乾いた王国.4

 割り切ることが正しいとは今も思っていない。けれど、自分の使命だと思い込んで、メリラ曰く、自分で自分に呪いをかけていた自分とは決別し、ラズの夢を叶えることができるなら。自分の息子であるスフィヤのために、自分と闘い続けたラズへの罪滅ぼしになると思えた。


 ラズとスフィヤを思えば、穏やかな気持ちを取り戻し、自制できるようになれた。それだけでもティファンは旅に出てよかったと思っている。けれどスフィヤは別だ。彼はまだ若い。自分のそれと重なるかはわからないが、この惨状を目の当たりにして、彼の体から怒りのエネルギーが沸々と伝わってくるのをティファンは案じていた。


 広場の奥にはティファンの予想通りに掲示板があった。そこには日付を見ると数日おきに刊行されているらしい新聞が貼り出されている。

 出版元は全て宮殿になっていた。予想した通りだが、こういった国では情報の元を握っているのが、権力者であることがよくある。

 そうすることで、民を正しく導き、繁栄する国を見たこともある。そして反対に、民を惑わせて、歪な街を造り上げた国を見たこともある。言わずもがな、ここは後者であった。だがティファンはなにも言わない。スフィヤがなにを感じているか、そしてなにを選択して口にするのか。それを待っていた。


 6年の旅路で、スフィヤは大きく成長した。体は自分と同じくらいに頑強になったし、身を守る術として、剣術や体術も野営しながら教え込んだ。そして鬼神の血を引く者しか使えない、魔術。スフィヤはそのどれもを隈なく体に吸収させ、一端の戦士よりもはるかに凌ぐ戦闘力を持つ青年になっていた。


 全てを12歳の少年に教えて、正しく力を振るうことができるのか不安がなかったと言えば嘘になる。けれどティファンはスフィヤとラズを信じたし、結果それは間違ってはいなかった。ティファンは心からそう思っている。

 だが、「危ないことはさせない」というラズとの約束が気になり、肉体的な危険はさほど取り除くことなく、スフィヤ自身の体でぶつかり打破できる力を身につけさせてきたつもりであったが、この国が持ちそうな精神的な危なさからは、スフィヤを守り過ぎてきたような気もする。


 旅の終わりを決めて、最初に出会う街がこのような場所だというのは、スフィヤへの試練だろうか。彼はもう18である。ましてや歴戦の戦士並みの力を持っている。あらゆる意味で彼の成長を見るいい機会になればいいのだが。そんなことを考えながらティファンはスフィヤの様子を見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る