藍色の因縁

 ギザスは何食わぬ顔でブリーフィングルームに入り、さっきの盗み聞きは無かったかのように堂々と振る舞いながら、フィオナとリテラに話かけた。




「よ!嬢ちゃん達」


「ギザスさん?」


「どうしたの?」


「いや、何。デカい画面でニュースが観たくてテレビ探してたらここに来たんだ。ちょっとモニター借りるぜ」




 ギザスは机に置いてあったリモコンを操作しチャンネルを合わせた。

 すると、ニュースでは地球統合軍と宇宙統合軍との間で起きた戦闘に対する特集を放送していたアナウンスの男性は「宇宙にて宇宙統合軍の衛星落ちし作戦が決行された事を受け地球統合軍は作戦を決行しこれを阻止しました」と言っている。





「そんな事があったんだ」


「知らなかった」




 最近の騒動でその辺の情報に疎かった事を痛感する。

 だが、次に出た動画がここにいる全員の空気を変える。




「また、今回の作戦ではなんと撃破スコア200キルの偉業を成した英雄が誕生しました」




 そして、その戦闘シーンに映る機体を見て彼らは氷漬いた。

 その機体は4枚の重圧な翼を全面に持った重装甲型の紅い機体だった。




「フィオナ!あの機体って!」


「あぁ!私とシンを襲った機体だ」


「あの野郎。宇宙にいやがったのか。それも大した腕もない癖に生意気に英雄とは滑稽だな」




 そして、その英雄の顔写真が公開された。

 ハッキリ言えば、紅いマスクを着けた男である事以外分からない。




「この偉業を成したのはロア ムーイ大尉。ジュネーブ基地所属の第2特殊任務実行部隊“FF部隊”の隊長だそうです。ロア ムーイ大尉には軍の総司令から近々勲章が送られるそうです」




 その戦闘映像と思わしき映像に藍色の機体が紅い機体と刀と翼を鍔迫り合いを演じているシーンが挟み込まれていた。

 素人目には斬りかかっているようにも共闘しているようにも見えるが、アレは完全に斬りかかっている。




「あ!あの機体は!」


「シン、まさか、宇宙に!」


「あの兄ちゃん。よほど、あの嬢ちゃんにご執心らしいな。太刀筋が完全に復讐鬼じゃねーか」




 ニュースにはそれ以上の事は記載されていなかった。

 ただ、宇宙軍の衛星落としを阻止したと報じられただけでシンの事は報道されていない。

 シンがこの後、どうなったのか誰にも分からないがもしかすると、最悪の事態もあり得た。

 そう思ったリテラとフィオナは自機のTSに通信で確認を取った。




「ゼデク!シンの安否は!」


「メルキ!あの戦いは一体どうなったの!」




 この2機がTSである以上、必ずテリスと繋がりがある。

 それで安否とあの戦いがどうなったのか分かる筈だ。




『シンはたしかに無事です。ただ……』


「ただ?」


『かなり遠くにいるようですぐには戻って来れないようです』


「遠くってどのくらい?」


『異次元としか言いようがありません』


「それは……たしかにそれは遠すぎね」


「同じ世界なら冥王星だろうとアサルトですぐ帰って来れるらしいけど、他世界とか並行世界ならたしかに時間かかるわ」


『ですが、それまでに何があったのか情報が共有されているので再生が可能です』




 メルキはテリスと共有した戦闘情報をブリーフィングルームのモニターに表示した。

 戦場を俯瞰視点で見つめる映像だった。

 全長30キロ近い廃棄衛星コロニーにソルを大量に搭載した衛星が地球に向かう。


 確かにこれが落ちたら地球壊滅だろう。

 衛星の周りにはそれを防衛するようにAP部隊が展開されており、どれもワイバーンMkⅡの宇宙戦仕様だ。

 黒い漆黒の宇宙迷彩に身を包んでおり、宇宙の漆黒に溶け込みAPが捉え難い。

 その衛星防衛部隊に紅い4枚羽を先頭に偃月の陣で迫るAP大隊が見えた。

 ロア ムーイことツーベルト マキシモフだ。

 アリシアの殺害に手を貸したリテラ達にとって憎むべき敵だ。

 未だにジュネーブがアリシア殺害に手を貸したのか分からない。


 この男は単に命令されただけかも知れないが、リテラ達はそうは思わない。

 自分達の故郷で虐殺の限りを尽くした男など信じられるはずがない。

 マフィアのボスが実は善人でしたなんて容易に信じられるはずがないのと同じだ。

 それはシンは同じだ。


 と言うよりはシンは自分達以上にロアがアリシアを殺害したと断定している。

 理由は分からないが、ロアはシンの復讐の相手であるらしい。

 シンが復讐するほどの相手なのだから、きっととんでもないクズ野郎に違いないと2人は思った。

 そんなクズ野郎なら自分の意志でアリシア殺害に手を貸したであろう事は容易に想像出来る。

 本来なら自分達もアリシアの仇を取りたいが、これが映像である事が歯痒く、既に決着を知っているのがなんとも、もどかしい。


 ロアは敵陣に向かって強襲をかけて宇宙軍に突貫する。

 宇宙軍から指揮官であると判断したロアを優先的に排除すべく狙いをつける。

 機体はAPのコンセプトに反して鈍足そうなので当て易いと言う油断もあったのだろう。

 だが、ロアは敵は射線からすぐに消えた。

 射線から消えたと思うと巨大な羽に仕込まれた内臓マシンガンを連射して敵を撃墜していく。

 敵が回避行動を取ろうとした。その地点をまるで未来予測でもしたかのように狙いを定めて撃墜していく。

 敵は必要以上にロアを狙うが、それを永遠と繰り返す。

 ロアへの攻撃は一切当たらない。

 当たったとしても分厚い羽の前ではかすり傷に過ぎない。

 

 宇宙軍は突撃してくるロアのマシンガンの射程を考えて離れようとするが、ロアの機体は想像以上の加速で距離を詰め射程に入れる。

 ロアを遠方から狙うと背後にいる部隊がスナイパーを重点的に妨害、鶴翼の陣に突撃するロアを入れようともしても狙いが、ロアに読まれ鶴翼を破壊される。

 これも全てロアが得たとされるエスパーの能力だろう。

 殺気を出さず戦う事が出来ない並みの兵士ではロアにとっては良い鴨に過ぎない。

 殺気を通して敵の狙いなどが全てバレているのだ。

 情報が筒抜けの状態で勝ちたいならADを持ってくるしかない。


 そうこうしているうちにわずか20分の間に200機近い敵を撃墜した。

 その後、敵の全滅させ後方の艦隊からソルを発射して衛星内のソルごと衛星を処理しようとした。

 その時だ。

 後方の部隊の反応が消えたと同時に”アサルト”を使ってロアの背後から”来の藍陰”を振り翳すシンが現れた。

 そこからシンの声が挿入された。




「見つけたぞ!ツーベルト!」




 ロアは咄嗟に羽でシンの斬撃を受け止める。

 シンはそのまま力を込めて左前面の羽の半分を切断した。

 ロアはすぐさま飛び退き、距離を取る。




「貴様は!あの時の!」


「俺は今、お前を真っ先に殺さなかった事を激しく後悔している。お前さえいなければアリシアは!」


「彼女を俺を嵌めたんだ。自業自得だ!」


「……何を聞いたか知らんが、自分の罪を人に擦りつけてるんじゃねんーぞ!大人になりきれない半人前が!」




 この醜く醜悪な生き様見るに耐えない。

 この男さえいなければ、シンは弱っていたアリシアに加勢する事が出来たかも知れない。

 確かに自分の私怨のせいもあった。

 だが、この男はあの時もあの時もあの時、シンの行く手を阻んだ。

 それだけでは飽き足りず、今度は自分からアリシアを奪いさえした。

 更には自分の罪をアリシアに擦りつけ、都合の良いように解釈している。

 こんな男の身勝手のせいでアリシアが死んだとなると怒らずにはいられない。




「貴様のような責任も取れない半人前が大きな口を叩かんじゃね!」




 シンはスピアを展開しロアにコックピット目掛けて飛ばした。

 今回のシンは完全に殺す気だ。

 ロアは羽に内蔵されたマシンガンで弾幕を張り、スピアを迎撃する。

 しかし、アリシアと共に戦い、力をつけたシンはリリーと初めて会った時よりも強くなり、前回は全力を出す前にギザスに割り込まれた事で全力を出せなかったが、今のシンはロアより強い。

 加えて、心の読まれ方の挙動も前回の件で既に把握しているのでセイクリッドベル戦時よりもシビアに殺気を出さなければ、ロアを倒す造作もない。


 スピアはまるでそれそのものが、独立した意志を持つように弾幕を見て避けて回避しながら、意志を持った弾丸のようにコックピットめ目掛けて飛ぶ。

 弾幕で進軍が遅延しているが、それだけだ。

 高まった神力によりスピアの操作に対する意識の度合いが高まり、1つ1つを明確に動かせるようになっているのだ。

 スピア1つ1つに神代 シンが宿っていると言っても過言ではない。




「俺に罪はない!全てはあの女に嵌められた事だ!」


「自分の都合の良いように解釈してるんじゃねよ!お前みたいな自分の罪も背負えない偽善者がアイツを汚すんじゃねよ!アイツは全てを背負って、それでも懸命に誰かを救おうと自分を犠牲にして来たんだぞ!自分の本当にやりたい事や自分の本当の気持ちすら押し殺してただ、一生懸命だったんだ!テメーみてえな「人の心の光」なんて見栄えの良い薄っぺらいモノを信じる人間とは違うんだよ!」


「俺が偽者だと言うのか!世界のために戦っているのは俺とて同じ筈だ!何が違うという!「人の心の光」を信じる事の何が悪い!やはり、貴様らは悪だ。人類の可能性を信じられないで勝手に絶望に浸っているだけの終末論者だ!」


「まだ、分からないのか!貴様の夢見る子供のような夢想が人を不幸にしていることに!」




 聴けば聴くほど実に腹立たしい。

 こんな自分の責任すら背負えないガキのような半人前の男がアリシアの邪魔をしてアリシアを殺し、こんな男がある意味で心配などがなくなって、ゆったりとした気分でいるさまと生きている事実が本当に腹立たしい。

 アリシアは自分を犠牲にして自分の周りの者を救おうとした。

 自分の罪と向き合い、自分が正しい者であるようには振る舞わなかった。

 3均衡の元に直接乗り込んだのは確かに独善かも知れないが、アリシアはそれがしたかった訳じゃない。


 どこかにいる自分の家族や仲間の為にどんな手を使っても救おうとする想いがそうさせたのだ。

 アリシア自身があの接触が独善に見られる事をよく知っている。

 だからこそ、自分の生き様を持って正しい事を証していたのだ。

 守る為に日々の過酷過ぎる訓練に弱音を吐かず耐えたのも、その合間に子供達を養育する事も、第2連隊を使ってテロが拡大しないように根回しをしたのも、全ては自分の行いが絶対ではない自分の言い分が間違っているかもしれない。


 だからこそ、それを堂々と胸を張って完成された正義にする為に証し続けたのだ。

 それをシンはテリスを通して知っている。

 正直、自分にはこれほどの事は出来ないとアリシアに畏敬の念を抱くほど凄い事だ。


 それに対してロアは一体何をした?

 口先だけで「人の心の光」だの何だの言っているだけで証など何一つしていない。

 ロアこそ、頭がおかしい。

 証明できない公式など無いモノと同じだ。

 況して、証しようとしないならそんな物はどこにも無い。


 確かにコイツは世界を守る為に戦っているだろう。

 その犠牲は悪い事ではない。

 ただ、「人の心の光」と言うあるかも分からない善を口先だけで騙り、証しようとする誠意がまるで感じられない。


 自分が軍人として戦っている事が証だと言うのならそれは大きな間違いだ。

 武器を取って相手に銃口を向けて「人の心の光はあるだろう?」と脅迫しているだけだ。

 そんなのは手間を惜しむ愛の無さから来るのだ。

 愛が分からないと言っても良い。


 アリシアの様に自分の身を削るような想いも無ければ尽くそうとする想いもない。

 大した犠牲と言う愛が無い男が「人の心の光」なんて語っても何の説得力もない。

 それほどこの男は口先だけで薄い。

 強い意志の力で何でも解決のご都合主義のアニメキャラのような男だ。


 行いが伴わなければ、どんな意志を持とうと無価値だ。

 そんな無価値なモノでは現実は何も変わらない。

 変わったと思うならそれは流行に流されているだけであり、いつか流行が終わればまた、繰り返す。

 そんな中途半端な事で変わる事などあってはならない。

 それがアニメと現実の違いだ。


 この男は強い意志を持っただけで兵器の力が上がると勘違いしたクソガキと相違ない。

 こんな男の理想がこの現実と言う事象世界において決して果たされてはならない害悪なのだ。

 何故なら、こんな糞みたいな偽善者を次から次へと生み出すのだから……だからこそ、シンは思う。

 ヒーローは死ね。




「言っている意味が分からん」


「やはり、貴様は何も分かっていない。そして、分かろうともしない。貴様とは分かり合う価値はない!」




 ”相互伝達””明確伝達””短縮伝達”全てを使ったが、この男にはシンの意図がまるで伝わらない。

 何故なら、固執や先入観が強いほどこのスキルは効果は発揮し難いからだ。

 この男は自分が正しい事をしていると信じている。

 自分の行いを顧みる事は一切しない。

 いくら的確に情報を伝えても受信側が固執や偏見で耳を塞げば、意味はない。

 エスパーは他者との相互理解をする力と言う者もいたが、固執と偏見の前で一体何の役に立つのだろうか?


 スピアが軌道を描き、ロアに迫る。

 ロアは観念して分厚い羽で全面を覆い貝のように包まる。

 流石に弾幕を避ける事にスピアのエネルギーを使い過ぎた事で大半のスピアが自動的にテリスに戻っていくが、うち数機がルシファー オルタナティブを装甲の隙間を掻い潜り刺し貫く。

 機体と羽の接合部を射抜いた事で全面装甲が剥がれ機体がまる裸になる。

 持ち前の防御力と内蔵火器、更には内蔵スラスターすら失ったルシファーオルタナティブはもはや、うどの大木だ。


 そして、この間に宇宙軍も動いていた。

 シンとの交戦に夢中になっている間に衛星の再点火を始め、地球に落とそうとしていた。

 当然、シンは知っている。

 だが、それはツーベルトを殺した後でも間に合う話だ。

 半端は無しだ。殺すなら徹底的にだ。




「死ね!ツーベルト!」




 シンは刃先をロアのコックピットに向けて、スラスターを全開にして突き刺しに行く。




「く!こんなところで終わってたまるか!」




 彼の強い意志に反応して機体のあるシステムが動いた。

 本来、そんな事はあってはならないが。

 すると、目には見えない力場が空間に形成され、それがテリスを捉え衛星すら捉えた。




「こ、これはサイキック フォース フィールドか!」




 かつて、セイクリッド ベルが使った奇跡と呼ばれた一端の力だ。

 パイロットの強いサイキック波で重力に近い力場を形成するというシステムだ。

 これによりかつて、ADの攻撃を防いで見せたエスパーがいた。

 そのシステムがどうやら、あの機体にも組み込まれているらしい。


 強い重力に囚われ、機体が行動不能となり、衛星も強い力場を前に押し戻され、衛星で工作活動した機体も力場の圧力で爆散する。

 シンが辛うじて生きているのはスキルや神を殺した事で得た肉体強化のおかげだ。

 それがPSGシステムを介して、テリスにも反映されている為、圧殺される事はない。

 だが、身動きが取れない。

 ロアは動きが取れないシンにトドメを刺そうと空間に漂うM4A10カービンライフルを手に取り、シンに構えた。




「くそが!インフェルノバレッド!」




 シンはマウントハンガーから咄嗟にBushmasterACR A10 アサルトライフルを装備しその銃口から身に着けた”神火炎術”でロアに向けて業火の弾丸を放った。

 大口径の火炎の弾丸がロアに行動を取るロアに直撃する。

 どれだけ回避が上手かろうと神力で認識力が高まったシンにはよく見えている。

 だが、力場の影響で火炎が減衰、撃墜には至らなかった。

 ただ、敵のライフルを破壊する事は出来た。

 それで自暴自棄を起こしたのか、ロアは真っ直ぐこちらに向かって来て、火炎を諸共せずに迫ってくる。

 機体を半壊させながら、シンに飛びかかり、その衝撃でシンはライフルをから手が離れてしまう。

 そのまま、取っ組み合いを始める。




「お前のような男を生かしておくのは危険だ!」


「それはこっちのセリフだ!世界の破滅に加担した男が大きな口を叩くな!貴様の野放しにすれば更なる不幸が広がる。オレの手で貴様を!」




 ロアとシンは思いの丈を拳に伝え、殴り合い、互いに機体が激しくぶつかり合い、火花を散らせる。

 肉薄した肉弾戦が繰り広げられる。

 だが、徐々にシンが推し始めた。

 TSとその搭乗者は量子的に繋がっている。

 シンの力が強ければ機体も強くなり、腕力が上がれば量子的に補正がかかり腕力も上がる。

 シンの鍛えられた身体能力が機体に反映されている分、機体の耐久力は既存APやルシファーオルタナティブを超える。

 テリスは機体を変形させないが、ロアの機体はシンとの殴り合いで機体各所が変形し機能不全を起こしかけていた。




「クソ!こんなところで!だが、オレはこんなところで!死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「ふざけるな!お前が!死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」




 この時、ルシファーオルタナティブに搭載された”サイキックフォースフィールドシステム”がシンの神力を受けてオーバーロードを起こし、回路が焼き切れた瞬間に時空が歪んだ。




「!」




 シンはその渦に飲まれ映像はそこで途絶えた。

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