旅立つ子供.3
「スフィヤ。昨日も何度も話したと思うけど、僕が、父さんがいなかったのは、僕がずっと自分の中の考えに縛られていたからだ。そしてずっと自分勝手だったんだ。だから君と、ラズを放り出したままで、ずっと生きてしまったんだ。君が産まれて、この世にいると知った時、とても嬉しかった。それまでにこれだけの時間をかけてしまったのは、僕のせいだ。僕がずっとラズから離れなければよかった。遠くからでも見守り続けていたら、君が産まれた瞬間からここに来れたんだ。それをしなかったのは、父さんが弱かったからだ……僕に怒っていいんだよ?スフィヤ。絶対に自分を責めるような必要はない」
「ティファンの、父さんの言う通りよ。あなたがそんな風に思ってたなんて事全く知らなかった。気づいてあげられなくてごめんね……どうしてもね、ティファンが死んでしまったとは言いたくなかったの。いつかって、ずっと私が勝手に夢をみていたから、スフィヤには「あなたのお父さんは世界中を旅している」なんて、あやふやなことしかいえなかったの。不安にもなったよね。ごめんね。でも、あなたが思ったようなことは本当に全くないの。私、あなたが産まれるまで、ずっと今みたいな幸せを知らなかったのよ?全部あなたのおかげなの、スフィヤ」
「……うん。昨日初めて母さんと父さんが2人揃って、僕の隣にいてくれて、全部わかったよ。だからもう、そんなことは思ってない。でも、だからこそ、父さんと一緒に行ってみたいんだ。」
スフィヤは改めてラズの目を真っ直ぐに見て、そう言った。
「母さんといた12年と同じような時間を、父さんとも過ごしてみたい……だって、僕もずっと楽しかったから。でもそれだと、母さん1人になっちゃうよね。ごめん……そこまで考えないで、僕も自分のことだけ考えてた……」
それぞれが、それぞれの胸の内を言葉にしたことで、朝焼けが窓の隙間から潜り込み始めた部屋の中では、煙が空気に溶けるように、何かが少しだけ軽くなっていった。それはわだかまりであったり、すれ違いによって生じていた、本来生まれなくてよかった、各々の悲しみの根源である。
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