帰郷.2
「古い作業小屋のわりにきれいに掃除されてるね」
「メリラに言っちゃダメよ?私もどう見ても住居だと思うけど、ここは古い作業小屋だって言い張って聞かないから。私だって鍵を貰えなかったから、今日初めて入ったもの」
仕事を途中で切り上げて、泥だらけで汚い男2人をなんとかしてこい、とメリラから言われたラズは、新居の扉を開けて驚いていた。
「なんでもいいじゃん!ただいま!僕の家」
初めて入った場所だというのにスフィヤはそんな挨拶をしている。
「子供は適応が早いなあ…」
それを見てティファンは少し羨ましそうに呟いた。
「スフィヤ、旅はどうだった?危ないことはしていないでしょうね?」
一息つく間もなしにラズはスフィヤに尋ねた。
「うん、危ないことなんて何もしてないよ」
咄嗟にここにくる直前に寄った王国での出来事を思い出したが、一から話したら大変な長編になってしまうし、いつか話せばいいだろうと思い直してスフィヤは少しだけ嘘をついた。
「僕がいたんだから大丈夫だよ」
それに対してティファンにとってはあの程度のことは本当に危ないことには入らなかったのか、のんびりとした口調で返事をする。その父の器の大きさが少しだけスフィヤの嫉妬心を刺激した。父は息子に、息子は父に、互いに少しだけ羨望を抱いている家の中は、まるでずっと家族であったかのように自然な空気を醸し出していた。
「あなたの基準で考えられたら余計に心配なのよ」
そんなことを言う母は父のことをどのくらい知っているのだろうか、とスフィヤは気になった。12歳の自分が父と再会したのが、母も12年ぶりの再会だったと言う。でもそれ以前の話はスフィヤはほとんど知らない。こんな言い回しをするくらいだから、父が普通の人間とはまた違う存在であることを知っているのだろうか。だとしたらどこまで。なのになぜ自分が産まれるまでに至ったのだろうか。18になった少年にしては子供じみた疑問がスフィヤの胸に湧いてくる。3人は今、失っていた家族の時間を自然と取り戻そうとしているのだ。誰もそれに気づいていないけれど、全員がそれを待ちわびている。それは優しい時間であった。
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