蒼き戦神の誕生

 アステリスはコックピットから降りてきてイリシアの前に来てある事を伝えた。




「ふぇ?嘘?」


「えぇ。嘘です」




 思わず、素っ気なく答えてしまうほどの驚きだった。

 突然、「今までの事が全部嘘です」と暴露された。

 いきなり、「今までの事は全て嘘」と言われたのだ。(重要なので2回言った)

 何がどうなっているのかまるでわからなかったのでイリシアは聴き返した。




「えーと。何処から何処までが嘘ですか?」


「わたしがあなたに剣を向けた辺りから全部です」


「……変な事聞きますけど、騙してませんよね?」


「騙してません。神が本気で嘘をつく事はありません。曲がりなりにも神です。神は自身の高慢に他人以上に厳しい存在ですよ」


「なら、エド達は?」


「最初に話した通り凍結されていますよ。地獄にはいません。それにわたしはあなたを道化戦士などと言う者にはしていません。人間の事は今でも救おうと思っています。親が子供を見捨てるわけがないでしょう。まぁ、限度はありますけどね」


「なら、アストは?」




 イリシアは地面にうつむせに倒れるアストに問いかける。




『わたしが協力を呼びかけました。全てはあなたを鍛える為にと』




 彼はさっきから顔を会わせようとしなかった。

 アステリスの意見には賛同していたが、どこか後ろめたさがある様だ。




『サタンとの戦いは迫害が裏切りの中で戦う事です。そこでアステリスからの要請でわたしはアステリスと共にあなたを裏切ってみせた。その中でもあなたが愛を忘れる事なく戦う事が出来るか誠意と覚悟を見ていたのです』




 どうやら、全ては自分に戦っていけるだけの実力があるのかを見る為の演技であり、試験だったのだと理解出来た。

 中々、シャレにならないような試験で複雑な心境ではあったが、そうせざるを得なかったのだろうと思うのでイリシアは何も言わなかった。




「そうだったんだ」


「尤もその為に追い詰めて死んでしまった時は諦めかけました。でも、まさかあんな復活をする事とは想定外でしたよ。神の期待を見事に裏切ったと称えましょう」

 

「あはは……」


「それであの力は何だったのです?」




 アステリスはさっきまで微笑ましかったが急に真顔に変わった。




「アステリス様は知ってるでしょう?」


「知っていたら、私を裏切る事結果を出すなど到底出来ませんよ」


「……その様子だと本当に知らないんですね……でも、実を言うと私もよく分かりません」




 イリシアは0次元起きた事を話した。

 一時的に記憶を失ってからそこで0次元に住まう生命と対話をして名前を与え仲良くし彼に”愛”を教える為に自分を犠牲にして彼の血肉に変えたと思ったら、彼が逆上してアステリスを攻撃、それを芳しくないと思い、体の主導権を取り戻して今に至ると説明した。




「0次元ですか。成る程、辻褄の合う事実ですね。確かに空間の存在しない世界なら量子的存在であるわたしが入り込む隙間が存在しない。それならわたしが存在を観測する事は不可能です」


「なら、わたしはどうやって入ったんだろう?」


「恐らく、強大なスピリットが次元の低い地獄で魂が変質しないままに死んだ事で0次元に侵入出来たのでしょう。わたしや天使達は死ぬ事はない。サタンの影響で死ぬ者も確かにいますが、それでも0次元に入れる程ではないでしょう。それに今回はサタンではなくわたしが手を下して地獄で殺しましたからその影響もあったのでしょう。そもそも、地獄でそんな死に方をしたのはあなたが初めてでしょうから本当に稀なイレギュラーな現象だったのです。そんなあり得ない条件が重なった結果だったのでしょう」


「そうなんですね」


「それでさっき話した”オリジンプログラム”はどうなったんですか?」


「オリジンは今は眠ってるので機能の80%が停止しています。でも、今この瞬間も私のスピリットを上げ続けている」


「えぇ……分かるわ。何もしてない筈なのに力が上がってるもの」




 アステリスの目にはイリシアから溢れるスピリットが湧き出る水の様に溢れるのが見える。

 それは抑えているとは言え、まるで間欠泉のように水が溢れており、このまま上がり続ければいずれ、今ある宇宙全てをもう1つ創れてしまうほどの強大な力を秘めているのが見て取れた。




「ですが、不味いですね。そのままスピリットだけが上がり続ければ、あなたの精神が壊れてしまいます」




 魂とWNの関係は言わばコップと水だ。

 魂と言うコップにWNと言う水が注がれている様な物だ。

 基本的に魂の容量だけのWNを保有出来る。

 容量の増加は様々だが基本的に肉体や精神負荷で増加する。

 だが、WNだけを増加させるとコップに圧力をかけながら注がれるのと同じだ。

 注ぎ過ぎればいつかコップが破裂する。

 そうなれば、精神崩壊を起こし死ぬ。




「大丈夫。しばらく地獄を周り続けて鍛錬すれば魂の強度と容量は増すから」




 今の言葉にアステリスは口をポカーンと開けて驚いた。




「あなたまさか、また地獄を回り続けるのですか!」


「だって。止め方が分からない以上死なない為には命懸けで戦うしかない。それに今なら分かりますよ。今の地獄は飽和している。その影響が様々な次元に及んで人間を地獄に呼び込む。そんな悪循環を繰り返してる」


「その通りですが!地獄を相手に1人で戦うつもりですか!いつ精神が崩壊しても可笑しくないのですよ!」


「どの道、やらなければわたしが死にます。これは自分の為にやるんです。あなたには関係がない事です」


「関係無い事なんて……」


「だって、あなたにやらせる訳にはいかないじゃないですか。あなたにもしもの事があれば世界が滅んでしまう。だから、あなたは地獄には干渉しなかった。干渉出来るなら今の地獄はまだ住み良い世界の筈だもの。そうでしょう?」




 アステリスはグーの音も出ない。

 言っている事は本当だ。

 しかも、効率的で合理的と来ている。

 アステリスはそんな彼女の言葉に甘えるしか無かった。

 だからこそ、決意が更に固まった。

 その健気な頑張りを称して自分の施せる最高の物を与えようと……。




「イリシア。あなたに渡したい物があります」




 アステリスは両手を掬う様に出した。

 すると、そこに3冊の本が現れた。

 3冊の本はそれぞれ、蒼い皇護おうごうの輝きを放つそれぞれに上三角形、下三角形、そして、六坊のマークが掘ってあった。



「これは?」




 アステリスは上三角、下三角、六坊の順で説明する。




「創世の書。命の書。そして、再世の書です。神になるなら必須とされる書です」


「私が……神?」


「曲がりなりにもわたしは神です。神を証明出来るのは神だけ。ですから、あなたは今日から神です」


「でも、わたしの力はあなたよりも低いですよ?」




 さっきの戦いで分かったがアリシアの全ての力を注いでもアステリスには及ばない。

 あの時は死力と言う意志が上回っただけの勝利だ。

 決闘ではなく本当に彼女と戦争したら勝てる見込みなどありはしないだろう。




「あなた、何か忘れてませんか?」


「ふぇ?」


「あなたはあくまで枷をつけた状態でわたしに勝ったのです。枷さえ外せば、あなたの戦闘能力はわたしを優に超えています」




 そう言ってアステリスは右手で指を鳴らす。

 イリシアにかけられた心の枷が砕ける音がした。

 その瞬間、イリシアのステータスは一気に跳ね上がり、体の構造を創り代えられ、白みがかった蒼い髪が輝くような神性を纏った蒼い髪に変わり、迸る神力が宇宙の隅々まで行き渡り、体と魂が敏感にそれを感じ取る。


 イリシアは思わず、体を抱え込んだ。

 感じ過ぎて体の感覚が鋭く鳥肌が立つ様に逆立ち全てを見通してしまう。

 この地球のある銀河の全て、更にその銀河の隣の銀河、その銀河達が寄り集まった136億光年先の銀河全て……更にその先にある銀河団やその先にある銀河団その全てを把握して、全てを見つめ、全てを観測する。


 惑星を構成する砂粒が何粒なのか?

 太陽を構成する水素原子の数から核融合を起こす水素の衝突速度、更に世界に住まうありとあらゆる生命体の存在、自分と同じ過去に罪を働き3次元に追い出された家族の営みその全てを見えてしまう。

 こんな感覚、天使だった頃を遥かに超える感性だった。




「一体、これは……」


「神が持つ感性ですね。大丈夫、しばらくすれば慣れます」


「まさか、これほどなんて……」




 天使だった頃の自分は神に反逆したが、神の位置に自分が立ってハッキリ分かった。





(昔のわたしよ。敢えて言わせて貰います。こんなの勝てる訳が無いじゃないですか!)






 昔の自分が愚かにもこれほどの力を持つ相手に逆らった事が愚かしく恨めしい。

 あの文献には人間は蛆虫の様だとか書かれた神の高慢とも思える文章があったが本当にそう思える。

 これはハッキリ”蛆虫だ“と人間に説明しないと人間が理解出来ないほど人間の次元が低いと言う事だ。

 これだけの技量がある相手に感情的に吠えなんて馬鹿としか言いようがない。




「誕生日おめでとう。全知全能なる戦神 イリシア・アイ・アーリア」


 


 アステリスは嬉しそうに微笑んだ。

 愛おしい娘が自分を超え支える存在となってくれた事を喜ばない親は無い。

 アステリスは孤独から救ってくれたイリシアに最高のモノを授ける事にした。

 だからこそ、この本を渡すのだ。




「この創世の書はあらゆるモノを創り、スキルを記し、製作する為の書物。スキルの発動補助を行い、これを使えば、スピリットの許す範囲でありとあらゆる事が可能になります。運命すら改変可能です」


「リスクはあるんですか?」


「リスクはありませんが次元により制約が掛かります。大きな事象を起こすなら信者を使う事です」


「信者?」


「神を信じ、信頼する者。信仰がある者の側でなら制約は緩和され海を割る事すら出来ます。ですが、逆に疑う者前では寧ろ傷ついてしまう。「奇跡を見せてみろ!そうしたら信じてやる!」などと神を試そうとする者には使わない事をお勧めします」




 信者と言うといかにも神様らしい感じがした。

 神様になるなら必須とも言える人材かも知れない。

 信者がいなくても力は使えるがその助けになるからそれに越した事はない。

 あとは悪人ほど奇跡に縋り易いのでそこだけは注意しないとならない。

 人間の場合、一見善人そうな詐欺師が多い。

 中には本気で自分の事を正義だと思い込んで悔い改める事が思考から抜け落ちている人間もいる。

 そう言う類には関わらないのが一番かも知れない。




「分かりました」


「そして、命世の書はあなたの魂とスピリットを強くし強くなろうとする力をより強くします。また、あなたが定めた契約に基づき信者を作り加護を与え、命を分け与える事が出来ます」


「えーと、もしかして、地上で私がお爺ちゃんアストに”浸礼”受けた時の食べさせられた変なパンとぶどうジュースの事かな?」


「アレは夫とわたしなりの方法でした。神を信じるならこれを命と信じて食べなさいと言う初歩的な信仰を測るものでもありました。信じる事でわたし達のスピリットを与えられるのです。無論、パンとぶどう酒には何の効能もありません。あなたはあなたのやり方で構いません」


「はい」




(なるほど、つまり祭祀を行うための権利書か……あの文献にも「祭祀制度に変更があれば、律法も必ず変更があるはずです。」と書かれているから以前の神父のような人に突っ込まれたらそのように説明しよう)




「そして、再世の書は壊れたモノを復活させる書です。人間はおろか貴方自身を復活させる事も可能です。また、壊れた秩序や法人の心を修正し安息を齎す書です」


「どんな物でも治せるんですか?」


「人間の命に関しては信者に限定されます。やろうと思えばそれ以外もできなくはありませんが……信者以外の人間はサタンの眷属である為、再世の書の影響を打ち消す可能性が高いです」




 アステリスは説明を終えると両手で3冊の書を放り出した。

 3冊の書はイリシアの吸収される様に溶け込んだ。

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