眠る子供.1



「寝る場所はどうしましょうか。スフィヤも大きくなったから、私と一緒の寝台じゃ狭くてもう眠れないわ。空いてる部屋はあるけど、メリラの許可がなければ勝手には使えないし……」

「僕は床でいいよ。君たちの傍で眠りたい。それに屋根のある場所で寝れることも珍しいくらいだ」


「あなたはそんな危険な旅をしてるの?それにスフィヤを連れて行こうと?」

「僕は12歳の時からこうだったから、それが普通だと思ってたんだよ。彼は逞しい。きっと大丈夫さ。もちろん彼が望むかどうかが1番大事なことだけどね」


「……辛くはなかったの?」

「僕が?……そうだな。辛かったよ。特に最初は。産まれた時から旅暮らしで、定住したことがなかったけれど、それでも前日まで両親と一緒だったのに「今日から大人だから1人旅だ」って言われて、心構えはしてたつもりだったけど、怖かったな。僕の初めての旅の記憶は、ここよりずっと北の土地で、森と砂漠の境目あたりだった。そこで両親と別れの挨拶を済ませ、君の村の近くにあった神殿の傍の泉のような場所で眠ったよ。外套を広げて床に敷いて、怖かったから、たき火は消せなかった。火を見ると寄ってくる動物もいて危ないんだけどね。その後も、2、3日はそこから動けなかったよ。水はあったし、食べれる木の実が少しあったから。でも数日経って気づいた。「あぁ、両親が迎えに来てくれることもない。僕はこれからずっとこうやって生きていかなければいけないんだ」ってね」


「……よく納得できたわね」

「せざるを得なかっただけさ。産まれた時から「12になったら」と言い聞かされて育ったのもあるし、両親は僕を置いて行ってしまった後だったからね。でも、疎まれたりしたわけじゃなくては本当にしきたりだからなんだということも分かっていたから、親を恨んだりもしなかった。離れていてもずっと傍にいると感じられるようにと装身具を12歳になった子供に送るのが習わしだったみたいで、僕も12歳になった夜に両親から貰っていたからね」


「何を貰ったの?」

「ピアスだった。銀細工の。うちの血筋は、物を加工する魔術に長けていたようでね。僕も少しなら弄ることができるけど」


「じゃあ、あなたがくれた銀の羽は、あなたが作ったものだったのね」

「どうしてわかったんだ!?……いや、まずは謝るべきだな。騙してすまなかった」


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