夕食.2


「メリラさん、ああやって時々からかってくるの、僕が大人になったらやめてくれないかなぁ……」

「いいじゃない。それとも本当に恋人を探しに行ってたの?」


「違うよ!……それは、そんなんじゃないし……」

「何よ、やけに歯切れが悪いわね。まあ、いいわ。スフィヤ。聞こうと思ってたんだけどね……」


「母さん、1つ頼みがあるんだ。」

「頼み?」


「うん。僕、さっき、おじさんに会って来た。それで、今日の夕食に招待しちゃった。勝手なことしてごめん。でも、席は僕の隣にしてあげて欲しいんだ。もちろん母さんが毎年のように隣で、その反対側ってことだけど……だめ?」

「……そんなことがあったの」


「ごめんなさい……勝手にしちゃって」

「謝ることはないのよ。大丈夫!料理もたくさんあるんだし、席もスフィヤの言った通りにしてあげるからね」


「ありがとう!」

「わかったから、後は部屋でおとなしく待ってなさい。あと1時間もかからないで夕食だからね」

「うん!」

元気よく返事をして、階段を駆け上がっていく息子の姿を見てラズは安堵していた。自分も息子の許可なく、彼を夕食に誘っていたから、何かトラブルになったらどうしようと内心ではヒヤヒヤしていたから。


 けれどスフィヤも彼を誘ったというのなら、その心配はなさそうだし、私からだけではなく、スフィヤからも声をかけられたなら、彼はきっと来ないなんてことはしないだろうと信じられたから。


 部屋の隅に重ねて置いてある椅子を1つ手に取って、スフィヤの席の右隣に置く。左隣は自分の席だ。毎年、スフィヤの隣は、片側が空っぽで誕生日を迎えていた。

 それを好奇の目で見るような下衆な人はいなかったし、スフィヤ自身もそれを気にしているような素振りを見せたことはなかったが、初めて両側に人が座ることを、どう感じるのだろうか。それが実の両親であることをどう受け止めているのだろうか。自分は何か子供に無理をさせていないだろうか。


 不安は正直尽きなかったが、スフィヤも選んだ答えと自分の選んだものが同じであることに勇気を持って、ラズは台所へと向かい、メリラたちと共に夕食の支度の仕上げに向かった。

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