思惑まみれの戦場

 エジプト基地では上空でステルス輸送機が飛行していた事に気づいていた。

 だが、すでに何かを降下した後の様でハッチが閉めかかっており、どんどん戦域から離脱していくのが基地を占領したサレムの騎士達が確認した。

 その直後、基地のレーダーが反応した。




「レーダーに感あり!」


「軍の連中か?馬鹿め!わざわざ、自滅に来たか?数は?」


「数は1です」


「1機だと?映像を回せ」




 サレムの指揮官はその敵影を見た。

 1機の蒼いAPが戦闘機形態で此方に向かってくる。

 見た事のない形状の機体だった。

 ガンメタリックブルーの装甲は金属装甲を思わせる。

 カメラはバイザーに隠れ、全身が薄く研ぎ澄ました剣のような流線形のボディーをしている。

 武装も基本兵装のG3SG-1ライフルが2丁と両腰の長刀2本くらいだ




「識別信号は?」


「地球統合軍の物ではありません」


「応答は?」


「全て無反応」


「敵対の意志があると見える。今すぐデビル1に伝達。敵勢APを撃ち落とせ」




 指揮官の指示でデビル1……オカマに攻撃命令が下った。




「デビル1了解~!馬鹿な奴め!悪魔の洗礼を喰らうが良いわ!」




 オカマはハイテンションで鼻歌を歌いながら、ルシファーのポインティングキャノンを敵勢体に向けた。

 ルシファーのキャノンに30%エネルギーが伝達された。




「AP相手ならこんなモノでしょう。発射しまーーーす!」




 オカマは発狂気味に敵勢体に引き金を引いた。相手は回避できないまま直撃した。

 悪魔の咆哮は壁に激突する様に干渉した。

 それに違和感を覚えたが、当たれば関係ない。


 このまま砂漠に没し……無かった。

 何事も無かったかの様に蒼い機体はこちらに真っすぐ向ってくる。




「何だと!撃墜されない!」




 指揮官は我が目を疑った。すぐに考えを巡らせる。

 心理兵器が通用しない可能性は相手がAIである可能性だ。

 だが、HPM下である今、あの機体は明らかに戦闘機動を取っている事からその可能性は棄却される。


 なら、あり得ない、信じられない可能性が浮上するしかなかった。

 それはオカマも同じ考えだった。

 だが、俄かには信じられず、別の可能性を無意識に模索し機体ステータスを具に確認するが、どこにも異常はない。




「ちょっと!どうなってるのよ!もしかして、故障―――――!CP!ルシファー不発よ。どこか故障がないか確認して!」


「CP、了解」




 CPはすぐに故障がないか、確認させた。

 その結果にCPは眉を顰める。

 まだ、故障だった方が現実として受け入れやすかったが、彼の願いは現実にあっさり棄却された。

 CPは事実を淡々と伝えた。




「CPよりデビル1。こちらでも故障は認められない。繰り返す故障はない」




 デビル1は我を疑った。「そんな馬鹿な」と言う呟いた。

 ただ、それを自分の都合の良い解釈に置き換える。




「た……偶々、当たり所が悪かったのよ。う、運がいい奴!でも、ラッキーは何度も続かないわよ!」




 オカマは自分の考えを無理に合理化したそうでもしないとメンタルが持たない。

 絶対的な優位性を持ったルシファーが通じない敵が現れた等、味方の士気に関わる脅威でしかない。

 オカマはもう一度ルシファーの主砲を放った。


 そう、まぐれに決まっている。

 この世に悪魔に逆らえる人間などいるはずがない。


 直撃の判定があった。確かに手応えもあった。

 今度こそ……堕ちない。




「な、なにぃぃぃぃぃぃぃい!!」




 オカマは非現実的な事実を受け入れらない。あまり盛大な声で発狂する。

 その声は心に抱いた恐怖が声の震えとして現れていた。




「馬鹿なぁぁぁぁぁそんなぁぁぁぁばかぁぁぁぁぁ!!!」




 彼の目には目の前にいる敵が普通では無さ過ぎて頭が可笑しくなりそうだった。

 サレムの指揮官は直ぐに判断を切り替えた。




「全艦隊に告げる!直ちに敵勢APに砲撃を開始しろ!尚、基地にいる全てのAPはスクランブルだ。APは速やかに排除せよ!」




 勝利を確信した彼らの心に不審な影が迫り脂汗が滲む。だが、所詮敵は1機。

 ルシファーが通じないとしても物力で押せば、勝てない相手ではないはずと指揮官は考えていた。

 指揮官は敵を確実に撃破する為に鶴翼の陣で出撃し包囲殲滅するように指示を出した。




『大丈夫ですか?アリシア』




 気遣うアストの傍でアリシアの額には汗が滲み出ていた。平然としているが苦しそうに見える。




「え、えぇ……この位はまだ許容範囲です。でも、ちょっとキツイかな……」




 彼女には弱音は吐くことはしないタイプだが、アストを信頼しているのか、アストに気持ちをもたれる少し寄りかかる。




『アレでも全体出力の30%と推測されます』


「30……100%撃たれると不味いかも……」





 30%ですら常人ならまずAPをまともに操縦出来ない。

 心不全を起こす程負荷が一気に掛かり、そのまま死ぬ程の致死量だ。

 正直、耐えている時点でアリシアは相当超人なのだ。





(この恐怖と言う鎖に縛られた感覚……間違いない)





 アリシアはこの感覚に覚えがあった。

 かつての自分が悪魔に蹂躙された時の感覚に近かった。

 何百、何千、何万と繰り返した体験……それで何度も死痛を味わい、何度も死んだか数えられない。


 今の自分はそれを乗り越え……乗り越える為に強くなろうと足掻いている自分だ。

 その為に強く成ろうと努力した。

 悪魔の死の鎖を引き千切る様な思いで努力してきた。


 やっと、ここまで来れたのだ。

 ここで負ける訳にはいかないとアリシアは奮起した。


 アリシアは向けられた戦艦の砲撃を躱しながら加速、一気に敵基地に強襲を掛ける。

 敵のAPが出される前には基地に付く計算だ。

 だが、現実とはそうは上手く行かないものだ。

 戦闘機形態に変形し一気に基地に迫ろうとしたアリシアの真横からロックオンアラートが鳴った。




「不味い!」




 戦闘機形態では真横からの攻撃回避は難しい。

 アリシアは仕方なく人型形態に変形して時計回りに旋回するように回避した。




「何!」


『敵機接近』


「数は?」


『36』




 そこに映っていたのは黒く塗装されたワイバーンだった。規模にしてAP1個大隊だ。




「あの仕様……」




 カモフラージュしていたが、アリシアに直ぐに分かった。敵の熱源反応が低い事が分かった。

 正規軍のAPは軍用である為、核融合炉のエネルギーが高めに成っている。


 市場に出回る際はその炉の出力は落とされる傾向にある。

 テロリストでは容易に核融合炉を調整できない。

 敵は核融合の熱を隠しているつもりだろう。

 だが、あの黒いペイントは熱を吸収、発散しやすい塗料が使われている。

 見かけ上の温度は下がっている。


 何の塗料か分かれば、後はそこを逆算すれば大体の炉の温度が分かる。

 昔、遊び尽くした化学実験の知識がここで役に立った。

 その結果が判明し、アリシアはソマリアにあるCPに連絡を入れた。




「ブルー1よりCP。緊急事態。大将に取り次いで!」


「CP、了解。大将」




 すると、モニターにエジプトのソマリア沖の艦にいる天音に繋がった。

 天音もアリシアの初陣の快く思ってはいなかったので自ら近くの海域で待機しアリシアのサポートをしていた。




「ブルー1、どうした?」


「状況説明求む。何故、友軍が私に銃口を向ける?」


「どういう事?」




 アリシアはCCIR(最も知りたい情報)を求めたが、天音が関連情報を持っていないと理解した。




「データ送るから確認されたし!これより自衛行動に入る。あと、支援攻撃求む」




 アリシアは通信を切った。

 アリシアは天音の元にデータを送った。

 そこには簡潔かつ詳細な重要情報が書いてあった。

 彼女が何を言いたいのか?何を求めているのかそれで分かった。




「カモフラージュされたワイバーン。成程、妨害か……誰がやったのか大体の見当は付くけど……彼女に排除させると手間がかかし時間も惜しい。こっちで何とか処理しろ!って、事ね……中佐!」


「は、はい!」




 艦を指揮する小太りの中佐が席を立ち敬礼した。




「これよりミサイルによる支援を行う!敵をロックオン!」


「良いのですか?友軍ですよ?」




 中佐は後に友軍を攻撃した事を問題視されるのではと言う不安から確認する。

 天音は苛立つ様に檄を飛ばす。




「友軍でも今は敵よ!構わない責任は私が取る!ロックオン開始!」


「了解!ロックオン開始せよ!」




 天音の気迫に押され中佐は部下にロックオンの指示を出す。

 戦艦からの信号で人工衛星を使いエジプト基地周辺の座標を読み込む。

 ブルー1以外の全ての敵にロックオンを定めた。




「発射しなさい!」


「了解!ミサイル発射!」




 戦艦から多数のミサイルが発射された。




「こいつら!数だけは多い!」




 アリシアは敵の物量に押されていた。

 敵は連携をしながら砂漠を右往左往しながらアリシアに火力を集中させる。

 アリシアが2丁のライフルに持ち替え、撃ち合っていた。


 アリシアはジャンプし空中でスラスターを噴かせながら避ける。

 敵は連携こそ出来ている。

 だが、敵は個々の能力は高いとは言えない。

 銃の癖がバレバレで集団で構えるのだから、わかりやすい。


 アリシアは集団戦する際にまず、最初に構えた人間を特定する。

 それを基準に見切り、射線から消えれば弾は当たらない。

 馬鹿みたいに一点を狙うから避けるだけなら何とでもなる。

 アリシアは敵の弾幕を避け、躍る様に敵の肢体をライフルで撃ち抜いていく。

 アリシアのダンスに合わせるようにAPの肢体が宙に舞い、残骸や破片が花びらのように舞い、彼女の舞を引き立たせる。


 だが、敵の隙を突いて撃墜しても数が減っている気がしなかった。

 況して、一斉に散開されると1人撃墜しても集団心理のように生き残り、同士が連携に吊られ、そのまま散開するので纏めて始末する事もままならない。


 敵の隊はお互いに連携と言う集団心理を掛けて避けているので質が悪い。

 更に最悪な事にサレムの騎士のAPが次々と戦域に到着、謎の部隊と共にアリシアと戦闘を開始した。


 鶴翼で迫る敵はアリシアを陣の範囲内に入れようとライフルで牽制しながら接近を試みる。

 流石のアリシアのこれだけの敵を相手に殺さずに対処する事が出来なくなった。

 何より自分が生き残る事に情熱を傾けるアリシアにも限度はあった。

 アリシアはすぐに戦術を切り替え、前面から鶴翼で迫る部隊の一番奥を狙う。

 鶴翼の陣の都合上、指揮官が一番奥にいる可能性が一番高いからだ。

 しかも、敵もまだ牽制しているだけで有効射程ギリギリで弾丸の狙いも精確ではない。


 アリシアは狙いをつけて発砲する。

 放たれた弾丸は一番奥にいる敵の指揮官機らしき機体のコックピットを貫き、撃墜する。

 まるで銃声な綺麗な調律を奏でるように更に1発2発と放ち鶴翼を乱していく。

 中には狙われている事に気づき、回避行動を取ろうとした者もいたが、アリシアの機体の挙動と癖を見抜かれ回避した先でコックピットを貫かれる。

 指揮官を失い錯乱した部隊の統率が乱れた瞬間を逃さす。アリシアはコックピットを狙う。

 コックピットには次々と穴が空き事切れた人形の様に地面に落ちていく。


 サレムの騎士の心胆も青ざめていく。

 敵はたった1機で大部隊を相手に1人で相手取っている。

 どんなにエースと言われたパイロットでも1回の戦闘でせいぜい10機落とせばエースと言われる時代で既にあのAPにより50機以上の機体が消えた。


 しかも、その弾丸はどれだけ訓練された回避行動をもってしても一切の狂いなく確実に心臓コックピットを射抜く。

 おまけに戦艦がレーザー砲がある中でその全ての攻撃を避けている。


 戦域のパイロットにとってそれは最早、“死神”と言える化け物として畏怖の対象になりつつあった。

 そんな事とは知らず、アリシアは必死に避けて必死に狙いをつけていた。

 APならまだしも、戦艦のレーザー砲には癖も何もないので光学自衛機能と自分の身体能力を駆使して避けるしかない。

 敵味方全ての火力がアリシアに注がれる。嫌がらせとしか思えない。


 たった1機で未だに生きている辺り、彼女の技量は自身の想像以上であった。

 逆に敵の攻勢を強めるのに拍車を駆けていた。

 たった1機で味方を躍る様に撃墜されている。




「くそ!何をやっている!相手はたかが1機だぞ!」




 指揮官は焦りを見せていた。高が1機を始末するのに時間がかかり過ぎている。

 流石に指揮官も地球統合軍が何らかの意図であの機体を送ったと勘繰り始める。

 加えて、蒼い機体には心理兵器が一切通じないという事実が絶対的優位を保っていた指揮官の焦りを加速させる。




「どうして!どうしてなのぉぉぉぉ!何でくたばらないのよ!!」




 オカマは何度も何度も敵機に砲撃した。その度に出力を40、50、60と上げていく。

 だが、敵は全く止まる気配すらない。

 サレムの騎士の中に焦りが見え始め、敵への畏怖から士気も落ち始め、勢いを失速していく。

 それは謎の黒い機体群も同じだ。




「良いか!お前達!生き残りたいなら速く敵を落とせ!」




 黒い機体群の大隊長が若者達に指示を出す。生き残りたいのは黒いワイバーンに乗る若い者達も同じだ。




「くそ!速く!速く!落ちろよ!」


「お願い!落ちて!」


「くそ!速く終わらせろよ!」




 彼らもこの戦いが終わる事を願っていた。

 ある日、いきなり日常を奪われ、戦う事を強要されいきなりこんな任務を与えられた。

 彼らは一時でも早く、この地獄から解放されたかった。

 中々、撃墜されない蒼い機体に焦りと忌々しさを募らせる。

 その時、遠くからミサイル接近の警告音が鳴り響く。

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