リナの悔い改め
???
リナとの訓練中に突如、大きな重力波の揺れを感知した。
あまりの強さに地球そのものが激しく揺れ、世界規模の地響きが鳴り響く。
その中には神力が含まれており、どこかで感じた事もある感覚が含まれていた。
(あいつは生きているのか?)
今の人間は人の魂すら殺す可能性があるとテリスから教わっていた。
だから、あの黒い機体に殺されたアリシアは魂レベルで死んだと思っていた。
だが、今回感じた力の奔流はアリシアのモノだ。
しかも、シンが知っているアリシアよりも遥かに強く、蛆虫と象くらいの差を感じざるを得ない。
戦ってもそもそも、勝負にすらならないほどの圧倒的な力だ。
その力の差を形容するなら「神」と言う言葉が妥当かも知れない。
もしかすると、唐突な再会もあり得るかも知れない。
リナも何かを感じたようにソワソワし始めた。
「どうした?」と尋ねると「なんか、心が暖かい」とメルヘン的な回答が返ってきた。
”過越”を受けたリナならあの力に何か感じてもおかしくないだろう。
その直後だろうか?
リナの戦闘能力が飛躍的に向上、一気に市街地戦に関してはシン以上の力を携えた。
それも僅か30分の話だ。
元々、その手の才覚があったのか肉体調整の賜物なのかは分からないが、良い勘とそれなりの経験があり、忠実で粘り強く無駄の無い戦い方が特徴であるが為、努力に対する忠実で堅実さが功を挙げているのかもしれない。
戦う戦闘エリアが市街地である以上、これでかなり優位に戦えるだろう。
(しかし、一体何が起きたんだ?今の伸び方は天才とかそう言う次元の話ではないだろう)
彼女のステータスをテリスに確認してもらうと”全治全能の戦神の加護”と言うモノが付いていた。
これは戦闘に関連した能力の上昇に特化したエクストラスキルだ。
(もしかすると、あの重力波の影響かも知れないな……)
あの重力波がアリシアに関連するものなら”過越”という繋がりがあれば、その影響を受け易くなるだろう。
それが過去、現在、未来に影響するならアリシアの影響がリナの及んだかも知れない。
(そうなると今のあいつは戦神なのか?だが、懐古を感じる別の相手の気配もあったからな……今のままでは何も分からないな。とにかく、まずは生き残らないと何もならない)
シンは訓練を終了させリナとともに仮眠を取る。
周囲の警戒はテリスに行わせ、時間が来る前に英気を養う。
そして、時間は流れ、敵が予定通り市街に進軍して行くのを見届けるとその後を追った。
HPMがあるので楽に倒せるかも知れないが、万が一にも敵の増援が来られても困る。
この先にある、廃墟で敵を迎え討つ計画だ。
シンがロアや敵を引きつけ、リナがその援護に入りつつ、戦闘区域にいる妹にシンが渡したカプセルを飲ませる。
そのカプセルにはテリスが仕込んだ”過越”をする為の術式が入っており、妹が承諾すれば、有効となるようになっている。
”過越”のやり方は祭祀と呼ばれる者が好きに変えて良いらしい。
文献によると祭祀が変われば律法も変わるらしい。
テリスやアストは仮祭祀なので真の祭祀が来るまで”過越”のやり方を変えても良いらしい。
本人曰く、結構特例なやり方ではあるらしい。
テリスやアストのやり方で”過越”を施されたのは約2300年前の十字架に磔られた通称右側にいた強盗と呼ばれる男だけに許された特別なやり方のようだ。
そいつのようなやり方は本来、認められないが今は世界が混沌としているから仕方がないと哀れみと悲しみ混じりに呟いていた。
今はそれは良い。
シンはリナのWMの行軍速度に合わせながら、敵を尾行する。
後、数分もすれば作戦領域に到達する。
機体コンディションは問題ない。
リナのWMの装甲の裏面にはHPMの遮断する塗料を塗ってある。
こちらの世界にある電磁波遮蔽用の塗料原料を使って、突貫で合成した物でHPMの波長だけを遮断するように調整した。
それでも完全には遮断しきれないだろう。
せいぜい、戦闘時間が他のWMよりも延長される程度だ。
流石にWMの姿勢制御系のセンサー類やサーボ機構などには手はつけられなかったが悔やまれるが、限られた時間の中でやれる事はやった。
「シン」
「なんだ?」
「ありがと」
リナは恥らいながら歯を見せる。
ぎこちないが、まるで自分が救われた事への感謝を述べているようだ。
「どうしたんだ?」
「わたしね。ずっと、何のために生きてるか分からなかった。生まれた時から生きる道を決められて可能性も機会すら奪われて……道具のように生きて、本当に何のために生きてるんだろうと?ってずっと考えていた」
(だから、テリスに聞いたのか……何のために生きているのか?と)
それは彼女なりの悩みであり失意だった。
劣性遺伝子などと言う物を押し付けられて、それだけでやりたかった事も満足に出来ぬままに兵士にされたんだろう。
本当は彼女にもやりたい事があり、希望があったのだ。
それを奪われ、生きる意味すら失っていたのは彼女には耐え難かったのだろう。
「オレは礼を言われるような事はしていない」
「だとしてもあなたに会わねば答えは出なかった。だから、決めたの。わたしの罪が何だったのか?必ず見つけて悔いてみようと思えた。目標ができただけで良かったよ」
「そうか。なら、絶対生きて帰って答えを見つけような」
「うん」
「そろそろ時間だ。戦闘準備!」
敵が廃墟に差し掛かるとシンはスラスターを噴かせ、前に出る。
敵もシンが近づいているのを気づいたがAPの速さの前に簡単に懐に入られる。
「まずはリナの依頼を片付けよう」
シンはHPMを起動させる。
HPMが広範囲に展開され、全てのWMとロアの乗り込む戦艦が動きを止めた。
「リナ!今のうちに妹の元に行け!」
シンの後に現れたリナが敵陣に向けて突貫する。
シンはそのままBushmasterACR A10アサルトライフルを構え、援護態勢に入る。
リナはWMで大地を蹴り、妹の機体の識別信号を見極め走り寄る。
他の機体を機能不全を起こしていたが、リナが敵であると認知したのだろう。
ぎこちないながらも手持ちのAK74式のアサルトライフルを向けてリナに発砲する。
だが、今のリナに当たらない。
敵のライフル発射の挙動を正確に掴み、避ける事ができる。
リナはビルの壁面に大きく跳躍した。
そのまま、リナも持つAK74式を取り出し、壁面を蹴り、敵の動力部目掛けて発砲する。
命中精度が悪いと呼ばれる銃でもリナの正確な狙いの前には棒立ち同然のWMでは対処しきれない。
予想通り、彼等は実戦慣れしておらず、今のリナの前では力不足だ。
HPMの影響下にあるとは言え、これは酷い。
練度も何もあったモノではない。
まさか、ここまで弱いとは最早、一方的な戦いだ。
敵は棒立ちで数に物を言わせてリナに銃口を向けるが、リナは跳躍で壁面蹴りによる立体的な機動を取り、敵を翻弄し正確な射撃で動力部を撃ち抜く。
ただ、無駄に数だけは多い事もあり、ライフルの弾がすぐに尽きてしまう。
ならばとリナは敵の懐にダイブロールして飛び込み、取り出したナイフで敵の動力部を貫き、敵のAK74式アサルトライフルを奪い反撃に出る。
「なるほど、上手くやれているな。心配ではあったが取り越し苦労か。あっちはリナに任せれば良いだろう。なら、オレは!」
リナの思わぬ健闘にシンは感心していた。
数が数だけに単機では苦戦とすると思い援護する事も想定していたが、リナは大軍相手に危なげない戦いをしている。
これなら妹の元に辿り着けるだろう。
ならば、こちらのやる事をやるだけだ。
シンはBushmasterACR A10アサルトライフルを敵の戦艦の向けて放つ。
狙うは艦橋。
ロアがどこにいるか分からない以上、艦橋から潰して動きを止める。
シンはバルドルから奪った”神光術”と量子回路との併用でBushmasterACR A10アサルトライフルの銃口から高出力レーザーを発射する。
APから放たれたとは思えないほどの太く大きなレーザーが陸上戦艦を飲み込み、あまりの熱量に戦艦は融解、一気に蒸発、動力部が一気に爆発し爆煙をあげる。
「艦橋だけを破壊するつもりだったが、やり過ぎたようだな」
だが、結果的にロアを始末できた。
あのレーザーを喰らって生きているとは考え難い。
あの直撃を受けていて生きていたら化け物だろう。
それこそ、神と形容できるかも知れない。
「シン!妹を見つけたよ!」
リナから通信が入った。
全ての敵を無力化して妹の機体のハッチを開け、妹と対面している。
顔はよく似ている。
双子と言っても良いレベルだ。
戦闘用アヒとして作られている以上、戦闘に適した個体の遺伝子を基にしているかも知れないから当然と言えば当然だ。
リナは妹に「魔法の薬を届けたから飲んで」と頼んでいる。
普通ならこんな事をした姉に何か言う事があると思うのだが、そこはリナの妹なのかも知れない。
深く詮索する事なくカプセルをゴクリと飲み込んだ。
その素直さは尊敬したくなる。
シンの様な人の行為を全て疑う、捻くれた男には程遠い感情かも知れない。
シンの生い立ちもあるのだろうが、人の行いをまず、疑う。
疑った後に信じるか信じないか決めている。
ただ、一概にそれが良いとは言えない。
リナの時のような場面に迫られた時に逡巡して決めるのが遅くなるのが欠点でもある。
その辺、リナは凄いと思うし羨ましいとは思う。
「シン、ありがと。お陰で妹は救えた。そして、わたしも罪を悔いたと思う」
やはりと言うべきかも知れない。
彼女は薄々、自分の罪が何だったのか気づいていたのだろう。
妹を救うまで明確に分からなかったのだ。
だが、悔いたならそれで良い。
「他の妹達を見殺した。わたしは無関心だったの。自分の身可愛さに助ける事もしなかった。でも、この娘の悲しそうな顔を見たらそんな自分に嫌気がさした。けど、何も出来なかった。だから、わたしはわたしの力ではなくて、シンに頼っちゃった。本当にわたしは無力だな」
『それは違う』
テリスが自嘲気味のリナに答える。
『人間なんて者はそもそも無力なのです。それを自分1人でなんでもしようとすれば、それが高慢となり罪となる事すらあるんだ。あなたには確かにそう言う罪はあったのだろう。だが、誰かに頼ってでも罪を消そうとしたその心がけは立派です。だから、そんなに自分を卑下しないで下さい。あなたは馬鹿ではないのですから』
テリスは嘘は言わない。
優しい嘘をつく男ではあるが、これは彼の本心から来るモノだとシンは分かっている。
リナの事を思い、リナに必要な言葉を投げかけているのだ。
その誠意と真心はリナには伝わるだろう。
「ありがと、テリス……それにシンも」
これで一見落着。
思ったより早く片付いた。
帰還して適当に時間を……その時、リナと妹の体が何かに押し潰されたように血飛沫を上げた。
「神の威光は絶対である」
年老いた聞き慣れない男の声ではあったが、魂レベルであの男で間違いない。
その方角を思わず振り返ると爆煙の中から勢いよく飛び出す機体があった。
白い機体。
ツインアンテナに鬼面を象った頭部の機体だ。
WMとは似て非なる存在。
背部にはスラスターが付いており、WMやAPの2倍の大きさがあり左手にはライフル、右手には巨大なシールドを装備している。
スラスターは飛行用と言う訳ではなくあくまで3次元機動を取る為のモノと推測できる。
白い機体はシンに向けて発砲、APの光学回避システムが起動、敵のレーザーを回避する。
シンも負けじとレーザーを発射して反撃するが、敵はHPM下とは思えないような機動性と反射速度で避ける。
機体周囲からシンの世界のロアが放っていた謎の力場を放っている。
恐らく、それでHPMを無力化していると思われた。
もしかすると最初のレーザー攻撃もこの力場で防がれていた可能性すらある。
「神の言葉を絶対である!」
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