夕食.1
スフィヤの誕生日祝いを兼ねた夕食は、いつもよりほんの少しだけ豪華で、たくさんの優しさに溢れていた。この店の従業員の子供たちは皆、同じだけの愛情を大人たちから貰うことができるのである。
今日の主役は特別に上座に座ることが許される。それがどんなに幼い子供であってもだ。そこに座れば、自分を祝福してくれる全ての人の顔を見ることができるから。
スフィヤの隣にはラズの席が用意された。これも子供たちの誕生日の夜には恒例のことである。祝われる子供は、その1番そばに両親の席を置いてもらえるのだ。それが例えば見習いの下っ端であっても、肩書きなど関係なしにである。それがラズがこの店を愛することができる一つの大きな理由でもあった。
産まれて1年目の誕生日を迎えたスフィヤの為に、見習いでしかなかった自分を上座に座らせて、店中の者で自分の息子を祝ってくれた日のことをラズは忘れたことがなかった。
「あの男、どこに座らせるつもりなの?」
夕食の始まる少し前に椅子を並べながらメリラがラズに尋ねた。
「さぁ……今日の主役は私じゃなくてスフィヤだもの。戻ってきたら、あの子に聞いてみるわ」
「こんなこと言いたくないけどさ、来ない可能性もあるんだろ?あんまり目立たない席の方がいいんじゃないかな?端なら後から付け足して並べても気づかないし」
「気遣ってくれてありがとう、メリラ。でもそれも全部スフィヤに聞いてみるわ。ちょうど帰って来たみたいだし」
「ただいま、お母さん、メリラさん」
「おかえり、スフィヤ」
「おかえりなさい。一体どこに行っていたの?」
「うん……ちょっと、いろいろと」
「恋人でも呼んできたの?」
「そんなのいないよ!」
「メリラ、スフィヤはまだ12歳よ?そんなのいるわけないじゃない」
「わかんないよー?顔立ちはいい男になりそうだもの。頭も悪くないし、学舎の運動の成績も抜群なんだから。今から狙ってる女がいるかもよ?」
「メリラ!妙なこと言わないでよ!」
「はいはい、お邪魔でした。椅子のこと、頼んだわよ、ラズ」
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