嫌な静けさ

 ADとの戦闘が終わった直後 リリーとカーンが話す直前


 フランス パリ ガイアフォース本部


 カーンは目の前にいるジオの報告を聴こうとしていた。

 ジオは背筋を伸ばし敬礼をしカーンもデスクから立ち上がり敬礼で返す。

 返し終わると何事も無かったように座りなおす。




「隊長!ジオ サビーヌ只今帰還しました!」


「御苦労。それでどうだった?」


「サランスク周辺の集落は既に壊滅していました」


「ツーベルトがやったのか?」




 ジオは頷いた。

 これでツーベルトの犯行と確定した。

 あの紅い機体ルシファーオルタナティヴはルシファーの基礎設計の有用性を証明する為に配備された物だ。

 無論、心理兵器は搭載していないがルシファー特有のAD戦を想定した高い防御能力と高いペイロードを利用した搭載火器の高火力化など既存のAPとは一線を介す機体となっている。

 現在、それが配備されているのはガイアフォースただ1つだ。




「そうだと考えます。私はその後、集落の生き残りがいないか探し自衛団をやっていた男を見つけました。その男に私は自分の身元と憲兵である事を明かし事情を聴きました」


「それで何と答えたんだ?」


「その男の話では自分達は不審者を目撃し集落を警らしていた。そこに紅い羽根付きのAPに攻撃されたと言っていました。写真を見せ確認しました。間違いないと答えました。自分達の停戦信号を無視して攻撃して来た機体だと言っていました」


「そうか。なら、ツーベルトと虐殺をしたと言う事で決まりだな」


「えぇ、それは間違いないでしょう。そして、追加調査ですが、パリにあるツーベルトの自宅を調べましたが特攻機に関与した痕跡は見受けられませんでした。上手く痕跡を隠したか、そもそも関係がないモノかと思います」



 どうやら、特攻機とツーベルトの繋がりは無さそうだ。

 これで手掛かりは無くなってしまったと分かったので別の手を打たねばならないとカーンは頭の中で判断した。

 ただ、報告するジオは神妙な面持ちで何か言いたそうにしているのが見えて「どうした?」と聴いた。



「実は今回の調査、少し妙な事がありまして」


「妙?」


「サランクス調査の際に例の少女に関して聞き込みをしましたが市民の反応が可笑しかったです。少女を知らないと答える者までいました。それだけならまだしも、そこの民はまるで少女を避けているようにそれこそ憎悪すら浮かべていました」




 ジオは何か違和感を覚えるように多少おぼつかない口調で語り始めた。




「憎悪か……お前はこれをどう解釈する?」


「そうですね。生き残り達が何者かに脅迫され黙っているか?集団催眠の類に掛かっているか?だと考えます。いずれにせよ。これ以上の推移は出来かねる事です。今回の内定の判断材料としては低い事項だと考えます」


「そうだな。例え、ブルーに不審があろうとツーベルトの虐殺事実が消える訳ではない。直ぐにツーベルトを拘束しろ!取り調べは任せる!」


「分かりました!それと隊長これは些細な事かも知れませんが良いですか?」

 

「なんだ?言ってみろ?」

 


 ジオは抱える微かな違和感を報告することにした。

 職務上、細かな事にも注意するカーンは話を聴く事にした。




「先にも述べましたが少女の写真を見せた彼等は一様に嫌な顔をしていました。まるで仇の顔でも見た様な顔です」


「……続けろ」


「特にその中でもとある婦人が一番怪訝な顔をしていました。一歩間違えると怒りが込み上げんばかりの顔でした」


「その婦人が気になるのか?」


「長男を持つ私には分かります。その少女とその婦人は親子です。苗字も同じ事からそれは窺い知れます。それに婦人と少女は目元がよく似ています。私の直感がそう告げるのです。ですが、その婦人もまた少女を知らないと答えました。婦人の顔には自然と憎悪を覗かせる顔がありました。私にはこれは何か只事では無いと思えてならないのです」




 カーンは項垂れる。

 確かにジオの懸念も分かる。

 この調査結果はどこか異質さを感じざるを得ない。

 ツーベルトを憎むなら分かるがなぜ、仲間とも言える少女を憎むのか?

 もしかするとあの少女が何かの意図で仕掛けた事なのかもしれない?

 ただ、それを少し強引な気もする。

 そんな事をしなくても事件を解決できるはずなのでそうするメリットはどこにもない。


 と言う事は少女はその憎悪の件とは何の関係はないと言う事になる。

 なら、なぜ難民は彼女に憎悪する必要がある?

 この事件何か底知れぬ深さを感じる。

 それもツーベルトに問いただせば分かるかもしれない。




「娘を意図的に避ける親か……もう既に何か起きているのか?嫌な静けさだ」




 カーンは心の何処かで思った。

 その予感だけは当たってはならないと……。

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