陰で渦巻く戦乱
第2連隊 格納庫 テリスコックピット内部
シンは相棒のテリスからある事実を告げられた。
「預言が覆っていないだと!」
シンはテリスから真実を聞いて格納庫の机の上で飲んでいたコーラの手を止める。
「馬鹿な……ADは倒したじゃないか。既に預言は破壊されたんじゃないのか⁉」
シンはてっきり先日戦ったADこそ預言にあった所属不明のADと思っていたからだ。
『ですが、私の預言では2機のADが相対する所を見ました。今回の戦闘はAD1機のみ。2体いると言う条件に合致しません』
「既に倒したからそもそも成立しないんじゃないか?」
『そうとも考えました。しかし、私が見た預言はあの円盤ADよりももっと大きい円盤でした。最低でも2倍は大きかったです』
俄かには信じられない上、信じたくもない可能性であった。
あんな、ブラックホールを平然と作る化け物があれ以外にも複数存在するなど考えたくもない話だ。
シンの目的上、人類がいくら死滅しようと全滅しないなら割とどうでも良い事ではある。
尤も目的の為に消費するやり方はこちらに来てやめる事にはした。
ただ、目的を達するにはその2機のADだけは破壊しないとならない。
「そうするとまだ、大きな戦闘が残ると言う事か。確か預言ではニジェールで戦闘が起きるんだよな」
『その通りです。なので、政府が隠匿しているADを破壊する必要があると考えます』
「だが、所在が……」
『所在なら突き止めました』
「本当か!」
『えぇ。あなた達がサレム退治やAD戦をしたお陰で政府関係各所の通信や動向が判明しそれによりADの場所を突き止めました』
シンは長い溜息を吐いた。
「いつから判明していた」
『あなた達が特攻機に襲われた時に傍受していました』
「何故、速く伝えなかった」
『伝えるべきでないし必要も無かった。あなた達はすぐに宇宙に上がる事になった。それを優先すべきと判断しました』
「確かにそうだな。それを知っていたら流石にまともな状態で作戦が出来なかったな。ありがとう」
『いえいえ。此方も必要とは言え黙っていて申し訳なかった。次はもう少し配慮します』
彼に悪気がないのは知っているが昔から似たような会話をしているような気がした。
流石にここまで来ると諦めみたいなものが来るのでこれ以上詮索するのを諦めた。
「分かった。なら基地の所在を踏まえて攻略する。基地の見取り図を出せ」
テリスは黙って見取り図を出した。
場所はニジェール北西部旧ベナンとの国境線付近だった。
網膜投影に立体映像が投影され、基地の構造を立体的に表示する。
図の内容を見る限り、砂漠に縦穴式に基地が作られている。
その縦穴がメインシャフトになっており、縦穴の最深部にADが置いてある様だ。
深さは500m、直径1000m前後だ。
そのメインシャフトを基軸に蟻の巣の様にAPの襲撃口や工場や整備施設が臨在している。
まさに1つの要塞だ。
「まったく改めてみるとこんな馬鹿でかいもんよく作ったな」
さすがに人間の戦いに対する執念に最早、呆れてモノも言えない。
恐らく、戦争を仕掛ける無知な連中には幾ら諭してもこの言葉は届かない。
なぜなら、昔からこう言われる「諭しをなおざりにする者は魂を無視する者」だからだ。
そのような者達に幾ら諭しても魂と言う名の命に関心がないのだから一生殺し合うしかない。
平和を唱える割にそう言う手合いは戦争したがる。
愚か者としか言いようがない。
「愚かな者の口は無知を注ぎ出す」とも言う。
そう言った者達の言葉に踊らされ関わる事を避けようとしない者は同じ無知な者として扱われる。
国家の代表を選挙で選んでその代表が戦争仕掛けたらそれは国民の無知としても扱う。
それなら、選挙に票を入れないか無効票を出した方が良い。
国民が無知に加担する気がないなら弾劾裁判が行われ可決する。
どれだけ人が否定しようとこの世界の法則はそのように成り立っている。
少なくとも神代 シンと言う人間はそのような価値観で動いている。
『もし倒すのであれば、メインシャフトを一気に降下し稼動前に沈めるべきと考えます』
「だが、問題は倒した後だ。そうなると政府の抑止力が1つ減るからな。それはそれで大きな戦闘が起きる」
『あなたは変わりましたね』
テリスは微笑ましそうな声色で答えた。
「そうか?」
『少なくとも前なら市民が犠牲になろうと知らん。自業自得だ。そう言っていたでしょう』
「変わったんじゃない。考え方を変えただけだ。確かに今でもそう考えているさ。自業自得だとな。だが、だからこそ俺は同じ事をしてはいけないんだ。でないと俺は悪魔と変わらないからな」
『やはりあなたは変わった。そんな事すら考えようとはしなかった辺り相当変わりましたよ。アリシアさんのお陰でしょうか?』
「かもな……お前の言うように俺とアイツは似てるのかも知れない。あそこまで俺の意見を尊重した奴はいない。それでいて自分の意見をちゃんと言える。世界にアイツが多くいれば俺は戦わずに済んだのだろうな」
そんなあり得ない感傷に浸る。
世界にアリシアのような人間しかいないならこの世界はそもそも、ここまで殺伐としていない。
人類の歴史も大きく違った事だろう。
だが一方で戦いがなければ自分が生まれなかったのも事実だった。
「なんという皮肉な話だ……」などと考えるたが考えるだけ面倒なのでやめた。
『では、円盤型。恐らく、宇宙統合軍だと思われますがそれから排除しますか?』
「それもやめた方が良い。地球の連中はあの戦いで宇宙に対して明確な敵意が現れた。こちらで抑止力を削ぐと宇宙の民の犠牲が多くなる」
『確かにそうですね。結果論ですが我々が介入した事で向こうも警戒心を抱いたでしょうからしばらく大丈夫だと考えます』
「まぁ、失敗だったかも知れないな。結果的に俺達は地球側の人間を救った事になっているからな。救った所為で地球が宇宙に敵意を持った。なんかスゲー正義の味方ぽいのが虫唾が走るぜ」
シンは本当に嫌そうな顔を浮かべた。
まるで背筋からつま先まで悪寒が巡るような感覚だった。
彼にとって「正義」とは反吐が出るほど不快な思いを与えた悪の権化なのだ。
もし、目の前に正義の味方を名乗る奴がいたらぶっ殺したいくらいには嫌いだ。
『ですが、あなた達が戦わなければ地球では大きな火種が起きていました』
「そうだな。戦おうと戦わまいとどの道争うが起きる。なら、戦おうとした事に意味など無かったのかもしれない。どの道争う事になるなら人は争ってはいけないんだろうな。なのに平和を唄い、争う。ふはは、滑稽だな。それが正義の味方のやり口か」
彼は皮肉混じりに失笑した。
2機のADが戦う未来を止める為だったとは言えその行為が争いの火種と成った事にシンは笑えずにはいられなかった。
「少なくとも俺達に出来る事は悔い改め再発防止する事だけだな。それは思わないか?アリシア」
この場にいない彼女に向けシンは語りかけた。
◇◇◇
コンピュータの駆動音が徐々に収まっていく。
かれこれ2時間はコックピットに篭っていた。
コックピット内部が次第に明るくなる。
だが、流石に長い時間暗かったので眩しいと感じ腕で顔を隠す。
『ふ……成功したようです』
「2人ともお疲れ。インストール完了だよ」
コックピットの網膜投影にTSと書かれた文字が表示された無事起動したようだ。
すると、何が呻く様な声を上げた。
『う……はぁ!ここは誰!』
『そして、私は何処だ!』
「この子達大丈夫?」
「なんか不安だね」
こうして男女の2種類のTSが誕生した。
リテラが女性型。
フィオナが男性型だ。
いきなり幸先が不安になりそうな言動を聞いて戸惑ってしまう。
『いえ、大丈夫です』
『問題ない平常です』
それぞれに機体にインストールされたTSは弁解した。
「本当に大丈夫か?」と問いたくはなるが、言い争いになりそうなので避ける事にした。
「良かった」
「うん。何はともあれ誕生おめでとう」
リテラとフィオナはまるで新たな家族ができたように微笑ましく彼らを祝福した。
『調子はどうだ?』
アストは自分の家族に当たる存在の事を気に掛け声をかける。
『悪くない目覚めです』
『まぁ、とりあえずこれから宜しく』
そこでリテラが尋ねた。
「ところでアンタ達、名前はあるの?」
『『アステリスの残滓です!』』
「なんかどっかで聴いた受け答えだね」
アリシアは昔を懐かしむ様にアストを見つめる。
アストは黙して何も語ろうとはしなかった。
「名無しはあれだから名前を決めないとね」
「なら、あなたはメルキなんてどう?」
『メルキ……』
リテラは自分のTSにメルキとつけた。
「なら、アンタはゼデクでどう?」
『ゼデク……』
フィオナは自分のTSにゼデクと名付けた。
「ダメかな?」
「気に入らない?」
『素敵な名前だと思いますよ』
『では、それで決定と言う事で』
リテラとフィオナの名前に2人は気に入ったように快諾した。
こうして、彼女達は生涯のパートナーの出会いを果たした。
それが新たな力となり新たな働き手と成る。
◇◇◇
フランス パリ ガイアフォース本部基地
ツーベルトは部隊の連絡網経由でジオから「重要な案件で伝えたい事があります」と連絡を受けた。
ツーベルト マキシモフは基地の格納庫の裏に呼び出された。
「ジオじゃないか。どうしたんだ?話ってなんだ?」
「話というより仕事です」
「仕事?」
ジオは徐に手を上げ振り翳した。
すると、辺りから兵士がゾロゾロと現れてツーベルトを取り囲んだ。
ツーベルトはその顔に見覚えがあった。
兵士達はジオと同じΣ隊のメンバーだ。
つまり、Σ隊がツーベルトを囲んでいるのだ。
「どう言う事なんだ!ジオ!俺が何をしたと言うんだ!」
「仕事だと申し上げました。Σ隊の任務は何か分かりますか?」
「電子戦と情報戦だろう」
「では、もう1つは?」
「もう1つは憲兵職と監査職だったか、まさか……」
「そうです。ツーベルト マキシモフ中尉。貴官には虐殺罪の容疑がある。同行して貰います」
「俺が虐殺?特攻機に自爆を指示した事か?」
どうやら、本気でそう思っているらしい。
(どう言う事だ?サランスクでの件は意図的ではない?)
ジオが訝しむがツーベルトが嘘を騙っている可能性もあったので深く取り合うと騙される可能性もあったので取り合おうとはせず、事務的に宣告する。
何より、ツーベルトの罪は明白なのだ。
取り合う必然性など元から無い。
「それの容疑は晴れています。それ以外です」
「それ以外?」
ツーベルトにはまるで身に覚えがないようだ。
何が起きているのかまるで呑み込めていないと言う顔をしている。
「貴官は先日サランスク地方で戦闘行為を行った」
「あぁ、そうだ」
「そこで敵から停戦信号を受けた」
「あぁ、そうだ。だが、敵が攻撃をやめなかった。だから、無視をした」
「彼等はテロリストではありませんでした」
「えぇ?」
「不審者の捜索をしていた武装した集落の自警団でした」
「そんな、馬鹿な……だって俺はテロリストがあそこにいると聞かされて……」
「ですが、自警団は歩兵装備に対してあなたはAP。攻撃されたにしては過剰防衛ではないですか?」
「だが、APで応戦された」
「彼等にそうだけの資金はありませんし傭兵を雇う金もない。あなたが戦ったAPと彼等は無関係です。そして、あなたは今、自分の口で停戦信号を無視し独断で反撃したと自供した。それは戦争再発防止マニュアルに対する違反を認めたも同義です。つまり、意図的に虐殺をしたと思われても仕方がないんですよ」
ジオはツーベルトの証言から彼の行動が非合法である事を論破してみせた。
いくら虐殺をした罪の意識がないと口先で言おうと彼の口からそれとは真逆の事が出ているのだから、疑うしかない。
「そ、そんな馬鹿な……」
「とにかく、あなたには虐殺の容疑がかかっている。ご同行願います」
ツーベルトはその場に崩れ落ちた。
信じられなかった。
自分が正義だと思いした事が悪行だったという真実を突きつけられた事に頭が追いつけず、呆然と地に座る。
(嘘だ、こんなの……嘘だ)
彼は力なく無理矢理立たされ、連れて行かれた。
その背中は力なく縮こまり生気すら抜けていた。
自分の信じていたモノがこの瞬間、全て奪われたような喪失感から反論すら出来ず現実逃避をしていた。
(嘘だ、こんなの嘘だ……)
彼の心の声を遠く屋根から聴く蛇がいた。
蛇はニヤリと微笑んだ。
まるで思惑が上手く行っている事に満足する様に……。
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