決戦巨人狩り 1
3日後
地球統合軍の艦隊の目の前には銀色の円盤状の宇宙統合軍のADが迫る。
地球軍の100隻を超える艦隊に対して敵はたった1隻、今か今かとその時を待つ。
ただ、それは戦いが迫る緊迫感とは少し違う。
彼らの中でこの戦いは勝ったようなモノなのだ。
物量でこちらが勝り、宇宙軍の兵力の質は悪いと情報を受け尚且つ、事前通達で司令直案の作戦で安全が確保されていると通達があった。
そう、ここにいる者達のほとんどはこれから”狩り”をするような高揚感に酔っていたいのだ。
「宇喜多司令準備が整いました」
「よし御苦労だった。下がって良いぞ」
宇喜多は宇宙戦艦のブリッジから様子を伺っていた。
ちなみに彼がこの場にいるのは、自分の管轄の特攻兵器の監督と言う名目で現場の総司令をしに来ているからだ。
自分が建てた作戦と兵器で活躍して、前線で自分が立つ事ほど示威的な演出は無い。
要するに自己アピールと見栄であり、宇喜多は大きく両手を開き全艦隊に告げた。
「勇敢なる統合軍の諸君!我々は今、最大の悪との対峙を目の前にしている。奴らは大戦時に宣戦布告無しに地球に衛星を落とし地球圏に混乱を齎した。我らはそれを厚生させ温情まで与えた。にも関わらず、奴らは再び地球圏に牙を向こうとしている。我らによる秩序と安定、平和を再び破壊しようとしている。我らはこの悪と戦わなければならない。しかし、諸君らは命をかける必要は無い。私はその為に最新鋭の特攻兵器を作った。これは前線の兵士を死なせない為だ。犠牲はゼロには出来ないだろう。誰かが死ぬかも知れない。しかし、これで死ぬ者は格段と減る筈だ。だから、宣言しよう!私の戦争に命を無為に奪わないと!」
その言葉に多くの兵士が歓声を上げ、誰もが熱気に包まれていた。
人が死に難く、安心して勝てる戦でかつ、大規模な作戦に参加出来たと言う事に伯が付くという事に皆が浮かれていた。
「宇喜多司令。俺はやります。平和な世界の為に俺は誰が相手でも必ず戦い抜く。この作戦必ず成功させる!」
紅い機体ガイア2αツーベルト マキシモフは意気込んだ。
だが、この熱気を快く思わない者達もいる。
少なくとも、その内一つは黙々と作業を進めていた。
「準備は良いですか?フーゲル、ユーゲル?」
「あと少しで完了します」
「もう少し待って下さい。お嬢」
「出来る限り急いでね」
アリシアは宇宙用のヘルメットを被り、AP越しに経過を聴いて、とりあえず安堵した。
何とかこっちの準備にも間に合いそうであり、後は成功させるだけだ。
そんなアリシアは宇喜多司令の演説を聞いて呟いた。
「何が悪よ……何が命を無為に奪わないよ。サマ士め!ADで悪ならあなたは悪魔だ」
この戦いアリシアにとっては全てが敵と変わらない。
熱気に浮かれた兵士とそれを従える悪魔……そして、迫る
それらを全て敵にしなければならないのだから……。
◇◇◇
「何が悪だ。お前達地球統合政府こそ悪だ!」
宇宙統合軍の艦隊司令官ウィーダル ガスタは白く短髪オールバックの年忌の入った50代のダンディーな顔立ちから憤りが露になっていた。
一方的なエゴを押し付け、一方的な貪欲を押し付けられ、彼らの貪欲を満たす皺寄せをこちらを寄せられたのだ。
宇喜多の発言は彼らの想いを逆撫でし、ウィーダルも負けじと全体を鼓舞するように演説を始めた。
「敬愛なる宇宙の同士よ!アレが地球人だ。アレが真の悪魔だ!我々の資源を搾取する為に偽の事件をでっち上げ我々から自由と幸せを奪った許されざる悪魔なのだ!悪魔とは人間にとって絶対的な敵である!悪魔が人間の味方をする事は無い!故に我らは我らの同士達を守る為に地球人を抹殺しなければならない!奴らが居なくなって初めて真の平和を勝ち得るのだ!そして、我らには無敵のADケルビムがある。統合政府は我らを侮りここで決着をつけようとしているだろう。そこが勝機だ!我らは必ず地球人を抹殺する。最後の1人たりとも残すな!地球人は全て抹殺するのだ!」
ウィーダル司令官のその声に大きな歓声が湧いた。
虐げられた者からの反逆のボルテージが最高潮に高まる。
今までこの時は今か今かと待ちわびて来た。
多くの塗炭の苦しみと辛酸を舐めさせられ、迫害され、不当な差別を受け搾取されてきた。
敵が”狩り”ならここにいる者達は”復讐”の為に立ち上がり、高揚していた。
だが、それは地球のように楽しむ気持ちなどまるでない。
殺意を持って効率的に地球を滅ぼす為の殺戮マシンのようになり、仲間を守る為に地球人を殺さねばならないと言う”覚悟”があった。
この戦いにもし、彼女が介入しなかったら部隊の士気などの面で地球統合軍は敗退していただろう。
”狩り”と”復讐”の戦いはこうして、開戦した。
地球軍は当初の作戦通りに特攻機によるバリアの減衰を計る為に特攻機の発進準備を着々と進める。
戦艦の下部のハッチが開き、戦艦から逆さずりにされた特攻機達が姿を見せる。
様子を観察していたシンが状況を知らせる。
「不味いな。特攻機が出撃を始めているぞ」
「2人とも!準備は!」
「終わりました」
「いつでも、行けます!」
「良し!なら、今すぐにADにとつげ……」
アリシアがADへの突撃を命令しようとしたその時、シンが思わず口を開く。
「いや、待て。ADの熱源が上がっている?!」
ADは有効射程に入ると艦隊に向け、砲撃を始めた。
圧倒的な巨体から放たれるレーザーは最小の武装でも高い火力を持つ。
対艦迎撃装置がまるで機関銃の如き連射力と圧倒的な長距離攻撃……そして、1発の直撃は戦艦を轟沈させる程の火力がまるで雨の如く地球統合軍に注がれていく。
その弾幕の前に戦艦は一気に轟沈、全体の30%が轟沈した。
幸い、前面にいた艦隊の撃沈であり、後方への被害はなく後方からの発進となっている特攻機にも被害はない。
これも宇喜多が特攻機の秘密を知られない為に後方にいる自分の艦隊周辺に協力者の艦隊を集結させていた結果だった。
「総司令。友軍の30%が損失しました」
「こちらも速く迎え撃て。特攻機を出撃させろ!」
「ダメです。シュミレートしましたが現在の弾幕では100%迎撃されます」
「ならばまず、迎撃装置を破壊しろ!迎え撃て!」
地球統合軍は特攻機の投入を誤った。
敵の予測有効射程が違ったのだ。
地球製のADから試算して敵の火力や射程を計算していたのだ。
それを踏まえ損失等を踏まえて特攻機による戦術の最大効果を考えていた。
だが、敵の火力と弾幕は軍の予測を遥かに超えていた。
特攻機全体の50%が命中すれば成功とされた目的は敵が100%の迎撃力を持つ事で形骸化した。
「宇宙人の分際で!」
宇喜多は宇宙軍に対して歯軋りしながら、忌々し気に罵った。
一方で宇宙軍のウィーダルは淡々と状況を分析する。
「何がしたかったのかは知らんが、どうやら見誤った様だな。まさか、こんなに上手くいくとは敵の司令官はよほどの無能と見える」
宇宙軍のウィーダルは敵の行動を注意深く観察し考察した。
ウィーダルは敵が判断ミスをした今を逃さず、一気に畳みかける。
一方、一連の流れを見ていたアリシア達もこの状況を分析していた。
「通信を盗聴した。どうやら、敵の戦闘能力の試算が甘くて作戦プランを破棄した様だな」
「こんなに簡単に作戦プラン破棄なんて判断が早いのかそれとも馬鹿なんですか?」
「俺が知る限り、宇喜多は実戦では素人に苔が生えた程度の愚将だ。恐らく、馬鹿なんだろう」
「そうですか。馬鹿ですか。なら、その馬鹿さ加減には感謝しないといけませんね。お陰で特攻機は出撃しない。大義名分で私達の作戦を堂々と邪魔されずに行えるかも知れません」
シンと警戒にあたっていたミーゲルがアリシアに質問する。
「お嬢は軍と交戦する事も予測してたんですか?」
「権欲が強い司令官なら自分の手柄にする為に私達を妨害者として処断すると考えてました。まぁ、対策は打ってますしそれは最悪のパターンでは有りませんよ」
「ちなみに最悪のパターンってのは、何なんですか?」
「それは秘密。今知る必要はありません」
アリシアは全員にいつでも出撃できるように促す。
「じゃあ。始めよっか。これより
地球の戦艦は砲撃を放った。
ADの前面に向けて、砲撃を繰り返した。
しかし、ADの重力バリアは一切の貫通も減衰もしない。
重力により、空間が歪みレーザーは湾曲し一切の攻撃が通らない。
それどころか、そのバリアは艦隊の飽和攻撃を平然と凌ぎエネルギーの減衰すら見られない。
「ふふふ。地球のゴミ虫ども。貴様らの慌てぶりが手に取るように分かるぞ。お前達は我々の技術が地球の技術を超えるわけがないとでも考えていた。地球製のADを基準にこちらのケルビムの性能を測ったんだろうな」
正しくその通りだった。
ウィーダルは地球側の思考を読んだかのように的確な分析と考察を述べた。
同時に敵の戦力見積もりが甘いという情報を入手したも同然だった。
「だがな。我々のケルビムは地球の貧弱なADとは違うのだよ!お前達がAP開発に現を抜かしている間に我々はこの15年AD開発に全てを捧げてきたのだからな!」
例え、スペースコロニーがファザーの管理下にあるとしても管理コンピュータファザーは地球圏の何処かにある以上、地球から通信は全て電波である。
中継機を使っても必ずタイムラグが発生する。
彼等はタイムラグを利用して地球に偽の映像を送るなどをして隠れながら、これまで準備してきた。
尤も、上手く行き過ぎていたのも事実だ。
出自不明のオーバーテクノロジーを獲得したり、これまで政府に一切悟られず、妨害すら受けずに作戦を行えた事全てが幸運と言えた。
「我々は運命に愛されているのだ。風向きは我らに傾いた!主砲を準備しろ!」
ウィーダルの指示に従いケルビムの前面に2本のレールが展開され、その中心部に黒い塊が浮き上がった。
「宇喜多司令。敵の弾幕が薄くなって来ました。これなら作戦プランが実行出来ます」
「全く手間を取らせやがって、直ちに特攻機を出撃させろ!」
「待ってください!敵前方にエネルギー反応が増大。いえ、更に異常な重力反応を確認しました」
「なんだアレは……」
黒く丸い何かが敵のAD前面に現れるとそれは膨張を続けていく。
それをどう形容すれば良いだろうか?
強いて、当て嵌めるならブラックホールとでも言えば、良いかも知れない。
すると、艦の座標、航海データに誤差が正直始めた。
「これは……」
「何が起きている!報告しろ!」
「アレは数値や重力変化から推移するにブラックホールと考えられます」
形容どころか本物のブラックホールだった。
宇喜多はその言葉に戦慄を覚えた。
「何?ブラックホールだと?そんな馬鹿な話しがあるか!相手は只の宇宙のゴミ屑だぞ。ゴミ屑にそんな力がある訳が無いだろう。調べ直せ!」
「しかし、コンピュータで何度シュミレートしてもアレはブラックホールです」
すると、宇喜多は唐突にそのオペレータを射殺した。
何が起きたのか?なんでそんな事が起きたのか?全く理解できないまま茫然と宇喜多を見つめるオペレーター達に宇喜多は支離滅裂な命令を下した。
「我が軍に誤報を齎すスパイは今粛清した。お前達さっさと調べろ。俺を納得させる報告を待ってるぞ」
彼は不敵なニヤケ顔でオペレータ達に一瞥する。
要は「真実」ではなく「自分の気に入る報告を待っている」と言う無言の圧力だった。
宇喜多の宇宙軍を見下す気持ちが「宇宙軍がブラックホールを作れるわけが無い」と言う固執を与え「それ以外の自分が納得できる可能性があるに違いない。それ以外は知らん」と言う考えに行きつかせた。
オペレータは顔に油汗を滲ませながら、職務に戻った。
命令された以上オペレータ達は任務をやるしかない。
その間にブラックホールである事実は伏せられ、戦場に混乱を招くのであった。
友軍の機体や艦は黒い球体が大きさを増す毎に徐々に吸い寄せられ、機体各部の座標の狂いを感じ始めた。
「アレは一体何なんだ?それにさっきから座標が可笑しい。動かしていないはずなのに勝手に動いている。とにかく、アレから離れた方が良いな」
ツーベルトはスラスターを噴かせ、黒い球体から離れようとした。しかし、何度やっても座標が戻らない。
戻らないどころか悪化している。
艦隊も異変には気づいている様であの黒い球体に向け、レーザーを照射し続けるが意味が無い。彼等はアレがブラックホールである事に気付いてない。
気づいている者もいるが、司令に問い合わせても「そんな事実は無い」とオペレータが返すだけだ。
すると、ハッキリと分かる異変が起き始めた。
周囲の隕石群が徐々に動き始めていた。
それに伴いAPも戦艦も徐々に軌道修正困難な程にADに近づいていく。
その時、全員が確信した。
ブラックホールなのだと……全滅を覚悟した。
統合軍の機体は全員がスラスターを噴かせ、ADから離れようとする。
しかし、重力場に捕らえられた彼等に逃れる術はない。
更に動きが鈍くなったAPや戦艦には容赦なく対艦迎撃システムが無慈悲な砲火が浴びせられる。
全滅は必死だった。
地球軍の誰もが「もうダメだ」と思ったその時だった。
ADがレーダーで高速物体を捉えた。
「後方に感あり数は6です」
「敵の伏兵か。モニターに映せ!」
そこには6機のAPが何かを担ぎながら、こちらに突撃を仕掛けて来た。
主砲攻撃中は、回頭は出来ない。
と言うよりはそれをする意味も無い。
何せたった6機のAPで何が出来る訳でもない。
とそれがウィーダルの油断に繋がった。
「スターダスト2~6へ。計画通りに突撃する順次ローテーションで流れ星を当て命中させる!」
「「「了解!」」」
彼等はその流れ星を担ぎながら突撃した。
それはウィーダルにも見えてはいたがバリアで防げば、同じ事と考えてしまった。
その流れ星は壊れた2つの人工衛星に2本の紐が付いているだけの何かだった。
馬鹿げている。そんな物が通じる訳がないとADにいた誰もが想い地球人の猿のような浅知恵と冷笑した。
そして、流れ星は誰にも阻害されず、2機のAPに牽引されながら放たれた。
流れ星はバリアに直撃、爆ぜ……無かった。
紐はバリアに食い込み2つの衛星がADの両真横を通り過ぎる様に通り抜けようとする。
しかし、紐がバリアに食い込んで中々前に進めずにいた。すると、異変が起きた。
「バリア出力が一気に低下!30%損失!」
「何だと!馬鹿な!あんな攻撃に効果があるとでも言うのか!直ぐに振りほどけ!」
「ダメです。衛星の質量に押されて身動きが取れません!」
「主砲を止めろ!バリアに出力を回し衛星を焼き尽くせ!」
そして、主砲が停止を始めた。
「何だ?一体何が?」
そこでツーベルトを始めとした艦隊が気づいた。
ADの後方で6機の機影が動いている事に……そして、その内の1機が彼等の目を引く。
「コードブルー……まさか、お前が……」
彼は少し困惑した。
先日、貪欲の為にニジェール支部を妨害して、リリーを撃墜した者が今はこうしてこちらを助けている。
その行いは少なからず、善に見えた。
だからこそ、なおの事、分からない。
あの者が何がしたいのか理解出来ない。
だが、彼の中には助けられた事への感謝は頭の中ではあったが、心ではそれを認めていなかった。
初弾を放ったリリーとフーゲルペアは感激していた。
「上手く行きましたね!」
「まさか、こんな方法で……」
理屈の上では成り立っていたが、よもやここまで上手く行くとは思わず全員が感心していた。
「気を抜かないの!次行く!」
アリシアの言葉でリリー達が気を引き締め直す。
そして、バリアに食い込んだテザーが焼き切れ、衛星はそのまま飛び去った。
「衛星の拘束が解けました」
「敵軍に構うな。あの伏兵から叩き……」
「第2波来ます」
「撃ち落とせ!衛星を近づけさせるな!」
迎撃システムが彼等に向けられた。
放たれた光線の雨が彼等に迫る。
だが、弾幕は薄くなっていた。
さっきの一撃でエネルギーを大きく損失した事でバリアの出力も迎撃システムの出力も相対的に低下していたのだ。
シンとユーゲルペアは衛星をけん引しながら回避を取る。
「弾幕が予想よりも低い。何とかなる」
「この為にシュミレーター動かした甲斐があったぜ。ここまで来たらやってやら!」
彼等は弾幕を避けながら2発目を放った。
2発は被弾を何発か食らったが質量と敵の光線の威力低下もありそのまま激突しテザーがバリアにさっきよりも食い込んだ。
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