諍い.4


 食堂へと降りると、厨房から調理している音がした。

「すいません、戻りました」

ダダっと駆け足の音がして、娘が厨房から飛び出してきた。

「あんたたち、無事だったの?今、衛兵が来て大変だったのよ。旅人の宿泊者はいないかって。手配書まで置いて行ったわ。20歳前後と40歳前後の男の親子って書いてあったから、あんたたちだと思ったから、客なんかいたらもう少し経営がまともになるって怒鳴って追い返したけどね。市場で物を売ってたんだって?悪かったね、市場の税金のことまでは詳しくなくってさぁ」


「いや、僕たちもそんなことは言わないで出かけたのですから。何も悪いことなんてしていないですよ」

「うん、気にしないでください。でもよく追い返すなんてできましたね、すごいや」

「普段の暮らしで鬱憤がたまってるからね、むしろそんな機会があって清々したよ」

そう言って笑う娘だが、その肩が震えているのにスフィヤは気づいた。思わず一歩前に出るスフィヤよりも先にティファンが進み出て娘の手を握る。

「震えているよ。無理しなくていい。僕らのために感謝します」

その言葉を聞いて娘の震えはゆっくりと止まった。

「別に……別にそんなお礼なんかいいよ。前払いで宿代も貰ってたしね」

「でも何かあったらすぐに僕らに言ってくださいね。あなたが思う以上に、僕らは腕に覚えがありますから」

そう言って笑うティファンに娘も笑い返して、厨房へと戻って行く。

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