宿屋.2


 ティファンは自分の全ての予感が当たってしまっていたことを確信した。スフィヤが宿屋の娘との会話で戸惑っているのがわかる。やはり彼には少しだけ刺激が強すぎたようだ。

 

 街行く人に尋ねて聞いた通りに、宿屋に着くまでに3つの角を曲がった。その間に目についたのは、レンガが崩れて廃墟のようになった建物、まだ流されていない血の痕跡、たった数分を歩いただけで何度もすれ違う衛兵のような男たち、そしてその男たちも見て見ぬふりをする行倒れた人の亡骸。ここはよほど情勢が不安定な場所のようだ。大きな通りに血の跡がいくつも残されているのは、暴動でもあったのだろうか。そしてそれが鎮圧されたのか。


「泊まらせて貰いますよ。問題ないよな、スフィヤ」

「うん……」

「何か文句があるなら別の宿もあるけどね。だいぶ歩くけど。うちとしては客もめっきり減ったから、泊まっていってくれるとありがたいんだけど」

「ここが嫌なわけじゃないよ。ただ……ずっと思ってたんだけど、いま此処では何が起きてるんだ?」

「知らない。ほぼ毎日、誰かが暴れて、怒って、それが宮廷兵士に見つかったら殺される。それを笑って見てる奴もいるし、あたしのように見てみない奴もいる。結果、何も変わらない。いや、変わってはいるかな。水は配給制になって、逆らう奴らの数は減った。今の王になってから、そんな風にもう5年以上経ったよ」

あっけらかんという娘の言葉にスフィヤは驚きを隠せない。

「で、どうするの。お二方は」

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