国の舵取り.2
宿屋から発ち、2人は人気の少ない大通を歩いていた。衛兵たちの動きを確認したかったからだ。その道中で何人か集まって顔を寄せながらヒソヒソと昨日の噂をする市民たちを見かけた。
「王に逆らうなんて馬鹿な連中だよ。適度に敬ってるフリして、耐えてれば生きていけたものを」
みんなが王を慕っているわけではない。生きるために冷たく笑っている者もいるのだとスフィヤは学んだ。それを知ると、自分のしたことは正しさとかけ離れていたことを思い知らされたが、顔を下には向けずに、それを心に刻みつけながら歩き続けた。
王国を抜け出し、振り返れば絵画のようになった遠目の王国を見ながらスフィヤは呟く。「あの国はどうなるんだろう」
「さあな。そこに住むわけじゃない僕らが知ることじゃないし、責任を持てることでもない。あそこに住む人たちが選ぶことだ」
「でも、王を倒すことを選んだ人たちは死んでしまった……」
「死んだんじゃない。殺されたんだ。それを見放したのもまた、あの国の人たちの選択だ。答えはすぐにはわからない。10年、20年経ってから気づくこともたくさんある」
「20年か……長いね」
「そうだな…父さんは旅に出て25年以上経ったよ。でもまだ答えの出てないことばかりだ」
「……たった6年じゃ、僕は何もわからないのかもね」
「すべてをわからなければいけないというものじゃない。わかろうとすらしないことは問題だと思うがな。お前はよくやったと思うよ。僕が18だったら、短絡的な正義で、あの国の王宮を滅ぼしていただろうな」
そう言って苦笑するティファン。
「僕にはそんな力はないよ」
力なく返事をするスフィヤ。
「ある。お前には間違いなく力がある。正直、地下牢での出来事を見ていて驚いたよ。お前の力があそこまでだとは思っていなかったからな。人間との血で薄くなった鬼神の血だと、父さんは少し舐めていたと痛感した。そのためか、お前に力の使い方を教えはしたけれど、もっと本質的なことは何も教えられていなかったのではないかと焦った。でも、お前は1人で答えを探して自分と戦った。そして今回その膨大な力を使わないことをお前は選択したんだ。それが正解かどうかはわからない……でも少なくとも父さんは嬉しかった。自分の息子が力に飲まれず、葛藤という人間らしい感情を持って悩んでくれたことが嬉しい。お前の選択は、父さんにとっては嬉しい選択をしてくれたよ」
「……力は使ってしまったよ。後悔してることも幾つもある。でも、忘れないから。ちゃんと胸の奥に刻んで生きていくよ。それしか今の僕には、できないから」
落ち込みながらも無理やり笑うスフィヤの肩を叩いて、2人は東の方向へ、朝日に向かって歩き出した。
「さあ、帰るぞ。スフィヤ。故郷でラズが待っている」
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