言う自らの独善を通す為に奇跡を起こし、世を惑わせ、人が善なる存在のように嘯き、悔い改める機会を奪う怠惰の象徴、それがロアの罪だ。

 テリス、曰く、それがロア ムーイと言う魂はどの世界でも似たような事をして回っているらしい。

 このロアはどうやら、他の世界のロアを感じられるレベルにまで成長しているようだ。




「お前は何故、リナ達を殺した!」


「神に逆らいし道具など悪魔と同じだ。神に逆らう者は死ぬ当然の理だ!」


「黙れ、下郎!貴様など神ではない!貴様のような自らの行いを証もしない口先と奇跡だけで世を惑わしている男など神であるはずがない!」




 シンはBushmasterACR A10 アサルトライフルを放ち、スピアで敵に迫る。

 だが、敵から発せられる力場により攻撃の軌道が逸らされ、思うように当たらない。




「フハハハハ!神は絶対の秩序である!神を傷つける事など出来るはずがないのだ!お前のあの虫けら達の後を追うがいい!」




 すると、突然、機体が動かなくなり、シンの体を締め付けるような痛みが襲う。




「くっ……こいつ、アイツよりも使い手だな」




 シンの知っているロア以上に力を使い慣れており、局所的に力を発揮して不意打ち同然に力を行使する。

 ロアは拘束したシンにライフルを向ける。




「くそ!障壁!」




 シンは”防御態勢1”と言う防御に特化したオブジェクトを展開した。

 万物の最小単位であるWNを自分の周りに対流させて攻撃を防ぐ ”障壁”とバルドルから得た”神光術無効”に無数の防御系スキルに”神力吸収”を利用して長期的な防御力行動を取る。

  ロアのライフルは”神光術無効”のスキルで無力化された。

  どうやら、あのレーザーはスキルにより補正されている為、”魔術”として扱われており、”神光術無効”が発動しているようだ。




「光学兵器無効だと!ならば!」




 ロアはすぐさまライフルを捨てて左手で指鉄砲の形を作り、あの力場で出来た弾丸を放った。

 巨大な大口径力場弾がシン目掛けて飛び”障壁”に激突、機体を激しく揺らしシンの神力を大きく削る。

 それをマシンガンのように連射され、シンの神力はガリガリと削れる。

 シンの顔に苦悶が立ち込める。




「くそ……ここまでなのか……」




 シンは機体を無理やり動かそうとするが動こうとしない。

 機体がギシギシと軋みを上げている。




「オレはあんな奴に……」


『ここで負けるつもりですか?』


「……何?」


『わたしが知る限りアリシアさんのこの程度では諦めません。最後まで足掻く事も模索する人でした。あの方は人の気持ちに最後まで責任も持って応える人だ。なのに、あなたは諦めるのですか?リナさんの想いはどうするんですか?あなたは彼女を想っていたはずだ。ハッキリ、言ってあげます。今のあなたがアリシアさんやリナさんと寄り添うなんて片腹痛いと言っているんですよ』




 テリスは普段……いや、今までにない辛辣な言葉でシンに説教した。

 その言葉でシンは目が覚めたようだった。






(確かにな……今のオレではどちらの気持ちにも応えられない。今のオレではアリシアに相応しくはない。今のオレではリナの気持ちに応えるにも役不足だ。そうだな……オレに罪があるとすればオレの罪は怒りに囚われる事ではなく忍耐力がない事だろうな。苦難に遭うと今、見たいに挫折しそうになるわ。意外と簡単に切れやすいわ。怒りに任せて直情型でもある。それがオレの悪いところだ。だが、リナが変わったようにオレも変わらねばならない。アイツが変われてオレが変われないじゃ格好がつかない。ならば、何とかしてみるさ)




『ならば、手はあります』




 テリスはまるでシンの心を読んだようなタイミングであるデータを頭に流した。




「なるほど、そう言う事か……」


『あなたに耐えられればの話ですが』


「なら、耐えてみせるさ。出ないとアイツらに笑われる。ウェア 光神の閃光具バルドルアーマー



 全知全能なる神の眷属は共通効果で偽神の装備を扱える。

 シンはかつて奪ったバルドルの光の鎧を身に纏う。

 テリスの装甲が神々しい光に全身を覆い、雨が降りしきる薄暗い雲の下で燦爛と輝く。




「光神解放!」




 シンのステータスが一気に2乗化される。

 そこから生み出される膂力がロアの力場を引きちぎり、拘束を破る。

 力の奔流が大地を覆い、この世界の地球を震わせる。




「な、なんだ!この力は!」




 ロアはその力の前に呆然と立ち尽くすがシンが答える事はない。

 その力の前にシンの体が軋みを上げる。

 アリシアよりも忍耐力が低い彼では彼女以上の反動を受けてしまう。

 シンは苦悶な顔を浮かべるが歯茎を軋ませ、堪える。

 全ては彼女達の想いに応えるために……。




「神言術!愚かな神々を裁く力をオレに!」




 その瞬間、”神言術”が起動しシンの願いを具現化する。

 アカシックレコードに接続され、情報を取得、分析、構成していく。

 様々なスキルがシンに流れ込み、愚かな神々を倒す刃に昇華していく。

 その中で役職の変化とエクストラスキルにある加護が現れた。




 役職 断罪王


 エクストラスキル


 全知全能なる断罪神の加護




 シンは忍耐し変わった。

 自らを愚かな神々を滅ぼす刃へと生まれ変わらせたのだ。

 残り5秒だ。




「ロアァァァァァァァァァ!!!」




 シンは”高速移動術”とネェルアサルトの複合技で一気に間合いを詰める。

 ロアは何か危険な殺気を感じたのか、シンに力場弾やシールド内蔵ロケット弾を撃って迎撃しようとするが、ステータス2乗化した今のシンの前では全ての攻撃が丸見えであり、神力により体の伝達速度が増し、APとシンとの伝達速度が完全に0となる。


 ロアが心の読むことに長けていようと高次元の存在となったシンの心は一切感知できない。

 そんなシンの前に攻撃など一切当たるはずがない。

 そして、ロアの間合いに入り、コックピットを睨みつける。

 それは神々が潜在的に恐怖する存在、高慢な永遠の望んだ者への裁きの鉄槌。

 その化身と言う名の死神がロアは畏怖させる。




「ひぃぃぃ!!!」


神は裁きダン・オブ・エルアフ!!!」




 至近で放たれた光と炎の刃がコックピットを斬り裂き、永遠と言われたロアを焼き尽くす。

 彼が持った神性も彼が培った永遠も彼が持った魂すらも全て粉々に砕ける。




「馬鹿な……永遠の我が……砕けていく!」


「死ね、糞野郎!」




 シンは止めの一押しにロアのコックピットに刀を突き刺す。

 ロアの叫び声と命乞いとも聞き取れる断末魔と共にロアの機体がうつむせに大地に落ちる。

 シンの力もその瞬間に切れた。

 その瞬間、凄まじい反動が彼の体に圧し掛かる。




「終わった……のか?」


『えぇ、終わりました。帰還はわたしがやります。あなたは体を休めて下さい』





 シンはそれを聞いて満たされたように不意に笑みが零れる。






(何とか、想いには応えた……よな)





 薄れゆく意識の中で誰かに尋ねて見た。

 その時、リナが「うん」とだけ呟いてくれた気がした。




 ◇◇◇



 その後、24時間経過しシンは快調に戻っていた。

 シンがロアを殺した事は世界に大きな波紋を生んだ。

 しかも、偶然なのか必然なのか。

 世界各地を統治していた3賢者がロアの死と同時刻に死亡した事が判明した。

 テリスの話ではその3賢者なんと全員ロア ムーイだったらしい。

 外見こそ違うが魂は同じ者であり、それが断罪王と言う職分の効果により一掃されたようだ。

 断罪王の役目は神の代わりに裁きを下す事。

 断罪した魂が同じなら同一世界にいる以上、その魂全てを処刑する事もできるらしい。

 そして、総意志の否定は世界の変化でもある。

 人間が気づかぬうちに世界は徐々に書き換わり、ロアが起こした因果は全て削除される。

 いずれ、人々の記憶から人間が認識できない内に愚かな神の伝説は消えるだろう。


 難しい事は分からないが、歴史を変えるのは本来できない事だが、シンやアリシア達が介入すればそれも可能らしい。

 加えて、断罪した事でロアが起こした過去、現在、未来の因果を全て削除した。

 この世界も少しはマシな世になるかも知れないが人間とは過ちを繰り返す。

 シンが変えても似たような罪を繰り返すだけだろうがそれはシンやテリスの知るところではない。


 それはその世界の人間の自己責任だ。

 悪い総意志を選んだ事もそれで不自由と堕落の道を選んだ事も全て人の責任だ。

 無関心ではないが流石に全部の責任など神ですら見切れない。

 この旅を通してシンの目的は大きく変わった。


 初めては人間が滅びないように最善を尽くそうとしたがもうどうでも良くなった。

 勝手に滅びたければ滅びれば良い。

 それは人類の自己責任だ。

 何度救っても罪を繰り返すならいつか見放されるのが道理だ。







(レベットのせいで世界が滅びようとロアのせいで世界が滅びようと知らん。ただ、オレは一振りの断罪の剣だ。アリシアやリナが望んだであろう穏やかな平和を守る。世界がどうなろうと知らん。それを乱す愚神達を根絶やしにする。それがオレの目的だ)






 こうして、シンは新たな人生の目的を見つけ、元の世界に戻って行った。

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