乾いた王国.3
スフィヤは知らないであろうが、以前であれば、こんな光景を見たら身体中を逆立つような感覚に囚われて、悪とみなしたものを裁かずにいられなかっただろうティファンだった。けれど今は血の滾りを覚えることはなかった。
6年前、出発の朝にメリラに呼び出された時のことを思い出す。
「あんたが初めてここに来た日の昼間のあんたたちの話、下まで全部聞こえてたよ。あんたたちで決めたことだから、口は出さないつもりだった。でも一つだけ言わせておくれ」
「……なんでしょうか」
「あんたは、しきたりとか、血がどうだとか言ってたけどね。そんなものは存在しないと私は思うね。みんな自分で自分に呪いをかけてるようなもんだ。こうでなくちゃ、こうするべきだ、これが正しい姿だ、ってね。そんなもの全部取っ払って、それからラズと向き合うのが筋なんじゃないのかい。あたしはあんたと違って12年間あの子のそばにいたから言わせてもらうよ。あの子はね、スフィヤを守り育てるために、自分にかけていた呪いの数々を自分でといていったの。あの子と対等に話すつもりなら……旅とやらから帰ってくるつもりがあるんだったら。あんたも少し、自分で自分を探したらどう。あたしにはあんたもスフィヤとさほど歳の変わらないガキにしか見えないね。言いたいのはそれだけ」
そう言ってメリラは、店の棚に並べてあった真新しい旅装束を掴んで渡して来たのだ。
「着なよ。織ったのはラズ。売ってるのはあたし。餞別だよ」
それを聞いたティファンは、スフィヤとの旅の間は「人を裁くこと」をしないことを自分に課すことにした。そしてそれは功を成していたのである。ラズの夢である家族で暮らすことを叶えるため、ティファンは自分と闘い続けた6年であった。
その結果、彼の体は、以前のような滾りも、乾きも覚えることはなくなっていったのである。
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