小さな戦士.4

 この男のせいで、ついさっき酷い目にあったというのに、どうして自分はこの男を憎みきることができないのだろう。

 ずっと本当は待っていた父だからだろうか。それがこんな変な奴だったのは、母から聞いていた話とイメージがズレて腑に落ちないけれど。


 でもこの男が父だと聞かされて、納得せざるを得ないくらいに2人の顔立ちはよく似ていたし、先ほどの岩に軽く飛び乗った男の身のこなしにも、何故だか小さい頃から身軽に飛び回れる自分と重なるものを感じたのかもしれない。

 もしも自分が大人になったら、こんな男になるのではないか。岩の上から見下ろすシルエットを一瞬見ただけだったけれど、何故だかそんな気持ちになったのは、父だと知っている欲目からか。それを自分に問うにはスフィヤは幼過ぎた。


「…今日は僕の誕生日なんだ。夕食はきっと僕の好きな鳥の丸焼きを母さんとメリラさんで作ってくれるよ。でも僕まだ子供だから、いつも残しちゃう。おじさんのことはよく知らないけど、母さんの知り合いなのは本当なんでしょ?僕の残りでもよければ、食べに来たら?ご馳走は嬉しいけど、食べるものを残すの、なんだかいつも心が痛いんだ。おじさんが来てくれたら、それ解決するから、許してあげてもいい…」


 似たようなやりとりをした記憶を思い出すティファン。あれは井戸の前でラズと初めて会った時。互いに互いの言動に慌てあった。

 あの時に彼女がくれた布は自分はまだ持っている。彼女は自分があげた銀の羽をまだ持っているだろうか。今夜の誕生日の夕食に招待してもらえるなら、あの布を首に巻いていこうか。なんて考えるティファン。


「いいのかい?」

「いいよ。今夜は僕が主役だもん。1年に1回の特別」

「その特別をおじさんに使ってくれるのかい?」

「……うん、いいよ」


「ありがとう。喜んで行かせて貰うよ」

それを聞くと所在なさげに枝で地面をかっちゃくスフィヤ。


「8時くらいからだと思う。母さんたちの仕事が終わってからだから。場所はさっき来てたからわかるでしょ?待ってるから」

そういって枝を捨てて駆けていくスフィヤ。それを見送るティファンの顔には、再び笑みが戻ってきていた。

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