赤い剣の狙い

「なかなか、スゲー映像だな。映画かよ……」




 ギザスはある種の感嘆して腕を組みため息を漏らす。




「シン……」


「やっぱり、アイツあの娘のこと……」




 薄々、感づいてはいた。

 シンのアリシアを見つめる目は真剣だった。

 シンはいつでも真剣で誠実で熱い男だったが、自分達を見つめる目線よりもアリシアに向ける目線が強かった。

 きっと、本気であの娘の事を愛していたんだと思う。

 だからこそ、失った悲しみが自分達よりも大きい。

 アリシアからシンの事は少しだけ聞いていた。


 どこから来たか分からないけど、昔に辛い経験をしていて復讐をしている男だと。

 復讐が良いか悪いかと言えば、悪いのかも知れない。

 彼自身の心が病んでしまうから。

 でも、無理に止めるのもよくはないから今は見守ってあげて。

 そう言い含められていた。


 そんな彼が自分の復讐相手にあの娘を殺されたとなれば、悲しみは尚のこと大きい。





「いけ好かねーな。あんな、糞野郎なんぞに生き残るなんてよ。大した努力もしてねーくせに偉そうに正義騙りやがって本当にむず痒いぜ。見栄えの良い大義さえ掲げれば、何でも出来ると思ってるのが本当にムカつくぜ」




 ギザスも何か嫌な記憶を思い出したように歯を軋ませる。

 彼も正義とか大義が嫌いな人間なのだろう。

 それこそ、ロアのようなアニメの登場人物を象ったような正義の味方なんていたら腹が立つだろう。

 フィオナ達まで良い気にはなれなかった。




「雑魚が英雄に成れるとは統合軍どんだけ雑魚ばっかなんだよ。兵士の練度が低いんだよ」


「いや、ギザスさんが強すぎるんだと思うんですけど……」


「そうですよ。ギザスさんが強すぎるんです」


「あぁ?どの口が抜かすんだよ。お前らの方があのマスク野郎より強いだろう。お前らが英雄に成るならまだ文句はない。でもな、だからってあんな雑魚はダメだ!ちょっと操縦が一流でちょっと人の心が読める程度でエースパイロット名乗るなら犬だって名乗れるぜ。これだから士官学校通った優等生は駄目なんだ!」




 さりげなくフィオナ達の事を褒めたと思えば軍の戦力の質の悪さを批判し士官学校出た優等生を批判した。(フィオナ達はその士官学校の優等生)


 一体この人は何を考えているか、リテラもフィオナもさっぱり解らない。

 分かるのはシンくらいなのだろう。

 だが、その彼はいないしギザスの目的はよく分からない。

 最近はアリシアの預かった子供達にアリシアの死を悟らせない為に連絡する合間にギザスが訓練をつけてくれて叩きのめされたのは記憶に新しい。


 そう言えば、彼はアリシアを目当てにここに来たと聴いたが、何で今のここにいるのか聴いていない。

 もう用は無いはずなのだ。

 だから、「なんでまだここにいるの?」と聴いて見た。





「気分だ。それにここは居心地が良いし物資もタダで受けられるからな!」




((あーそう言う打算か……たしかに節約意識は大事だよね))




 2人は内心思ったが突如、ギザスは表情を変えた。




「だが、さっきので気が変わった。お前達。俺に育てられる気はないか?」




 突然の申し出に2人は顔を見合わせる。




「私達をですか?」


「おう、そうだ。お前達には素養がある。化け物になれる素養がな。あんなマスク野郎なんかとは格が違う。エースパイロットじゃないモンスターパイロットになるんだ!」


「モンスター……パイロット……」


「うわ!ダサ!」


「はははははは!フィオナ、ダサいとは言うがなりたくないのか?」


「それは勿論!」




 それにリテラも同意する。




「なりたいです!」




 2人は背筋を伸ばした。




「「よろしくお願いします!」」




 2人は即答で敬礼した。

 今の自分達は更に強くならないとならない。

 頼りにしていたアリシアはもういないのだ。

 だが、彼女が残してくれたモノはあり、強くなる為の種子はあの娘が残してくれた。

 彼女のようになれるかは分からないが、それに迫れるように努力して彼女の想いに応えないとならない。


 彼女は生きている間、悔い改めに懸命でそれが強さとなり、子供達を守っていたのだ。

 何でそこまで出来たのか、今のフィオナ達には分からないが、彼女のそうしたならそうしてみようとは思い、何より自分に罪がない正義の味方と言う風には思っていない……思いたくもない。

 彼女からは悔いる努力を意味を学んだ。

 だからこそ、フィオナ達もそれに倣う者でありたいと決心し、その覚悟が顔つきに現れ引き締まりを帯びる。

 ギザスの眉が微かに動いた。




「ぐはははは!面白いなお前ら!良いぜ。とことん鍛えてやる。しっかり付いて来い!はいつくばってもな!」


「「はい!」」




 彼女達の眩しい目線がギザスの期待を掻き立てる。




「頼むぜ。しっかり俺を平らげるくらいに……」




 ギザスは彼女達に聞こえないようにまるで願いを込めるように小声で呟いた。




「何か言いました?ギザスさん」


「いや、何でもない。それと俺の事はギザス大尉と呼べ!」


「大尉なんですか?」


「そうだ。昔イギリスと言う国があった時王室の近衛兵隊長だったんだ!」


「「……」」




 2人は顔を合わせコソコソと話し始めた。

 こんな豪傑で粗暴そうな男が王室の近衛と言われても、俄かには信じられないからだ。




「えーと、なんて言った?王室?あの人貴族守ってた隊長ってこと?」


「嘘でしょ。近衛ってなんかもっとこう清潔感ある人かと思ったけど……やっぱり映画の話なのかな?」


「あの人どちらかと言うと愚連隊指揮してそうなイメージなんだけど、所詮イメージなのかな?」


「もうどうでも良いんじゃない?元王室近衛の愚連隊隊長だろうと強いのに違いないし」


「そうだね。ガサツで服のセンス無くて偶に変な歯ぎしり立てる無神経男だけど強いからいっか」




 コソコソと話てはいたがギザスには全て聞こえていた。




「お前ら……俺の事をそう思ってたのか……」


「あ、聞かれてた」


「はい、そう思ってました」


「お前ら俺を貶してるのか?それとも褒めてるのか?」


「「両方じゃないですか?」」


「そこなんで疑問形なんだよ!たく、まぁ良い。たしかに強ければなんでもいい。それは事実だ。なら、それなりに鍛えてやるから覚悟しとけよ」


「「はい!」」




 こうしてフィオナとリテラはギザスの訓練を受ける事になった。

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