帰郷.1

 乾いた国での騒動から数週間後、都会の賑やかな仕立て屋の前に立つ2人の姿があった。

「いらっしゃいま……びっくりした。あんた全く歳とってないどころか、若返ったかと思ったわ。でも、まさかスフィヤ?」

「ただいま、メリラさん」


「声も低くなって、そっくりね。一瞬、あの日のあんたの父ちゃんが若返って出てきたのかと思ったわ。そっちの少しくたびれた男性は誰?」

そう言ってスフィヤの隣に立つティファンを靴先から髪の先まで視線を走らせながら毒を放つメリラ。


「手厳しいな。ただいま帰りました、メリラさん」

「あんたを見送った覚えはないわよ。ラズなら仕事中だからね。裏口行って会いに行ってちょうだい」


 それを聞いてスフィヤは嬉しそうに店奥へと向かった。それに続くティファンだったは、メリラの横を通り過ぎざまに彼女にだけ聞こえるような小さな声で報告をした。

「……呪いはとききれなかったけど、糸口は掴めた気がします。でもまだもがいてみせますよ。けど僕より先にスフィヤの方が乗り越えてしまいそうだ」


 視線は合わせずに出発前に彼女と交わした会話の答えを告げる。

「……ガキは身軽だからよ。あんたは何十年も背負う内に、ますます重さを増したのね。それでもラズは待ってるわ。早く行ってやんな」

そう言ってシッシと野良猫でも追い払うように店の奥にティファンを追い払ったメリラだったが、自分の大切なラズのために努力をしようとしたティファンの心意気が伝わり、少しだけ満足げに笑って、接客へと戻って行った。


「あっ」

倉庫から染料を入れた壺を運ぶラズと、スフィヤとティファンが裏口で鉢合わせた。

「……ただいま、母さん」

「……おかえり、スフィヤ」

笑顔で答えるラズ。


「……帰ったよ、ラズ」

「……おかえりなさい、ティファン」

帰宅の挨拶を告げた2人にラズは待ち続けた者の諦めと慈しみに満ちた声で返事をした。


「こういうのは……初めてでよくわからないや……でも、いいものだね」

今まで旅を続けることしかできなかったティファンは、戸惑いを隠せずにいた。照れたような微笑みで、生まれて初めて帰る場所を持った男は、子供のような色を目の奥に湛えて言った。


「でしょう?さあ、次は私のために時間を使って貰うわよ!貴方達が帰ったら、部屋を出ていくようにメリラから言われちゃったんだから!代わりにすぐそこの古い作業小屋をくれるって。改装はティファンとスフィヤにやらせろって言われてるの!明日から忙しいわ!」

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