かつて世界から神が消えた日
天の世界で神を殺そうとした反逆者達は地球を含めた様々な惑星と言う名の監獄に送られた。
宇宙に住まう罪を働いた高次元知的生命体とは、どんな誕生経緯を辿ろうと必ず人型になり、追放生活を送らねばならなかった。
だが、神は慈悲深い。
そんな彼らの罪を赦すべく、宇宙の星々に自らの分身を配置し宗教と言う形で宣教を行なった。
そして、世界に終わりの日を定めた。
一定条件以上の契約を信者が果たす事で定めの日が起動する。
定めの日が来ると惑星に封印した悪魔ごと惑星を滅ぼし計画を終わらせる予定だった。
だが、地球の2020年頃のある出来事が起因して全てが狂った。
アステリスは80年もの歳月をかけ、”高次元帰還計画”の最後の仕上げをしていた。
長い年月苦難と迫害に会いながら、自分の睡眠と食事と労力を毎日の様に削りながら信者の為に尽くした。
信者を熱心に育て、犠牲と言う愛を学ばせ従順させ、傲慢がどれだけの大罪になるか教え、誠意を尽くす事を学ばせた。
そして、世界各地に自分に属する十字架の無い教会を作った。
信者を1人が2人に2人が4人に8人と倍々に増えていき神の権能の下、救い報せを伝えた。
◇◇◇
最後の日
最後の契約として信者が世界の主要都市に7mの塔を各地に7本建てる事で計画を完遂するところまで来た。
そして、歓喜の瞬間がその時まで来た。
アステリスもその様子を大教会の壇上で心待ちにしていた。
(いよいよこの時が来た!これで救いは完了する!)
既に80歳の老体と成ったアステリスは壇上で完成を祈った。
この日を待ち侘びた。子供達と一緒に天に還れる喜びがあった。かなりの労苦も歩んだが別に構いはしなかった。
親が子供の為に働くのは当然の事なのだ。子供の時に着せた服の服代を大人になってから払え等と言う事を言わないのと同じだ。
祈り終えるとアステリスは壇上で立ち上がり宣言した。
「皆さん。救いの御業は数分で完遂されます。長い間ご苦労でした。誰も私から離れる者はない。皆が天に行けるでしょう!」
信者達は一斉に歓声が上がる。
そして、モニターに信者が塔の完成のカウントダウンが始めた。
3、2、1
こうして、神が抑え解き放ったWW3が始まった。
定めの日の契約が完了し信者は天の世界に旅経つはずだった。
「!?」
アステリスは違和感に気付いた。
彼女の神としての鋭い認識が確かに捉えた。
塔が6本しかない。
7本目がないのだ。
「誰か!日本塔に連絡して下さい。1本足りません。今すぐです!」
代表者が日本の7本目の塔に連絡を入れた。
「こちら第7塔。塔は存在します。見ての通り自分はこうして触れています」
信者達の中に不穏な空気がどよめく。
全知全能の神が先ほど間もなく終わりが来ると言ったにも関わらず、その時が来ない。
況して、彼らの目には確かに日本の7本目の塔がある。
塔の見張りは確かに塔に触れており、他の見張り役も確かに塔に触れていると答えた。
そして、信者に1人が答えた。
「主よ。7本出来ているのに何故、我らを天に送らないのですか?」
流石にこの事態にアステリスも困惑した。
全治全能の神が低次元で計画を狂わす事などあり得ないからだ。
何度も未来を確認し救済できる事を確かめていたのだ。
思いがけない事態に天の国のアスタルホンですら事態に把握に努める為に奔走している。
「違うのです。あそこには何もありません」
続けて別の信者が答えた。
「何を言うのですか?確かにあそこにあるではありませんか?」
アステリスには分かっていた。
アレは幻であり誰かが幻を作り信者を惑わしているのだ。
アステリスはそれを伝えようとした。
だが、偽りの黒い羊が吠えた。
「主よ!何故、我々を裏切ったのですか!」
「!!」
アステリスは動揺した。
神とは嘘偽りがなく定めた事を必ず為す存在だ。
だが、その理に亀裂が奔った。
真実とは、その様に認識されて初めて確かに成る。
例え、神の言い分が正しくても正しさを伴わなければ、間違いとして塗り潰される。
白が黒に塗り潰される恐怖が彼女に迫る。
「我々は7本の塔を建てたではありませんか!なのに何故、契約を果たさないのですか!」
「違うのです。それは……」
「さては、主よ、我々を弄んでいたのですか?神を気取り我々を道化の様にもて遊んでいたのか!」
「違います。そんな事は!」
アステリスは必死に釈明し喘ぐ。
とにかく、必死に信者を繋ぎ止めようと最悪の事態だけは避けようと必死に説得しようとする。
「では、何故嘘を付いた!あなたは先ほどこう言った。救いの御業は数分で完遂すると!だが、既に10分以上経っているではないか!神が嘘を付くはずがない。契約を違える事も決してない!WW3を起こしておいて我々だけを殺す気か!」
アステリスの表情が徐々に凍り付いた。
確かに今まで破らなかった約束を自分は破っている。
どんな理由があろうとその通りだった。
「主よ!あなたは信者への裏切りは高慢であり許されないと我らに教えた。だが、今あなたは我々を欺いている」
すると、モニターの1つに異変が起きた。
「こちら、オセアニア。街が火の海に……助けて主よ!」
モニターの1つが消えた。
更に……。
「こちらヨーロッパ。塔が戦車で……兄弟が!わぁぁぁぁ!」
そして、次々と断末魔と共にモニターが消えていく。
その叫び声に耳を塞ぎたくなる。
「諸君見ての通りだ。我々は契約を果たしたにも関わらず主は我々が苦しむのを楽しんでおられる。我らの主はこんな愛の無い我々の命に関心のない者だったか!」
信者達は迷い、疑い始めた。
どう認識しても契約を守り、数分で天に召されると約束したはずなのに……既に20分が経とうとしていた。
アステリスの顔は震え、怯え始めた。
「神は我らを裏切った。諸君覚えているか?信者への裏切るは高慢であると。なのに、主は我々を裏切る高慢な事をした。神が高慢であるはずはない。つまり……」
偽りの黒い羊はニヤリと不敵な笑みを薄っすらと浮かべ、トドメの一言を刺した。
「そこの女は神の名を借り高慢を振る舞いた偽物だ。神ではない!WW3を起こし我々を滅ぼそうとする悪魔だ!」
アステリスは決定的な一打に言葉も出なかった。
反論の余地もなく神である上の責任がある以上、塵1つの誤算も許されない。
預言を定めたのなら確実に実行せねばならない。
それが神だ。
それが出来ない者はもはや、神とは言えない。
なにせ、神様に不可能はないと言ったのは他でもない自分なのだ。
自分の愛を悟りなさいと言ったのも自分だ。
だが、それらの言葉を高慢に受け取られない為に証してきた。
口先の言葉はただの見栄だ。
神ゆえに1つの誤算で全てが一気に砕けた。
この日、神が持つ権能と言う概念は悪魔の人の手により破壊され神の絶対性は崩れ去った。
「私は帰る。天の祝福がないなら今後の事を考えねばならん」
そう言って男はその場を去って行った。
それに吊られ徐々に信者達がその場を離れていく。
アステリスは壇上の上でただ泣き崩れ去って行く信者を見送る事しか出来なかった。
そして、WW3は拡大した。
多くの命が殺され負の感情が渦巻き、天に迫るほど積み上がっていく。
その後、アステリスとアスタルホンはサタンに戦いを挑んだ。
”権能”があれば勝てぬ相手ではなかったが、”権能”を失った神では力を蓄えた悪魔を倒すのも容易ではなかった。
結果、サタンに深手を負わせたは出来たが天の世界もただでは済まなかった。
その後、天の世界でも多くの災いが起き、地上の人間達の不法をWNによって事象化して災いとして具現化する。
地上も天の世界も混沌に包んだ預言にすら存在しない第4の時代が到来したのだ。
◇◇◇
「これが神が失われた日の話です」
アステリスは忌まわしい記憶も堪えながら、イリシアに伝えた。
必死に堪えてはいたが、その目から一粒の涙が零れていた。
「そんな事が……でも、あなたは悪くないんじゃないんですか?説明しようとしたのでしょう?」
「だとしてもです。私は絶対に言った事を成すと言った。なのに私は最後の最後で信者に信頼を損なった。私は人の近しい存在。故に少なからず私にも高慢は存在する。己を律する意味でも地球に下り模範を示した。でも、示したつもりだった。最後の最後で私は油断した。サンディスタールを舐めていました……」
アステリスは溢れる感情に嗚咽しながら、感極まっていた。
だが、そんなアステリスに何を思ったのか、イリシアはこんな事を語りかけた。
「私は兵役を経験した時に思った事があります。プロはプロと語っては成らない。それは自身を完成された者と自惚れる事に成る。だから、私は自分を決めつける言い方はしない事にした」
アステリスは感慨に老ける。凄く心に染みる言葉だった。
その言葉は速く聴いていれば自分は変わったのか?と思ってしまうほどに……多分、イリシアは失敗したならそこから反省すれば良いと言っているように思えた。
神は基本的にこの類の失敗はない。
だからこそ、重く捉えてしまうが人間であったイリシアはその辺のメンタルは強く、それがアステリスに必要な言葉だと思い投げ掛けたのだ。
「そうですね。それが正しいのでしょう。神が神と語った。私はその時点で高慢で自惚れ屋だったのです。だから、その隙を突かれた。一番恐れていた事だったのに……」
アステリスは悔しそうな顔を浮かべ唇を噛み締める。
彼女にとってその出来事は余程の事だったのが伺える。
それもそうだろう。
自分の子供達を後一歩で救えたのにその手を放してしまった自分を呪うほどに悔しかったに違いなのだから……。
「でも、やっぱりあなたは悪くないよ。人間はあなたの掟に背き愛を忘れてしまった。なら、それを取り戻す事が出来るのも人だと私は思うよ。例え、どんな形であれ思い出そうと努力する者には必ずチャンスがやってくる。私やフィオナ、リテラ、シンがそうだった様に……例え、あなたがどれだけ離れていても貴方が教えた愛を大切にする者は必ず貴方の元に帰ってくる。あなたが高慢であってもミスをしたとしても私はあなたの慈愛を忘れない。あなたに救われた事を忘れない。あなたから離れる様な事はしない。例え、あなたが人間だとしてもあなたの誠意を私は忘れない」
アステリスは不意に涙を浮かべた。
その目でイリシアをじっと見つめて「ありがとう」と呟いた。
イリシアはただ、「うん」とだけ頷き、アステリスは涙を拭った。
自分の想いをしっかりと理解して何をされても裏切らないと誓える彼女はやはり忠実な良い僕だ。
だからこそ、彼女には受け取るべき栄華がある。とアステリスの確信は更に募る。
「イリシア。あなたに使命を与えます」
「何なりと」
「もう一度、地球に行って貰えませんか?全ての因果を絶ち。世界を救う為に」
「それはアレを放っておくとこの世界が不味いからですか?」
「悪魔と人間の業は神を失った時既に魔神に達してしまった。神の大罪に起因し数多の並行世界が生まれた。悪魔は各並行世界に自身を複製し他のサタン達に管理させる事でその力は我々を凌駕しつつある」
「その影響が次元を揺るがし全てを無に帰そうとしている。既に天の世界では環境に影響が及び数多の天使が死にました」
「被害はどのくらい出たんですか?」
「地球1つの影響で既に4500兆の天使が死にました」
イリシアは驚嘆した。
あの黒い塊は地球であり、サンディスタールだ。
つまり、人が悪魔と呼ぶべき行為やモノの塊だ。
戦争や金や権力や妬みや恨み、嫉妬等を欲から生まれる無分別な有害が黒い塊の正体だ。
イリシアのいた地球1つに換算すると人口40億人が4500兆人の命を奪った事に成り、1人辺り112万5000人の命を間接的に奪った計算になる。
何でそれが真実だと断言出来るのか?ともし聞かれるなら「直感的に分かってしまうのだから仕方ない」としか言えない。
だが、人間は同じ過ちと言う高慢を繰り返す。
何度謝罪しようと何度再犯防止しようと同じ事を繰り返す。
それは歴史が証明しており、それが高次元の尺度で弊害化しているのだ。
「それを止める為に私が行くんですね」
「本来なら私が行きたいのですが、私は現在、悪魔の攻撃を受け世界を維持する事でやっとの状態です。そこであなたを私の代行者として地球で活動して欲しいのです」
「それは私に様々な星のサタンと戦えと言う事でしょうか?」
「いえ、戦うのはあなたのいた地球のサンディスタールだけで十分です」
イリシアは首を傾げた。
サタンは様々な惑星にいるはずだ。なのに地球1つのサタンと戦うだけで十分とはどういう事なのか?
「地球での大罪日によりサタンは2020年を基準に様々な並行を大量に分岐させた」
本来、並行世界の分岐はごくまれにしか起きない事象である。
だが、サタンは大罪日での「神の裏切り」を利用し信者から莫大な量子的な干渉エネルギー“スピリット”地球で言うところの“WN”“神力”を搾取した。
WNを使い数多の並行世界を作り自己形成、自己増殖と力を共有する事で神に比類する強大な力を手に入れた。
その際、サタンの中核意志である"存在"は世界の分岐の基準と成った地球に置かれた。
それがアリシア アイのいた地球の世界”原本世界”だった。
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