諍い.5
「また衛兵が来ないとも限らない。部屋に今日は籠もっていよう」
「……うん」
そう言って部屋へと戻る途中でティファンはスフィヤに尋ねた。
「何か不満そうだな」
「……不満ってわけじゃないけど、さっきなんで娘さんの手を父さんが握ったのかなって」
「お礼を伝えたかった。自分の娘でもおかしくない年頃の子だ。理由は知らないが1人でここを切り盛りしているみたいだしな。怯えているようだったから、安心させたかったんだ。衛兵がここに来たのも原因はこっちにある。彼女は何も悪くないからな。なぜ、そんなことを気にするんだ」
部屋のドアを開けながらティファンが疑問を投げかける。
「……別に」
「お前がそうしたかったのか?あの子の手に触れて、怯えを払拭してやりたいかったのか」
「そんなことは言ってない」
乱暴に寝台に腰掛けながら不貞腐れたように答えるスフィヤ。
「父さんの推測だ。間違っていたなら謝るよ。ただな、これも父さんの推測だが、お前くらいの年頃で、気安く肌に触れ合うことは気をつけたほうがいいと思うぞ。違う意味も含んでしまうことがありがちな年齢だからな。さっきの場合の父さんは、あの子の不安を静めたいという気持ちだけで手に触れたが、お前がもしも彼女に触れるつもりだったなら、一体何をどうしたくて触れるのかと気になっただけだ」
「……父さんと僕で相部屋に泊まってるんだ。変なことを考えないでくれよ」
「スフィヤ。これは別に変なことじゃない。ただ、旅先の一瞬の巡り合いで、何かを勘違いするのは若者にはよくあることだという一般論だよ」
「……その話、帰ったら母さんにしてもいいの」
「別に構わないさ」
「ちょっと声が震えて聞こえるよ」
「変なことをいうな」
「別に変な意味はないよ」
ふてた顔をしていたはずのスフィヤは、いつの間にかニヤニヤして着替えるティファンを見ていた。息子は父などいなくても大人になっていくものかと、少し笑ってしまいそうになるティファンであった。
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