赤い剣
男達は脊髄反射の如く「イエッサー」と敬礼し踵を返し作業に掛かった。
それを遠目で見たリテラは「凄い。敵を従わせてる。あんな風にやれば楽に倒せるんだ」と思った。
それから5分後、何が起きたのか、まるで把握しておらず、不安がる子供達を余所にしてアリシアは男達に指示を出しながら無事全ての子供を護送車に入れた。
「よし。良くやった。約束通りペナルティーは免除だ」
男達は安堵を浮かべたそれを尻目にアリシアはトラックの運転席に乗った。
「ネクシル4!配置に付いたか?」
「はぁ!着きました!」
アリシアの威厳と威圧的な演技に乗っかってリテラもそれっぽい口調で応答し護送車の銃座に座った。
アリシアは男達に運転席越しに視線を向ける。
「よし!では、我々は任務に戻る。君達とはもう会わないかもしれないが健闘を祈るぞ。同志!」
アリシアは運転席に乗りながら清々しく敬礼をした。
男達はようやく解放された安堵で椅子に戻ろうとした。
アリシアは護送車を鍵を入れ護送車を走らせた。
丁度、その時の交代の兵士がやって来た。
「お前達。見張りの交代だぞ」
「あぁ、分かった」
だが、交代の男はある事に気づいた。
「おい!子供はどうした?」
「えぇ?護送車に入れろと命令されたので護送車に入れました」
「なんだと!そんな命令は受けていないぞ!」
「じゃあ、あの女は……」
その時、彼らは気づいた。
あの女が誰だったのか……恐怖のせいで麻痺していたが、どこかで見たことにある顔だった……そう今、統合軍で話題の女だ……恐怖で失われていた冷静さを取り戻した彼らはその時ようやく気付いた。あれは敵だったと……。
「えい!まんまと嵌められやがって!今直ぐ護送車を止めるぞ!ロケット砲を撃て!」
男の1人が空かさず近くのロケット砲を手に持ち護送車に放った。
「この!」
リテラは銃座に置かれた機銃で迎撃した。
本来なら、ロケット砲を迎撃すると言う芸当は並の人間には出来ないのだが、リテラはそれに気づいていない。
「馬鹿な!ロケット砲を落としただと!」
「あいつら並じゃない!」
「くそ!撃て撃て!」
数々のロケット砲や機銃が放たれた。
だが、ロケット砲はリテラが全て撃ち落とし機銃では護送車はビクともしない。
「こちら、ネクシル1!目標確保!護送車を奪った。護衛して!」
「了解!」
アリシアの連絡を受けたシンは丁度その時、目の前の敵に狙いを定めた。
「これでラストだ!」
放たれたスピアが敵のコックピットを貫いた。
「こちらネクシル2。敵を排除。これよりそちらと合流……」
アリシアの通信に対する返答をしている最中、突如ロックオンアラートが鳴り響く。
シンとフィオナは直ぐに回避した。
「ネクシル2より1へ。どうにも直ぐには行かせてくれないようだ」
「どう言うこと?」
「また、軍の連中がチョッカイを出してきた様だ」
「ふぇ!また!何なのよ!どれだけ邪魔をすれば気が済むのよ!」
「全くだ。どうせ、でっち上げの情報で仕掛けてるんだろう。一応、形式は取っておくか」
シンは敵機に通信を入れた。
「隊長、通信が来ていますが?」
「無視しろ。我々の任務に変更はない」
隊長は部下の懸念を無視するような命令を下す。
どうあってもこの作戦に少なからず、疑問に思る者の少なくなかったからだ。
だが、それを後押しするようにロアも口を開く。
「その通りだ。奴らは平和を脅かす敵だ。対話は不要だ」
ロアは機体を加速させ、前衛に出た。
「あの機体。ガイアフォースの!どうなっている?ガイアフォースまで見限ったか!」
シンはスピアを展開しようとした。
小回りの効くスピアで敵の4枚の羽を掻い潜り、装甲の弱い箇所を狙おうと考えたのだ。
だが、ロアは感じた。
「分かる。敵が何を考えているか!分かる!」
シンはスピアを展開したと同時にロアは羽の内臓マシンガンを放った。
常人ではあり得ない速度で対応した。
装甲の弱い場所を狙うのは事前に分かったのでそれが分かれば、スピアの軌道を読むのは容易だった。
ロアは全てのスピアを撃ち落とした。
「馬鹿な!スピアを撃ち落としただと!」
「いける!この力なら!」
シンはすぐさま回避運動を取り左後方に跳躍した。
だが、ロアはまるで先読みをする様にマシンガンを唸らせた。
「!」
シンは更に咄嗟に避けたが、咄嗟の事もあり左脚部を破損し運動性が15%程低下した。
「なんだアイツは!まるでこっちの心を読んでいる様な……っっ!」
シンは思い当たるところがあった。
(エスパー以上に心を読む……認識の拡張……まさか……)
シンはBushmasterACR A10アサルトライフル1丁を抜き、紅いAPの右脇腹を狙った。
紅いAPは最小の動作で体の半身を捻ってそれを避けた。
(1秒間に4フレーム分のあの回避動作……間違いない。奴だ!)
彼の復讐の相手の1人だった男。
自分から全てを奪った正義の味方。
自分がいたところでは地球に落下する巨大衛星を謎の力で押し戻し、人の温もりを世界に示した男として知られる男。
正義と言う幻想を見せ世界を破滅に追いやった英雄。
ツーベルト マキシモフ
シンの顔が徐々に歪み始め憎しみと憎悪を覗かせる。
「シン。どうすればいい?」
フィオナが通信を入れてきたがシンは少しの間沈黙した。
まるで滲み出る怒りをじわじわと陳謝しているようでフィオナから見ても少し異常と思える程度には可笑しかったのでフィオナはすぐに返答しないシンに空かさず聴き返した。
そして、シンは静かに口を開く。
「フィオナ。お前はアリシアと合流しろ。俺が時間を稼ぐ。そのまま戦域を離脱し基地に還るんだ」
シンの雰囲気がさっきと違う事にフィオナは違和感を覚えた。
だが、新兵の自分が出過ぎた事をする訳には行かない。
フィオナはたじろぎながらも「う、うん」と返事した。
「それとアリシアに伝えてくれ。お前の仇の正体はガイアフォースのツーベルト マキシモフと言う男だ。俺が今から戦うのはお前と俺の仇だ。悪いが仇は俺が独り占めする。そう伝えてくれ」
「ちょっとシン!アンタ、一体何を!」
だが、それを遮るように敵の砲撃が始まった。
シンは一喝した。
「行け!お前がいたんじゃ足手まといだ!今から俺は修羅に落ちる。全てを狩り尽くす!ここに残るならお前とて敵だ!」
「!」
フィオナはその言葉に踵を返して去っていった。
シンの憎悪と止められないと悟り、尚且つ自分にすら敵意を向けるシンに多少なり、恐怖を抱いた結果だった。
それが獲物を前にして邪魔をされたくないと言う自分の固執、故にフィオナに思わず当たってしまった自分の弱さなのか?それともフィオナを巻き込みたくないと言う自分の配慮だったのか?今のシンには分からない。
だが、フィオナが今の言葉でどんな風に思ったのかは察する事ができた。
シンはフィオナの後ろ姿を見送った。
「すまない」
シンは一言だけ言った。
今の一言は流石に不味かったと今、自覚した。
理性が飛び過ぎたと節があると後悔した。
自分に罪があるならそれは恐らく「怒り」と言う罪なのだろうとシミジミ思った。
だが、少なからずフィオナには”短縮伝達"で謝罪の意図も伝わっており、フィオナ自身はその事を許し一応、割り切る事にした。
(本当にすまん。だが、この男だけは俺の手で……)
シンの中で暗い復讐の炎が燃え盛る。
「隊長。1機離れていきます」
「追撃しろ!」
すると、オープンチャンネルで呼びかけがあった。
「ツーベルト マキシモフ。聞こえるか」
「!」
敵の隊は皆困惑した。
誰の事だ?と言わんばかりの表情だった。
その言葉の意味が分かるのはここでは1人しかおらず、その本人にとっては自分の正体は隠されていて気づかれるはずがないので殊更シンの言葉に驚いていた。
「お前の事だ。どうせ、俺達を悪役に仕立て上げて正義の味方気取りだろう。いや、お前にはその自覚にすらないか……」
ロアは黙って聞いた。
(誰なんだこいつは……)
彼は何とも言い難い感覚に襲われる。その直後、幻視を見て誰かと口論になり言い争っているを見た気がした。
(誰だ?彼は一体誰なんだ?)
まるでロアの全てを見透かしているとすら思える言葉にロア自身は何故か敵意を感じた。不快感を感じた。決して混じわる事もない水と油のような対極の存在。運命と言う宿業に囚われていると言う思える仇敵……ロアは相手が誰かは知らないがそのように思えた。
「だが、俺はお前と正義を論じる気は無い。お前はこの場で殺す。それが俺の正義だ!」
シンはオープンチャンネルを切り隊の間で動揺が広がる。
「仕立て上げた?」
「この作戦、変だと思ったがやっぱり可笑しいのか?」
「ツーベルトとは誰の事だ?」
作戦に疑問を持ち始めた兵士達を見てロアは一喝した。
「狼狽えるな!あれは敵の虚言だ。何の証拠もない。俺達は任務は敵を倒す事だ。軍が決めた事だ。誰もお前達を責めない。軍が……多くの人間がこれの作戦に同意したんだ。それが間違えであるはずがない!」
隊全体はロアの断定的な口調と言う名の惑わしの言葉に促され、不承不承な者もいたが最終的に肯定、隊は全員武器を構えた。
「罪が支払う報酬は死だ……それに屈するなら死ぬ覚悟は出来てるんだろうな!」
シンもライフルを構えた。
「テリス。アレを出してツーベルトに勝てる可能性は?」
「80%です」
「十分とは言えないが、やるしかない」
シンはここが正念場だと判断し覚悟を決めライフルの引き金を引こうとした時、レーダーに反応が現れた。
「隊長!何かが接近してきます」
「アレは……」
一般的な量産機ではない形式の機体が現れた。肩部にスラスターを搭載したツインアイ式の赤く塗装された重装甲の機体が真っ直ぐこちらに向かって来ており、コックピット周りは特に増量されているのが特徴と言えた。
武器は両腰のハンドガン”エイリアンピストル”と分かり易く背後には身の丈に迫る程の赤い大剣を2刀流でマウントハンガーに背負っていた。
「警告する。所属と目的を言え。言わねば、敵対意識があるものとし発砲する」
部隊の隊長が警告するが、赤い機体は直進をやめない。
それどころか背中の2つ大剣を抜刀して戦う意志を示した。
「ごちゃごちゃうるせいよ。失せろ!」
赤い機体の男は敵意を統合軍に向けながら、シンに対して一瞥した。
「こいつはコードブルーじゃない。だが、仲間である以上居場所を知っている。恩を売っておくか!」
赤い機体は大剣を翳し、軍に迫りロアはマシンガンを向けた。
赤い機体はロアに銃口を向けられ右に回避しようとした。
「敵意で丸分かりだ!」
ロアは感じるままに右に狙いをつけて放ったが、赤い機体は右への軌道を急に左に切り替えた。
「は、速い!」
「おせ!この程度か!」
赤い機体は加速をかけた。
そのまま敵陣に切り込み加速と大剣の質量を活かし統合軍のAPに叩き込んだ。
直撃を喰らったAPはグシャリとコックピットが潰れ、あまりの衝撃に機体は後方に宙を舞い落ちた。
ロアは赤い機体のあまりの手際と技量に戦慄すら覚えた。
「馬鹿な……心を読んだ筈だ……」
「あの紅いの。並よりは速いな。まるでこっちの動きを読んだようだ。いや、待てよ。だとしたら……」
赤い機体は加速をかけロアの機体に迫る。
右手でフェイントをかけてから一歩踏み入れての左からの強撃しようと考え、赤い機体は右手を振り上げた。
ロアは右手からの攻撃に殺気が無いからフェイントだと分かる。
ロアはそれを軽く捌き、左からの攻撃に備えたが、その直後、振り翳す右手の剣速が加速した。
「何!」
だが、気づいても遅い。
大剣は前面左羽を易々と斬り裂いた。
幸い羽が干渉した事でコックピットへの直撃は軽減されたが、フレームは歪み、紅い機体はその場で倒れた。
「馬鹿な……こんな簡単に……」
「やっぱり、思考を読んでいやがったか。思考が読めてもこの程度。ガッカリだ」
男は落胆した。
少し変わった相手の強さに僅かながら期待した。
だが、所詮は小物だった。
思考が読める程度で隊長格を気取った雑魚に彼の興味は一気に失せた。
「もう終わらせるか」
彼はコックピットに大剣を突き振り下ろそうとしたが、後方から敵の砲撃が行われた。
「大尉を守れ!」
「大尉!今の内に退避を!」
「雑魚が!邪魔するんじゃね!」
男は振り向きざまに大剣を振った。
振られた大剣は紅いAPの両脚部を斬り裂き、紅いAPは戦闘不能になった。
赤いAPは大剣を構えた。
だが、敵に対して何かが飛翔していくのが見えた。
シンのスピアだ。
真横からの突然の強撃に敵のAPは為すすべなく撃墜されシンはスピアを収納し対峙した。
(こいつは強い)
エースパイロットであるツーベルトをいとも簡単に下した。
動き方も並みの
恐らく、その速さがあるからツーベルトに思考を読まれても、すぐに切り替えられる。
ツーベルトが如何なる能力を持とうと人間の身体能力の限界以上は行使出来ない。
思考を読もうとこの赤い奴の速度に体が追いつかないのだ。
「さっきの紅い奴は点でダメだった。欲求不満だ。恩を売るつもりだったが気が変わった。お前は俺を楽しませろ!」
赤い機体剣を抜き加速をかけてきた。
「やる気か!仕方ない迎え撃つ!」
シンはBushmasterACR A10アサルトライフルをマウントハンガーに格納すると腰の刀を抜き応戦した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます