それぞれの戦い方
ベナン基地帰還ルート中にとある洞窟の前に差し掛かった時だ。
アストが取得したデータからそこがサレムの騎士の拠点である事が判明した。
「この洞窟、サレムの拠点があるみたいだね」
「テリス。あそこに子供はいるか?」
『生体反応あり。サイズから子供と推定』
そこでアリシアは唐突とも言える提案をした。
「APの数は大した事は無いね。良し。予行演習も兼ねて襲いましょうか」
「「「了解」」」
どの道、本番で連携を確認するよりは今、実戦形式で確認できた方が良いと言うアリシアの判断を理解し、全員がすぐに反応、予行演習を兼ねてシンとフィオナは先行しアリシアとリテラは機体を降り、徒歩で拠点を目指した。
洞窟の壁面上に掘られた監視塔から所属不明の敵の接近を確認した監視兵は指揮官に通信機で知らせる。
「敵機接近!数は2!」
「AP隊を直ぐに発進させろ!」
サレムの騎士の機体が次々と出撃して藍色とオレンジ色の2機の機体に迫る。
だが、流石のサレムの騎士でもその機体のシルエットに見覚えがあり、警戒心が募った。
「アレはまさか、統合軍の神殺し!」
「いや待て、色が違うぞ。派生機か?」
「どっちでも良い。敵であることに変わりは無い。全機撃て!」
神と戦った事もない彼らにとって神とは口先だけの存在で実は大した存在ではなく数に物を言わせて一斉に撃てば勝てるとどこかで思っていた。
多少、宗教色が強いサレムの騎士の中にはそもそも「神が人間に敗れるはずがない」と言う固定観念があり、人間に敗れた時点でそれは神ではないので目の前のAPは神と僭称する名前負けしている何かに勝って戦力を誇張されたAPと言う認識を少なからず持っていた。
ここでもし、舐めてかからず撤退なり、時間を稼いで援軍を呼ぶ選択をしていれば勝敗は変わっていたかも知れない。
「
シンはフィオナに散開を指示し両機は左右に別れた。
ちなみにコールサインはシンがネクシル2、フィオナがネクシル3だ。
「ネクシル3。攻撃しつつこのまま拠点から離れるぞ。子供がいる以上APで余計な被害を出すわけにはいかない」
「ネクシル3、了解」
「じゃあ、暴れるとするか!ファイヤ!」
シンとフィオナはそれぞれ、BushmasterACR A10とLR300アサルトライフルの派生であるLR900アサルトライフルの手持ちの火器で敵に攻撃を仕掛け、敵もそれに対して散開、部隊を2つに分け各個撃破を目論んでいる様だ。
「まぁ。それがセオリー通りだな」
シンは展開を予測していた。
この手は定石であり確実に数を減らしていくのは戦術として正しいが故に簡単に対処出来る。
「ネクシル3。プランA5で仕掛ける。合図を待て」
「了解!」
シンは搭載されたスピアを起動させスピアの軌道をある程度設定し引き金を引いた。
引くと同時にシンはフィオナに合図を送る。
「突っ込め!」
フィオナは手持ち火器を”空間収納”に格納、そこから両腰のトンファーに切り換えた。
単純の物理攻撃においては小回りの効くトンファーは接近では優秀と言える。
APに当てれば、フレームが歪みそれだけで敵の戦闘能力を奪える。
最も実用性は殆ど皆無で使い手は稀な武器だが、場所さえ用意すれば話は別だ。
シンが放ったスピアは二手に分かれた敵それぞれに向かって行った。
スピアはシンの思う通りに動き回り敵を撹乱しスピアにコックピットを貫かれていく。
部隊の内側で飛ぶスピアを撃墜しようと銃を構える。
「やめろ。誤射するぞ!」
「だが、どうすれば!」
「散開しろ!1箇所に固まるな!」
スピアの攻勢に対応する為に部隊は散開した。
だが、散開したと同時に一閃の杭がAPを吹き飛ばし、トンファーの重い打撃が1発で敵のフレームを歪めていく。
フィオナは乱戦と成った戦場で次々とAPを殴り倒す。
トンファーは実戦向きでは無いが乱戦と不意打ち出来る状況さえ作れば、最大の効力を発揮する。
スキルを併用するフィオナにとってこの程度の相手は造作もない。
「き、機体が!一撃で!」
「あのトンファー使いを叩け!」
だが、それを許すシンではない。
「そうはいくか!」
シンはフィオナの死角になる敵をスピアとライフルで撃ち落としていく。
フィオナの前方の敵はフィオナに対処させ、フィオナが処理し難い側面や後方の敵はシンが落としていく。
フィオナを取り囲むように陣形を取り一斉に狙いをつけるが、フィオナは気配察知と情報処理で敵を位置を把握、APの躯体を操り紙一重に避けて敵同士の弾丸が激突するように避け、そうならないと判断すると真上に跳躍、その場でスピンしながらトンファー内蔵のハンドガンでコックピットを貫く。
「うまいぞ!」
短縮伝達により「動きが良いぞ!だいぶ慣れて来たなフィオナ」と言う想いをシンは伝えフィオナを褒めた。
「ありがと」
フィオナはニンマリと笑った。
(褒められた。なんか、悪い気はしないね)
レベス基地ではそのように言われた経験が無かったのでフィオナは素直に喜んだ。
フィオナ自身は自分の成長にそこまで気づいていないが、最初に比べたら遥かに良い。
まだ、荒が残るがそれでも実戦で使えるレベルには洗練されている。
シンも内心では「この調子なら結構強くなるんじゃないか?もしかすると、俺よりも強くなるかもな……」と思っていた。
それに嫉妬や羨望の類はない。
仲間が成長してくれるなら自分の事のように嬉しいものだ。
その甲斐あってはフィオナの猛攻もあり敵はどんどん戦力を送り陽動はうまく行っている。
この調子なら内部のアリシア達がやりやすいだろう。
シンは再びスピアで狙いをつけて増援を迎え撃つ。
◇◇◇
一方
アリシアとリテラは敵の拠点に辿り着いた。
洞窟の中に潜み、物陰に隠れながら進んでいく。
幸いな事に洞窟は一方通行で浅い。
横には人が出入り出来る小さな横穴があり、大半の兵士はそこにいるようでCPCに映る赤い生体反応が横から感知できる。
横からの襲撃に注意し気配を殺しながら、奥へ奥へ進んでいくとそこには檻があり、檻の前では暇な監視時間を弄びポーカーをしている4人の男達がいた。
AP30機が相手なら2機に負ける事はないと呆けているようだ。
直線的な通路の檻に近い木の箱の物陰に隠れ様子を伺う。
敵の男達の態度にリテラは鼻もちならないようで悪態を吐く。
「檻に子供を入れる遊び惚けるってアイツら何様よ」
「自分達が偉いから俺様かもね」
アリシアを解釈を聴いた後、2人の間に少しの間が開いてアリシアが結論を述べた。
「ゲスって事だね」
「ゲスね。それでどうするの?檻があるから銃は使えないよ」
リテラは手に持っていたPSG-1スナイパーライフルMk10を見せるような仕草を見せる。
立ち位置からして自分達が銃を乱射すると射線上には子供の檻がある。
流れ弾に当たればどうなるか目に見えている。
「リテラ。ライフルをセミオートにして狙撃して。私を援護して」
「援護するってどうするの?」
「これでいく」
アリシアはそう言って刀を見せた。
「無茶だよ。剣で銃に勝てる訳がない」
「そう思うなら援護して」
「で、でも、私上手く出来るか……」
「大丈夫。あなたは狙撃なら誰にも負けてない。誰よりも冷静に目標を撃てる。ウラヌスの時だってやれてた。私よりもずっと美味い。だから、大丈夫」
「でも、何度も上手く行くとは限らないよ」
「確かにそうだよ。だから、この言葉をあなたに送る。「失敗を恐れる者は失敗する」だよ」
「?」
リテラはその意味が分からなかった。
失敗を恐れようが恐れまいが失敗する時は失敗すると彼女は思っているのだ。
「あなたは練習やあの戦いで今みたいに恐れていた?恐れて無かったでしょう?それは練習だったのもあるし相手が人外だからでもあるよ。でもね。実弾を敵に向ける事は練習も実戦も同じなんだよ」
「あぁ……」
何か不意にストンと落ちた気がした。
確かに自分に人間相手に殺す事に抵抗を抱いていたが既に人外とは言え敵に銃口を向けて躊躇わず撃ったのだ。
その時に恐れなど無かった。
今回はただ、的が違うだけ本質は同じなのだ。
人間だが、同じ敵なのだ。
確かに子供達に流れ弾が当たるかも知らないがそれはあの戦いでも言えた事だ。
友軍に当たっていたかも知れない。
ただ、そこで本当に恐れたら救えるものも救えない。
そう思えた。
「それに今の条件より練習の方が最も辛かったでしょう?1500m先から人混みの中標的だけを何度も撃ち抜いた。しかも、激しく動く標的のこめかみだけをちゃんと撃ち抜いた。並の人間には出来ないよ」
「あれは……何となく感があっただけだよ」
「その何となくが分かる時点であなたにはスナイピングの素養があるよ。だから、自信持って。それにあなたが失敗しそうになるなら私が命懸けで止めるから!」
リテラはアリシアの嘘偽りの無い力強い励ましの言葉に押される。
アリシアに嘘はない。
それは彼女が自分の言った事を曲げた事がないからこそだ。
だからこそ、その言葉に自然と真実味を帯びストンと心に落ち自然と信じられる。
リテラは徐に「分かった」と答え、銃を構えていた。
「行ってアリシア」
「うん。行ってくるね」
アリシアは刀を左手に持ちゆっくりと歩み出した。
その足取りはゆっくりと落ち着いた面持ちだった。
リテラは走って一気に強撃すると思った。
一体どんな意図があるかは分からないが、リテラはアリシアの援護に従事する。
アリシアはその延びた背筋で堂々と檻に歩み寄る。
檻にいた男達が彼女に気づき立ち上がる。
だが、アリシアは慌てる事なくゆっくりと近づく。
普通の人間の心理なら走って来た標的に銃を向けたがる。
だが、ゆっくりと動かれると心理的に意表を突かれ反応が逆に鈍くなる。
アリシアはそのまま檻の前まで歩み寄り男達の目と鼻の先まで来た。
そこで口を開く。
「お前達……何をやっている?」
アリシアはいつもとは違い威圧的で高圧的な物言いで迫る。
勿論、演技なのだが、唐突な事に男達は困惑し気圧される。
何を答えれば分からず「監視です」と1人が答えた。
アリシアは普段には無いギロリとした目で机の上のカードを見た。
「友軍が近くで戦闘をしているのに呑気にカードか?いいご身分だな?」
アリシアは覇気に押され男達は口籠り思わず目を逸らす。
激しい戦いに身を置いてきた彼女の気迫はもうベテランの域に達し否応無しに迫力がある。
アリシアは近くにある石を右手で徐に取った。
男達はその意図が分からない。
「胃と心臓どちらが良い?」
「胃?」
「心臓?」
「分からないか?こういう事だ。」
アリシアは右手に力を込めた。
石はメキメキと音を立てながら、ヒビが入り亀裂が入った。
男達は「まさか」と感じた。
そのまさかだ。
握られた石は彼女が更に力を込めると無残に砕け粉々になった。
男達は開いた口が塞がらず我を疑う。
目の前にいる女は見かけに反した人間離れした膂力を持っており、人間の姿をした化け物と呼べる圧倒的な力を今、振り翳し脅迫した。
つまり、胃と心臓が意味するの……。
「もう一度聞く。お前達のペナルティーは胃の抉るか?心臓を抉るか?どちらが良い?それともだらしないお前達の
アリシアは静かにそれでいて張り詰めた声で男達を脅し鋭い殺意が篭った瞳で睨みつける。
あまりの恐怖に男達は正常な判断が出来なくなっていた。
勿論、胃と心臓を抉られたくはない。
だが、それ以上にもう1つの器官を潰されるのは男として本能的に畏怖を覚えた。
目の前の女はそれを平然と確実を熟すのは明らかだった。
目を見ればそれが分かる。
逃れられるものなら逃れたいと恐怖を感じてしまう。
「貴様らにチャンスをやろう。私は仕事で檻にいる者達は移送せねばならん。5分以内に準備を完了させろ。そうすればペナルティーは帳消しだ。だが、もしお前達が自分達の力でそれが出来ないなら……」
アリシアは左手の刀を振り抜いた。
振り抜かれた刀は近くにあったAP用のライフルのバレルパーツを斬り裂いた。
バレルパーツが斬れ、ドタッと落ち男達は開いた口が塞がらず唖然と眺める。
「もう言うまでもないだろう。分かったら作業にかかれ」
アリシアは静かに刀を納刀した。
男達はあまりの恐怖で未だにフリーズしていたがアリシアが一喝する。
「働けぇぇぇぇぇぇ!」
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