映像観賞

 3人は各コックピットに入り、最終調整をしていた。

 そんな時、アリシアはフィオナ達からある真実を聴かされた。




「ふぇ?手紙を書いても無意味?何で?」




 親友から両親への手紙の話をしたらそう返され、アリシアは困惑する。




「放火された村や集落はほぼ例外なく消されるんだよ。私達が逃亡しない様に生き場を消すんだよ。周りにはそう言った奴がいた。基地の人間もそれを風潮してたお前達には帰る場所は無いって」


「それは確認したの?」


「いや、確認はしてないけど……」


「う〜ん。出来れば直接確認したいけど……そういえば、わたしの仕送り(医療費込み)が届いたて返事もないな……確認したいけど今はそれどころじゃないし落ち着くまでは吉火さんに頼むしかないか……」




 正直言えば、かなり心配だ。

 手紙を書いた筈なのに一向に返信がない。

 それが余計な不安を掻き立てる。

 忙しくて返せないと思っていたが、やはり不安だ。

 でも、今はこちらを離れる訳にはいかない。

 まだ、大きな仕事が残ったままなのだからだ。

 確認したいのは山々だが、そんな余裕はない。

 偽神がいつ攻めてくるか分からない以上、その対策をせねばならないしその事でジュネーブに召集されているのだ。

 自分には責任がある上に保護した事を考えるとここで偽神対策を疎かにして死なれたら絶対に後悔すると思った。

 それが結果的に故郷に残した家族の生存にも繋がると考えると確認するのは難しかった。

 とにかく、その事は後回しにせざるを得ないので吉火に頼むしかない。

 



『2人とも準備はよろしいでしょうか?』


「いつでも良いよ。アスト君」


「でも、本当に大丈夫?よく分からないけどアンタを分離するんでしょ?」




 アストの説明をイマイチ呑み込めていないようだったのでフィオナにアストは丁寧なもう一度説明する。




『正確には分離よりも交配に近いです。今の私はアリシアと契約を結びアリシアと精神と交配した事で生まれました。言わば、あなた方と私との共同作業です』


「きょ……」


「共同作業……」




 2人は顔を赤くする。



【うむ……この年頃の娘には多少、刺激が強い言葉だったか……】




 などとアストは内心思った。

 アリシアも顔が赤いな次は言い方を変えようとアストは思考する。




『尤も妊娠するのは私ですが』




 アストは微妙に楽しげに冗談とも本気ともつかない事を言う。

 男(?)が妊娠するというのはなかなか不可解な摂理ではあるが、アストを見ているとフィオナ達から生まれるTSと言う者がどんな者か2人は何となく理解出来た。


 アストとアリシアは似ている。

 偶に変な冗談混じりの事を言うあたり似ている。

 リテラ達は何となく自分達との交配で生まれるモノの想像が付いた気がした。

 



『その前に1つ約束して欲しい事があります』




 3人は首を傾げた。

 特にアリシアはいつも以上に真剣にアストに違和感を覚える。

 アリシアからすればここまで真摯なアストは初めてかも知れないと思えたからだ。




『我々を使う上で必要な事が1つあります』

 



 「必要な事?」と3人は口を揃える。

 



『我々と言う力に縛られない相応しい者になる事です』

 



 3人はその言葉の意味がすぐには呑み込めなかった。




「つまり、どう言う事?」

 

『表現を変えるなら我々とタイマン張れる存在に成れです』

 



 逆にいきなり砕けた荒々しい表現に今度は驚いてしまう。

 「あなたはどこの生徒ですか?!」と言いたくなるが、それをツッコム者はいない。

 その言葉をなんとか処理したフィオナが口を開く。




「えーと、つまりアンタ達と喧嘩出来るくらい強く成れって事?」


『そうとも言います』

 



「なら、はじめからそう言え!」とツッコム者はここにはいない。

 恐らく、その者は仕事に追われこの組織の上の奴と連絡をしているだろう。

 フィオナ達もツッコミたいが今はその時ではないと喉に押し込める。

 



「なんで、それが必要なの?」

 



 アリシアはこの言葉の本質的に迫る事を質問した。

 APとタイマンが張れるほど強くなる事に何の意味があるのか?確かにそれだけ強くなれば、それに越した事はないが「越した事がないだけ」で「必要」な訳ではない。

 客観的に言えばAPが「道具」である以上、人間が無理にその力に迫る必要はないとアリシアは考えている。

 アリシア自身はアストを道具と言う風には見ていないが客観的に言えば、そうなのだ。

 アストはまた、考え始めた。

 アリシアとフィオナ達も含めて意図を的確に得る為に話の真意を探ろうとする。

 そして、アストは思考を完了すると告げた。

 



『これより映画鑑賞をします』

 



 すると、コックピットが勝手に暗くなり周囲からBGMが流れる。

 風のせせらぎのようなBGMが流れ、そこには地球が映し出された。

 それにアストがナレーターを務めながら映画鑑賞会が始まった。

 



『生命とは誕生時から造ると言う思考も持っていました。それは地球に来る際失われた力の名残でもあります』

 



 地球の絵がドンドンと近づいていく。

 地球が間近まで迫るとある一点に照準が合った。

 すると、そこには戦火に焼かれる荒廃した街が映っていた。

 季節は冬のようで仮説の難民キャップのようにテントが乱雑に張られ、ドラム缶の中で焚き木を入れ、暖をとる者達が見える。

 服はみすぼらしくその貧困さが目に浮かぶ。

 



『人間とは元来、高慢な生き物です。意識が出来る出来ないに関わらずその行動には必ず高慢が付きまとう。例えば、正義も高慢の1つだ』

 



 すると、街に見たことのない人型兵器が空から降りて来た。

 太陽を背に暗い影に覆われ全貌を知る事は出来ないがそれがAPでない事だけ分かる。

 その突然現れた巨大な影に人々の視線が集まる。

 いや、予感がした。

 



『人は何の力もありません。それ故に己の言い分を欲深く語る為に武器を作る』

 

「撃て」




 誰かの声が映像に入る。

 その瞬間、機体の胸部に搭載されたガトリングガンが唸りを挙げて無抵抗の人間を撃ち殺す。

 そこに老若男女一切の例外はない。


 リテラとフィオナは涙を堪え、嗚咽しそうな声を口で塞ぎ堪えていた。

 アリシアは淡々とそれを見つめる。

 しかし、良い気は全然しない。

 

 辺りには人だったモノが無残に転がり、赤い凄惨な色が辺りを濡らす。

 その中からは姿は見えないが幼子を思わせる泣き声が木霊する。

 しきりに父と母を呼び求める声が聞こえる。

 だが、世の中は無慈悲だ。


 視点が変わり機体のコックピットブロックが開き、1人の男がライフルを構えた。

 その視線の先にいた両親を呼び求める幼子に向けて連射した。

 幼子の体を無残に貫かれ、口から大量に吐血し倒れた。

 だが、微かな残った最後の命で最後まで呟いていた。




「パパ……ママ……」




 リテラとフィオナは見ていられなくなり、目に涙を浮かべながら画面から目をそらす。




「止めて」




 流石のアリシアもこれを見て動画を静止させた。

 その声は殺気ではないが確かな覇気を感じる。

 アストは黙して止めたが、それは反射的に止めただけで自分の意志ではなかった。

 今のアリシアにはそれだけの力があると言う事だ。

 アリシアの顔は淡々とした真顔だったが、その裏では確かに怒っていた。

 だが、その怒りを出さないように一度目を閉じ、努めて冷静にアストに語りかける。




「これだけは確認したい。これを見せる意味はあるの?あなたを遣わした者は不快な想いをさせる事を肯定する者なの?」




 流石のアリシアも黙っている訳にはいかなかった。

 アストが神の遣いであれ何であれ、不快な残虐シーンを意味も知らせず、見せて良いモノとは到底思えない。それは事実だ。

 だが、アリシアが不快な思いをしている事に流石のアストも困惑して言葉に詰まり黙り込んだ。

 アリシアの質問に対して答えは当然、NOだ。

 彼女達にした事はあの方にした事だからだ。

 そして、あの方の意図を汲む自分のした事はあの方の罪とも言える。

 あの方の栄光を汚す訳にもいかない。


 況して、彼女達を傷つけたのが心苦しい。

 そんな時、やるべき方法は1つだ。

 そして、何とか言葉を捻り出す。




『その……すいません。わたしが不適正でした』




 アストも流石に罪悪感が芽生え、声に抑揚が無くなっているところを見るに流石に自分の行いを悔いているようだった。




「見せても良いけど、せめて意図くらい説明しなさい。でないと何が伝えたいか分かりません」




 アリシアはアストに対して怒りをぶつける事はしなかった。

 ただ、静かにこちらの想いを伝える。




『分かりました。では、今のを見た感想をまず聞かせて下さい』


「怖かった……」


「悲しかった……」


「拒否感があった……」




 リテラ、フィオナ、アリシアの順に3人が各々の意見を言い合う。

 特にアリシアの拒否感と言う単語はこの話のミソだった。




『世の誰かが犯した事は必ず誰かが繰り返すものです。それは神に召し出された者とて同じです』




 その言葉にアリシアは話の意図を読み取った。




「なるほど、そう言う事ですか」




 だが、残りの2人は意図が汲み取れず首を傾げる。

 2人はどう言う事なのか尋ねた。




「つまり、わたし達も力に囚われた者になれば同じ過ちを繰り返すって事」


「それは……まぁなんとなく分かるけど……」


「それがなんで喧嘩に勝つ事になるの?」




 2人もそこまでは想像がついてはいた。

 だが、何故それが喧嘩に勝つ事なのか分からない。




『例えば、私達がAP倒すにはどうする?』


「えぇ?それはレーザーを撃つとか?」


「普通に考えればAP同士をぶつけるよね」




 悩んでいる2人に対してアリシアがヒントを述べた。




「と言う事はAPの力がないと倒せないよね。それはAPの力に依存して囚われているよね?」




 2人は疑問が抜けたように「あぁ!」と悟った。




「人は何の力もありません。アストの言う通りだよ。人は何の力もないから己の言い分を誇示する為に武器を持つ。でも、それは人の力ではない武器の力です。人はその事を忘れ怠惰となり、自分が力ある者のように振る舞い、恰も自分の意見が絶対正義の様に思い上がり奢る。それがあの惨状の根本心理。そうでしょう?アスト」


『えぇ、その通りです』




 アストは次の言葉を慎重に選ぶように一拍間を置いてから再び話し始める。

 



『わたし達は驕り高ぶる事を尊ばない。寧ろ、嫌悪します。道具を使う事は悪い事ではありません。神もしている事です。ですが、道具への敬意や謙りも感謝もない無力な者に我々は仕える気はありません。無力な者が己の力の様に我々を使うのは我々には耐え難い。あなた達は道具に頼る者であってはならない。道具を使うとしても道具以上の力を持ち道具の力に振り回されない、囚われない存在、相応しい者になってほしいのです』




 リテラとフィオナはその意図をようやく理解した。




「力を暴力にしないって事?」


『そうです』


「でも、できるかな?」


『あなた達が切に願い求めれば叶わぬ事はありません。それだけの後ろ立てがいます。だから、切に願うと良い。弾丸よりも速く走る事も岩を砕く事も可能になります。ですが、すぐに出来るわけではありません。やはり、努力と言う誠意が必要です。ですから、今は地道に鍛錬を積む事を考えれば良いです』




 アストは今後の方針を分かりやすく的確に答えた。

 正直、どうして良いか分からない彼女達にとって目的を明確化出来ただけ分かり易く、やり易い。

 難しい事だが、それでも努力を怠ってはならない。「やれば、できる」のだ。出来ないと考えて努力しなければ一生届かないのだ。況して、この努力をしなければ人は堕落する。アストが嫌いな人間達のように……。

 それに加えてアリシアがある言葉を添える。




「あとはアレだね。わたし達は自由な身の女でないといけないと言う事を忘れない事だよね」



 それにリテラが尋ねる。



「ん?それ、どう言う事?」




 それにフィオナが彼女なりの解釈を添える。




「えーと。それって信じた事をやれって事で良いのかな?」


『そうです。誰にも左右されないあなた達の行動を取る意識も重要です。もちろん、だからと言って不法を働くのはダメですよ』




 それにアリシアも言葉を添える。




「色々、難しそうだけど、2人となら出来る気がするね」


『互いに支え合う和合も今後、求められる事です。逆に仲間内の喧嘩はやめて下さい』




 話す度に色々、重要な事が増える話になりそうだったので今はとにかく難しい話を抜きにして努力する事だけに集中する方針を固めた。

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