旅立つ子供.4


「ラズ、仕事の時間は大丈夫かい?」

「……そうね、昨日散々代わってもらったし、もう行かないと」


「メリラさんだっけ?あの人なら今日も許してくれそうだけど……」

「そんなことは私が1番わかってるわよ。だからこそ甘えられないの……」

ティファンを軽く睨んでからラズはスフィヤへと向き直る。


「ねえ、スフィヤ。12年…私はあなたのお父さんを待ったわ。だから、それまでに帰って来るわよね?私の故郷はね、女には待てというばかりだったの。だから待つのは得意よ。でも、お母さんはそんな村の習慣が好きじゃなかった。村のことは好きだったけどね。だから、風習なんて知ったこっちゃない。旅立ちから12年経っても帰ってこなかったら、こっちから探しに行くわよ?いいわね?」


「いいのか?本当に…」

「スフィヤが決めたなら。危ないことはさせないでよ?」

「危ないこと……うん、気をつけるよ」

「12年以内に帰って来るのよ?あなたも」


「僕も?」

「これで終わりになんてさせないわよ。しきたりも風習も知らないわ。私は私たちが幸せになれればいい。そのための旅立ちなんじゃないの?あなたはあなたのことを知り、スフィヤは知らない世界を知る。私はここで2人を待つのは悔しいけど、旅に出る趣味はないもの。ここが気に入ってるしね。だから私たちの家はこの街よ。それを決める権利が私にはあるんだから、だから他のことは譲ってあげる」


ティファンを抱きしめてラズは続けた

「あなたは20年以上待ったんだものね。12歳のあなたが、こうして分かち合える存在に出会えるまで。だから譲ってあげるのよ?あなたにはその権利があると思うから。いつか家族で暮らすのは私の夢。でもここでそれを押し通したら、どこまでいってもあなたと対等になれない気がする。スフィヤをよろしくね。ティファン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る