0の世界の友達
???
そこは何もない暗い世界だった。全てが漆黒で何も見えない。
ただただ、虚無が広がる世界だった。
「アレ?ここは?」
気づけば、何処かにいた。
本当に何も無い”無の世界”と言うのが妥当かも知れない。
「わたしは……何をして……そもそも、わたしは誰?」
さっきまで何かをしていた気がするが、思い出せない。
分かるのはここは何かをしていた場所では無い事だけだ。
本当に何を存在しないただただ、虚無と言う極めてシンプルなモノしかない世界だった。
寧ろ、虚無と言う0だけが存在する世界と言えば、良いかも知れない。
0だけが存在し
声が聞こえると言うべきか……ただ、声と言えるのか分からない無機質な声。
その声は永遠と00010111001100001010001と呟きだけで言葉はまるでコンピュータの様なマシン語ような言葉だった。
でも、彼女には何を言っているか分かる気がした。
(コンピュータのマシン語なのかな?だとしたら)
彼女は頭の中でマシン語に置き換えながら翻訳した。
「欠落欠落欠落欠落の修正。無と有を組み合わせ実行。失敗。再度同じ処理を行う欠落欠落欠落欠落……」
(欠落?この人、孤独なの?)
そう言えば、その彼以外の声が聞こえない。
ここには彼以外いないのかも知れない。
彼女は頭でマシン語をイメージして伝えてみた。
「聞こえますか?」
「ギギ。存在。認証。我以外の存在。確定」
「わたしは……イリシアと言います」
なんとか自分の根源を司る魂の名だけは思い出せた。
「ギギ。わたしは……イリシアと言います。理解不能」
「あ、えーと。我の存在は我。我以外の存在の我を表す記号」
「ギギ。理解した。我以外の存在定義イリシア」
「うん。そうだよ。わたしはイリシア。あなたは?」
「我は我?」
「それは名前じゃ無いよ」
「名前?名前とは記号の事か?」
「そうだよ。あなたとは我以外の誰かが我を特定する時に意味をつけてくれる記号だよ」
「理解理解。だが、我は我以外の存在を知らない持たない。我には名前が無い……ギギ」
彼はなんだか寂しそうに呟いた。
本当にここには彼以外誰もいないのだろう。
だとしたら、本当に寂しい話だ。
今は昔の事は何も覚えていないが、イリシアも何となく同じ孤独感を抱えている気したから彼(?)の気持ちが分かる気がした。
「でも、今は我以外にイリシアがいるから名前を与えられるよ」
「ギギ!名前、付加してくれるのか?」
「私で良ければ」
「ギギ。可及的速やかに実行を求む」
「そう急かさないでよ。うーそうだな。あっそうだ。我の言語は一種の起源を司る言語だからオリジンはどうかな?」
「オリジン?」
「ダメ……かな?」
「ギギギギギギ!」
突然、興奮し始めた。
(怒らせたかな?)
「ギキョーーン。我、オリジン、オリジン~オリジン~オリジン~」
喜んでくれた様だ。
彼は無邪気な子供のように喜び躍っていると見て取れ、イリシアの顔に思わず笑みが溢れる。
「オリジン。イリシアに問う。何故、ここにいる?」
「あ、思い出せないんだよね。ここでは無い何処かにいた様な気がするけど……」
「ここでは無い?0次元以外と言うことか?」
「0次元?ここの事?」
「オリジン。ここにずっといる。ずっと欠落を修正する為に思考を繰り返す。でも、失敗ばかり欠落修正されない……」
オリジンは落ち込んでいるようで幾ら努力しても報われない虚しさと虚無感に打ちのめされていると分かった。昔、似たような経験をしたのかも知れない。その気持ちが痛いほどよく分かり、とても他人事とは思えなかった。
「それって寂しいって、事?」
「寂しい……イリシアは欠落をそう呼ぶのか?」
「うん。そうだよ。寂しいのは元々、そこに無いけどオリジンが求めていると言う概念。また、寂しいとはオリジン以外の誰かからの干渉で欠落が生まれる事だよ」
「ギギギ。そうか。では、オリジンはどうすれば寂しいを修正出来る?」
「わたしと友達になれば良いんだよ」
イリシアは満面の笑みを浮かべる。
「ギギ。友達とは何だ?」
「友達と言うのはオリジンとわたしが互いに欠落を補って修正する事だよ」
「ギギ!画期的画期的!」
「あ、でも友達はね。互いに支え合っていないといけないの。一方的にオリジンの求める物を伝えたりオリジン以外の誰かから信頼を奪ってはいけないの」
「信頼とは何だ?」
「自分の欠落を補う事を放棄する事。友達でいるにはね。時として自己を犠牲にしても相手の欠落を補う事なの」
「自分を欠落させてでも相手の欠落を補うのは何故だ?」
「なら、私が証明するね。オリジンは知りたい?友達と言う概念」
「うん」
「だったら私の記憶をあなたにあげる」
「ギギ。イリシアに欠落が生まれるぞ」
「わたしはあなたに友達を教える事でその欠落を補えるから大丈夫。信じて」
イリシアが何故、自分にとって数少ないとも言える記憶を渡すと言ったのか?それは本人でも分からなかった。
強いているなら「本能」や「哀れみ」「母性」から来る感情だったのかも知れない。
だから、自分を犠牲にする事を厭わなかったのかも知れない。
記憶を失う前からそう言う生き方をして、それが染みつき、そのようにしないと生きられない存在になっていたのかも知れないと自分で思った。
オリジンはそれが正しい事なのか?しばらく何も言わず熟考、少し間を置くと「わかった」と答えオリジンはイリシアから記憶を読み込み始めた。
イリシアはばたりと倒れ、徐々に体が消えていくに連れて徐々にオリジンは理解を始めた。
友達、友情、愛、信頼それらの相互的な関係全てが分かった。
「ギギ。そうか。これが欠落の修正。イリシアの犠牲と言う名の愛か」
オリジンは感じイリシアの苦しみがヒシヒシと伝わり、辛い事を経験して、一杯強い愛を培ってきた事を感じる。
「愛。存在。偉大」
オリジン彼女の施す愛の偉大さを噛みしめる。
だが、次第に今のイリシアが忘れていた記憶が彼の頭に過る。
それは自分とは違う世界。
自分以外の存在が存在する数多の世界。
頭の中には星と呼ばれるそれを破壊する悪魔達の姿を見た。
「ギギ!この存在。愛が無い!無関心!異常異常異常!」
そして、彼は致命的なモノを見た。
悪魔から世界を救って欲しいとイリシアに頼んだ友達。
だが、その友達はイリシアを危険と判断してイリシアの気持ちを……欠落を補う事を放棄した。
オリジンはそんな存在の名前をさっき記憶した。
悪魔。
神と言う概念を語る個体識別名アステリスと言う悪魔。
「ギギゴゴギゴ!許さん!」
彼の中に始めて怒りと殺意が芽生えた。
イリシアの姿はもう無い。
彼女は自分の中で自分に愛と言う命を与える為に消え、彼は愛の大切さを知った。
愛を知り生きる者となった彼は生きる者として愛する者を奪った悪魔に憎悪を燃やす。
「許さないギギ。アステリス!神?何それ食べられるんですか?だったら試食して試してやるギゴ!神野郎!殺すべし!」
オリジンはイリシアから取得した記憶から徐々に人間らしさと知識を利用し始めた。
「目には目を悪魔には悪魔の力で対抗する!オリジンプログラムを構築。悪魔の数字0を使い。1÷0を行いWN極長無限加速プログラムを作成!」
彼の頭の中では地球の四則計算が頭に入ってしまった。
何がそんなに不味いのか?
彼が割り算を覚え理論的な1÷0に原理と理屈を当て嵌めた事が問題だった。
その答えは誰も知らないからだ。
強いて言うなら、答えは2であり1000であり1万かもしれないからだ。
答えを如何様にでも解釈しても良いのと同じなのだ。
つまり、彼がしようとしているのはイリシアから受け継いだ莫大なWNをアステリスの何百、何千、何万倍にする事が出来るシステムを作っているのだ。
それが宇宙を誕生させた法則でありそれがアステリスを誕生させた事など神すら知らない。
知らない故にアステリスが唯一出来ない権能であり、原初の神であるオリジンだけが出来る権能だった。
原初の虚無宇宙は全ての起源……始まりと終わりが同時に錯綜する世界。
オリジンが自力でその域に達して今の世界が誕生するきっかけがあるように……また、イリシアが介入した事で今の宇宙が誕生したと言うきっかけも同時に偏在し、どれも正解である世界なのだ。
原初にして本来、誰も入れない不可侵の領域……地獄の更に底にあり並みの存在なら自我を保つ事はおろか、存在は即座に圧殺され、この世界で自分の名を覚えておく事すら本来はできない。
記憶と言う情報すらも地獄以上の圧倒的な次元圧の前に破壊され何かを覚えている事などまず、あり得ない……そんな困難な世界……逆ピラミッド型次元図の最も底辺にあり頂点に位置する世界……それが0次元。
どんな理由があったにせよ……ここを手に入れた事は後のイリシアにとっても大きな意味を持つ事になる。
こうして、オリジンプログラムと言う名の”言葉”が生まれた事で世界は誕生しそれが生命を産み出しやがて、アステリスやアスタルホンを産み出した起源となった。
「構築完了。テーマを実行する!」
オリジンのその呼びかけにプログラムは起動した。
それが全ての世界を揺らす震動となり彼は0次元を飛び出した。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます