茶香.1
湯気の出るカップが2つ。質素なテーブルの上に乗せられている。寝台には眠るスフィヤ。そのそばの窓は開け放たれて、店の前の市場の喧騒を拾って部屋に伝える。向かい合う椅子に腰を下ろすも、目線は向き合うことはないラズとティファン。
「どうするつもりだったの……っていうのは、もう聞いたわね」
「さっき言った通りだ。その子を連れて旅立つのが僕の望みだよ」
「それは私は望まない。というか、スフィヤがそれをどう思っているのかも知らずに、何も言うことはできないわ。この子がどうしたいかは、ちゃんと聞いたの?」
「それは聞いていない……そんなことが聞ける雰囲気じゃなかったし」
「それならばと実力行使に出たってわけ」
「実力行使になんか出て……」
「出てるわ。12歳の子供を魔術だろうと何だろうと、眠らせて連れ回すなんて正気じゃないわよ!?」
「……?母さん?」
怒鳴るラズの声にスフィヤがゆっくりと目を覚ました。
「スフィヤ!目を覚ましたのね?大丈夫?どこか痛いとかない?」
「痛めつけるようなことはしていないよ」
「私はこの子に聞いてるのよ」
「大丈夫……でもなんでか急に眠くなって……そうだ、知らないおじさんが来たんだ!」
「お邪魔してます、知らないおじさんだよ。君のお母さんの古い知り合いなんだ」
「何が古い知り合いよ……」
「母さんの知り合いっていうのは本当だったんだ。じゃあよかった。どうしたらいいか、一瞬困っちゃった」
「悪いことをした。すまない」
「……別にいいけど。でもこの人、誰?」
「……あなたの、スフィヤのお父さんよ。12年前にお母さんも会ったきりで、今日久しぶりに会ったわ」
「お父さん……って、僕の?」
「そう」
「最初に名乗れなくて悪かった……どんな顔して言えばいいか、わからなくって」
「……お父さんは格好良くて誠実だってお母さん言ってた。このおじさんが僕に変なこと言ってきて、旅に出ろとか言って、嫌だって言ったら目の前に手をかざされて眠くなった。こんなのお父さんじゃないよ!」
そう言ってスフィヤは2人の大人の間をすり抜けて部屋を出て行ってしまった。
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