正義の証

「さて、方針は努力に決めたけどOSどうするの?」




 アリシアのその言葉に「「あぁ……」」とリテラとフィオナが声を漏らす。

 話が盛り上がり、いつの間にか忘れていたが本来はOSを作る為に集まっていた事を2人は今更、思い出した。




「アスト。まだ、映像見る必要ある?」


『その方が良いですね。どうせ、あと数分の話ですからここで中途半端に終わるのもバツが悪いです』




 それにリテラとフィオナも同調する。




「そうだね。せっかく作ってくれたなら最後まで観ようよ」


「あーでも、また残虐シーン見るのはちょっとな……」


『いえ、最後の数分にそのような映像は入っていません。陰謀系ではありますが……』


「陰謀系か……2人は大丈夫?」




 アリシアが2人を気遣うとリテラとフィオナが答えた。





「予め覚悟しておけばなんとか……」


「右に同じ」

 

『では、了承を取れたと言う事で最期の映像です』

 



 アストは映像を再生しコックピットが再び暗くなった。

 再開された映像の出だしは黒塗りの画面にJUSTICEと書かれたその字が燃え尽きるように消えていくシーンから始まり、アストは再びナレーターを始める。




『かつて、人類の平和を守ると謳った正義の味方がいました。正義の味方。聞こえはカッコいいですがその多くが強力な兵器を持ったただの人間です』




 そこにはテロリストなどを倒す正義の味方を自称する者がいた。

「人々の平和を守る為、俺は戦う!」とまるでアニメキャラクターの様な事を言っている。

 だが、それとは別のところがその様子を伺う蠢く影があった。

 アリシア達は俯瞰視点で全てを見る。

 正義の味方の活躍に伴い、それに関連した企業の需要が上がり、株が多く発行され配当金も多くなる。

 だが、その株を買うのが誰かと言う問題だ。




「あの正義マンのお陰で我々の利益も上がる。見ろ、配当金がこんなに!」

 

「これだけの配当金があれば新兵器を開発して戦いを起こせるな!」


「それを正義マンが倒し上がった株で我々が配当を受け取る。これほど素晴らしいシステムはない!」

 

「幸い、あの男は正義に人一倍固執している。利用するのは簡単だ」

 



 世界の陰で男達の悪どい微笑みが消える事はない。

 そして、徐々に空に向かって見下ろす様な視点に切り替わり、地球を宇宙から一望する。

 地球の下あたりに白い太字のカウンターが表示され、1年……2年……とカウンターが進み、一気に15年経った。


 それに連れて地球の絵も徐々に変わり、青い地球は真っ赤に染まっていた。

 再び地球の一点に迫る様にカメラの視点が動いた。

 地表のある一点を見るとそこには正義の味方が乗っていた機動兵器がボロボロになり、膝をついていた。

 両腕は捥げ、もう戦う気力が感じられない。

 

 その目の前に四つん這いになりながら、口を呆然と開いた男がいた。

 目には影が架かり見えないが、男はまるで今ある現実を受け止められていない。

 そんな顔をしている。

 だが、微かに声を漏らしていた。

 



「こんな……こんなはずではなかったのに……」

 



 そして、背景が燃え盛る炎に覆われた。




『これが正義と高慢に固執し力に振り回された男の哀れな末路です』

 



 こうして映像は終了した。

 それに伴い目に負荷をかけない様に徐々にコックピットが明るくなる。

 明るくなり終わるとアストは感想を聞いてきた。

 



「なんか……無責任だよね」

 

「あんな風にはなりたくないね」


「私達の行い1つであんな結末を作るんだね……」

 



 フィオナ、リテラ、アリシアは各々の感じるところがあったが、あのような醜い姿をさらして生きたくはなかった。

 生きている事が無様でも、もっとマシな生き様を生きたいとシミジミと思った。

 



『あの話の全ては何処かの世界で起きた出来事です。男は正義にばかり気を取られ、その裏で不法を働く者達に利用されていた。いや、傀儡になっていた。その結果、正義と悪の力はどんどん肥大化し拮抗した戦いが世界各地で長く続き世界を滅ぼした』

 



 それを語るアストの声色は何処か、悲しそうだった。

 まるで自分が深く傷ついた物語を我慢して振り返ったようにだ。

 当然と言えば、当然だ。

 何せ、アストにとっては自分が不快な思いをした時の記憶を思い出すような作業だったのだ。

 その世界にはアストの本体と呼べる人物が警告した。

 こちらの不手際で失敗したとは言え、人間の不法を天に積み上がるほどであり、非常に甚だしい。

 いくら不法を行い易い環境にいるからと言って不法を働いて良い訳ではない。

 そうしないと生きられない人間ならまだしも、そうでもない人間が環境に流されるままに善を行おうと忍耐せず、忍耐した人間をあざ笑い最終的に世界を滅ぼしたのだから、不快以外の何者でもないのだ。

 



「たしかにあれを見なかったらわたし達も同じ道に行っていたかもしれない。その事はあなたに感謝します」

 



 アリシアに吊られ、2人も「ありがとう」と感謝を述べる。

 



『そう言って貰えるなら良かったです』

 



 アストも辛かったがその苦労が無駄ではなくこの少女達の糧になり、報われ事に感謝し安堵をした。

 



「それとごめんね。あなたは辛いの堪えながら見せてたんでしょう?気持ちくみ取ってあげられなくて」




 アリシアはアストの気持ち悟り、謝罪した。

 悟られないようにしたつもりだったのだが、どうもアリシアの力の上り方は予想よりも遥かに高いようだ。

 アストはそれなりに高次の存在であり、セイクリッドベルのようなエスパーではその気持ちすら読めないほど高次の存在であり、それを読み取るのは容易ではない。

 だが、それを無意識レベルで悟るのはそれだけ強大で洗練された神力があるから為せる技だ。

 自分が決めた少女が思いがけないほど成長しているのも見れ、自分の気持ちが分かって貰えた事で苦労した甲斐があったと改めてシミジミ思う。




『いえ、わたしも何の説明もなしに見せてすいません』



 アストも自分の非を改めて謝罪した。

 ここまで言われて素直に謝らないのもどうかと思った。

 それに自分が罪人である事を自覚しておけば、意外と素直になれるモノだ。

 そうして、おけば謝る事も容易であり、それが争いを生まない秘訣でもある。

 アリシア達とは常にそうした関係でいたいから自然とそうしてしまう。




『ただ、これだけは覚えておいて下さい。時に正義が必要な時は必ず来ます。ですから、わたしは正義が必要ないとまでは言いません。ですが、人間は誰でも罪があります。なのに、己の罪、己の悪にすら勝てない、勝負しない、悔い改めない者に正義を語る資格はありません。行いで義を示すのは俗人です。それは絶対に差別を生み、新たな争いの火種となる。だから、あなた達には悔い改めと言う証を立てて欲しい。それがいずれ品性として現れいつかあなた達の正義の証明となる。わたしから願う事はそれくらいです』




 3人は相槌を打ち「わかった」と答えた。

 アストは「良かった」と素直に思った。

 心配はないと思っていたが彼女達はアストの言う事をちゃんと理解してくれているようだ。

 人の世ではいくら言葉を正しく伝えても言葉を受け取る側が固執や偏見が強ければ強いほど、どんなに伝えても理解はしない。


 たまにアニメで他者との相互理解をする事をテーマにその類の能力者が現れるアニメがあるが実際、あんな風に上手くはいかない。

 仮に心と心を繋いでも固執と偏見で情報の送受信を阻害するので実際のところ、それらの能力を使っても人類は平和にはならない。


 大切なのはそんな能力よりも相手を知ろうとする、考えようとする愛だ。

 何かの超能力頼りなど物欲願望で平和を叶えようとする愚か者とそう変わらない。

 その点、彼女達は考えてくれるので本当に良かった。




『では、皆さんがわたしの話を理解し同意したと言う事で良いですか?』




 3人はアストが伝えたかった事を理解し「はい」と答えた。




『それでは始めさせて頂きます』




 コンピュータの駆動音が高鳴り始めた。

 そこからわたしは一言も喋れなくなった。

 全ての労力を注いでいるからだ。

 これからしばらくの間、コックピットから出る事すら出来ず何もせず、ずっと待つ事になるのであった。

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