決戦巨人狩り 2

 数日前の作戦会議




 アリシアはADの攻略の為に編み出した秘策を彼らに明かした。




「作戦はこうです。まず、電導性の高いテザーを用意します。それを壊れかけの衛星に動力配線と繋いで、それをADのバリアに投げます。テザーがバリアに接触すれば、そこから敵のエネルギーを搾取し壊れかけの衛星を無理やり稼働状態にする事で途方も無いエネルギーロスを発生させます」




 アリシアは簡易的な絵で構図を説明していた。

 残骸衛星同士を2本のテザーで繋いだ絵だ。

 天音がくれた予測進路上にある戦闘予測区域には無数の衛星の残骸が存在し地球圏から離れている事もあり、レーザー処分しきれなかった衛星が今でも漂っているのだ。       




「つまり、凄い燃費の悪い衛星にエネルギーを消費させてバリアの機能を落とすと言う訳か?」


「そうです」


「だが、ADのバリアの熱量でテザーが焼き切れるのでは?」


「勿論、いつか切れますね。でも、簡単には切らせない。テザーの電導性を上げれば、熱には耐えられます。あのバリアは対象にエネルギーを流し込む事で絶縁破壊もしくは電気的な熱損失より生まれた熱で物体を融解させる。なら、電導性を上げれば熱損失を抑えられ、融解もし難くなる。それならエネルギー搾取も可能です。そして、私達はこの円盤型のADの真横の縁から攻撃を仕掛ける」


「何で真横の縁なんだ?」




 アリシアは簡易的な絵に描かれた円盤の繋ぎ目たる真横のラインを指さした。




「構造上この円盤の繋げ目と思われるこの一点に負荷をかければ、円盤を最小の労力で倒せる。衛星とテザーの組み合わせを”流れ星”と呼称するなら、流れ星を3発打ち込んで最後に巨大な流れ星をこの一点に叩き込めば、衛星に質量と慣性が大きい宇宙空間ならそのままADを真っ二つに出来る」




 アリシアは機械工学にも精通している。

 その観点から見てもやはり円盤型の機体になれば、恐らく最終的に上の半球状の円盤と下の半球状の円盤を溶接する必要が出てくる。

 加えて、このフリスビーの様な円盤型は上や下、大きな範囲で横からの力にも強い。

 だが、接合部であり、円盤周囲の縁となるこの箇所一点に力学的外力を加えると構造的に脆く、上手く行けば溶接部から亀裂が奔り、上と下で別れる可能性があった。

 そして、現在作戦は順調に進んでいた。

 



 ◇◇◇



「出力60%損失!バリア減衰!」


「3発目が飛来!」


「迎撃しろ!」




 だが、迎撃システムの出力は完全に落ちており、アリシアとミーゲルが運ぶ流れ星に被弾してもダメージは殆ど無い。

 そのまま、流れ星がADに被弾した。

 そして、ADの残りのエネルギーを全て削り取り、バリアは完全に失った。




「バリア復旧は!」


「およそ、3分!」


「急がせろ!」




 だが、もう遅い。

 6機のAPは自身の機動力で隕石型の資源衛星を牽引してきた。




「アレを……ぶつける気か……」




 ウィーダルは戦慄し悪夢を覚えた。

 高が6機のAPに無敵と思われたADが敗れようとしている。

 僅かな時間と奇襲とも言える奇抜で大胆さすらある1つの作戦の前に無敵とも思われた自分達の希望が詰まったADケルビムが敗れようとしていた。




「そんな馬鹿な……」




 放たれた隕石は既に軌道変更は出来る状態になく、ADに迎撃する力もなくこのまま隕石が命中するのは必死だった。

 「もう終わった……」とウィーダル達は思った。

 開戦直後に始まった快進撃は一気に終焉に向かおうとしていた。

 だが、突如敵のAPに対して砲撃が為された。

 ウィーダルはすぐに確認させた。

 自分の作戦では伏兵などは仕掛けていなかったはずであり、このタイミングで攻撃ができる部隊などないからだ。

 だが、その答えはすぐに分かった。

 その砲撃はあり得ない事に伏兵の友軍艦であるはずの地球統合軍からの攻撃だったからだ。




「各機に告げる。作戦を妨害する敵のAPを叩け!」


「どう言う事ですか?宇喜多司令。あれは友軍ではないか!」




 ある戦艦の艦長が必死に申し立てる。




「あの様な機体は我が軍の作戦には参加していない。増援の要請も無い。つまり、所属不明のテロリストだ。これ以上の弁論がいるか?分かったらさっさと仕事しろ。敵のAD諸共葬れ!」




 彼の中には自分の名誉を挽回する事しかない。

 自分の作戦が失敗した以上、こちらで自分の艦隊がトドメを刺すと言う事実を残し、所属不明機はテロリストとして処分する以外に名誉を挽回出来ない。

 一連の行為はテロリストの内輪揉めで片付けるだけだと言う浮付いた気持ちから彼は愚かな策を取ってしまった。

 そのまま艦長の通信を一方的に切った。




「クソ!何がテロリストだ!あのポンコツ司令め!」




 艦長は悔しそうに地団駄を踏む。

 だが、命令された以上攻撃するしかない。

 そうしなければ、自分達が処断されるからだ。

 だが、せっかくの起死回生のチャンスを棒に振ってまで伏兵を攻撃する事に何の不審も抱かぬ者はいなかった。

 それが如実に現れる事はなく彼等はそのまま攻撃した。

 資源衛星は完全に砕け、アリシア達各機は散開し回避する。




「くそ!何でこっちを攻撃してくる。識別信号が出てる筈だろう」


「ダメだ。こっちの通信に応じない!」


「何でだ!何で何だよ!」




 断末魔にも等しい悲痛の叫びを浮かべながら、3人兄弟は回避する。

 そして、ウィーダルと言う男はその機を決して逃さない。



 

「よく分からんが敵は内輪揉めを始めたな!今の内にエネルギーの回復を急がせろ!」




 ウィーダルは内心、呆れていた。





(何とも後味の悪い皮肉めいた結果だろうか……敵が馬鹿で助かったが、これほどスッキリしない活路があるだろうか?真に恐れるは有能な敵ではなく無能な味方とはよく言ったものだ。地球軍がここまで腐敗しているとはな……)




 非常に気持ち悪い、歯切れの悪い活路ではあるが、先の戦闘でエネルギーが枯渇したADは最大の盾である重力バリアと電磁バリアが消え、戦艦の砲撃に装甲は剥がれていく。

 所属不明のAPに対する攻撃もあったが、その大半がADへと向けられていた。

 ウィーダルからすれば全力で砲火すれば、活路があると考えているので非常に愚かな選択に見えていた。

 



「良いか。まずは敵のADから撃墜するんだ。所属不明機は後回しにしろ!部隊に徹底させろ!」




 戦艦の各艦長は司令に悟られない様にそんな連絡を回した。

 全員が宇喜多のやり方に反感があるようでその要求を飲んだ。




(すまない、名も知らぬ同士よ……我々にはこのくらいの事しか出来ない。だが、忘れはしない。貴官が我々を救ってくれた英雄である事を……)

 



 艦長達は宇喜多を止められない自分達の後悔と慚愧の気持ちしかなかった。

 命を懸けて守ろうとしている友軍に牙を向けているのだから……。





 ◇◇◇




「お嬢!何とかならないのか!こんな時の為の策とか?」


「妨害に対する策ならあったけど、完遂前に邪魔される事は考慮してなかった。ごめん!」


「確かに普通、あそこで邪魔をする奴なんていない。仕方がない。撤退を進言するがどうだ?もう決着は付いた。これなら特攻機の出番はないだろう」


「そうですね。全機撤退します」




 だが、事はそう上手くは回らなかった。

 突如、薄くなったADのバリアが一気に回復しエネルギーが復活した。




「な!」




 アリシアは予想外の事態に驚いた。

 エネルギーは大幅に奪われたはずであり、エネルギーの回復には相当の時間が掛かるはずなのだ。

 だが、予想に反して敵のバリアは確かに復活していた。

 それに伴いADからの猛攻が復活し撤退が困難になり始めた。




「危なかったな。まさか、地球人如きにフィジカルコンデンサーを使う事になるとは……」




 これは彼等が地球を短期間で制圧する為に用意した超蓄電システムだった。

 エネルギーを運動エネルギーとして保存する事で莫大な電力を永続的に確保するシステムだ。

 これにより既存ADの2倍以上の出力を確保する事に成功したのだ。

 バリアが蘇りADからの砲撃の雨脚が強くなり、再び艦隊にも猛威を振るい激しい弾幕が全面に照射されていく。

 アリシアは自然と苦々しい顔を浮かべていた。




「くっ攻勢が強い!」


「まさか、あんなの用意していたとはな。これで振り出しに戻ってしまった」




 だが、お陰で地球統合軍の艦隊は自分達に攻撃する暇が無くなった。

 そこには感謝すべきかも知れない。




「あのAP中隊を逃すな。一気に静める。対AP用ブーメランを使え!在るだけ全て使って動きを鈍らせろ!」





 ADの側面からアリシア達に向け、何かが無数に放たれるのが見えた。




「何か来る!」


「アレはブーメランだ」




 どうやら、リリーは知っているようだ。




「ブーメラン?」


「対暴徒用に開発された飛翔拘束具だ。だが、あの大きさ。恐らく、AP用だ。気をつけろ!接近を許せば、吸着で身動きが取れなくなる!」


「各機。散開ブレイク!」




 アリシアの指示で各機体は散開した。

 ブーメランは目標を捉えると吸い寄せられる様に向かってくる。

 アリシア達は手持ちの武器でブーメランを迎撃する。

 だが、ブーメランは面積があり弾丸を当てても一部が破け、速度が減衰するだけで目標を追撃し続ける。

 シンはスピアを使いブーメランに狙いをつけた。

 スピアはブーメランを的確に貫通しながら進んでいく。

 だが、スピアはブーメランの数に押され貫通する度に速度が減衰していく。

 忽ち、スピアの速度が落ちブーメランに捕獲されていく。




「くそ!なら、これで!」




 シンは量子回路を介してライフルからレーザーを放ち、レーザーでブーメランを薙ぎ払った。




「今だ!一回撤退するぞ!」




 全員が「「「了解!」」」と返答した。




「ほう……APに光学兵器か。地球のAPの技術は高い様だな。だが!」




 ウィーダルはタッチパネルを操作しブーメランの放出量を増やした。




「ブーメランが増えた!逃げ切れない」


「くっ」




 アリシアも量子回路を使い右肩にマウントされたライフルを取り出しレーザーを放った。

 2つのレーザーの軌跡はブーメランを悉く焼き払っていく。




「今よ!早く逃げて!」




 アリシアは仲間を守る為に自分を犠牲にして必死に訴えた。

 短い間柄だが、彼らを失いたくないと言う想いが芽生えていた。

 最初こそ自分に反発していたが、それでも自分に従順で何かと気にしてくれた彼らが愛おしくなっていたのだ。

 まるで母親が子供を守るかの如く、彼らに愛着すら湧いていたのだ。

 アリシア アイと言う人間は生まれ変わり、何かを守る為なら自分の命を一切惜しいと思わない女になっていたのだ。

 だから、自分の身の安全より彼らの身の安全を自然と優先視してしまう。

 だが、彼らも同じようにアリシアの事を思っていた。




「お嬢、置いて逃げれるかよ!」


「俺達にも何か!」




 その気持ちは凄く嬉しかった。

 自分の事をそこまで慕ってくれるその気持ちはとても暖かかった。

 でも、だからこそ、アリシアはより一層彼らを救いたいと思ってしまう。

 自分が嫌われたとしても救いたいと駆り立てられてしまうほどに……。

 だから、嫌われる覚悟でハッキリと答える。




「貴方達がここでする事はない!此処にいても足手まといだよ。分かるよね?」




 確かに彼等の武装ではブーメランに対して有効な武装はない。

 いるだけ足枷になるのは自明だ。

 だが、本題はそれではない。

 彼女は言った。

 

 ここでする事はない。

 

 つもり、別の所で何かをしろと言う意味になる。

 それはただの言い訳であり、自分達を逃がし易くする為の方便だと既にバレていた。

 今の彼女に救う事に全ての力を使いこれ以上の余裕はないようでそれ以上の事は言わなかった。

 そんな想いを無駄にできないと想いと救いたいと言う想いが、鬩ぎ合い3人は歯を食い縛り彼女の命令を聴いていた。




「分かった。私達は離脱する」




 リリーはアリシアの気持ちに応えた。

 リリーもアリシアの殊更の気持ちを分かっていながら、3人を連れて離脱しようとした。




「少尉!本当に良いのか!」


「そうだ!」


「このまま、逃げるなんて!」


「聞こえただろう。隊長は離脱を指示したんだ。それともお前達は彼女を信じられないのか?」




 その言い方は反則だった。

 

 ここで背いたら自分達のアリシアを信じていない者にされるではないかと……。


 軍人として上官の命令には従わなければいけない。

 出なければ、作戦と規律が乱れ部隊全滅の恐れが出るからだ。

 仮にも今の上官がアリシアである以上、彼等はそれに従わなければならない。

 だが、心の何処かでは年端もいかない女の子を残して自分達だけ生き残る事に罪悪感しかない。

 彼等は渋々、リリーの後に付いて行く。

 それはリリーも同じだった。

 彼女はアリシアに聞こえるかも分からない通信を送った。




「必ず、帰ってこい」

 



 リリーは本当は撤退はしたくなかった。

 だが、今の自分に出来るのはせめての励ましの言葉を贈るくらしかできなかった。た。

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