茶香.2

「僕のことをそんなふうに教えていたのかい?」

「あなた、おかしいんじゃないの?そんな話してる場合じゃないでしょう。今のスフィヤの様子を見た?一体あの子に1番最初に何を話したのよ?」


「最初に一緒に来てくれと言っただけだよ。そうしたら子供たちが騒ぎ出して、詳しく話せなくなってしまった」

「子供たちのしつけが良くできていてよかったわ。いきなりそんなこと聞いて、ついていく子供がいると思う?」


「血筋のことや、しきたりのことを話せば通じると思ったんだ。彼も僕の血を引いている。面影だけじゃない。君ならわかるはずだ。同じ歳の子と比べても、俊敏さも、怪我の治り具合も、あの子は群を抜いているんじゃないか?」

「確かに。他の子より怪我が治るのはやけに早いとは思ってたわ。小さい頃はしょっちゅう怪我をするのに、何にも怯えずに、次の日には心も体も治ってしまっているの。なるほどね、考えたことはなかったけど。あなたのおかげだったのね。そこは伝えておくわ。丈夫に育つ子にしてくれてありがとうって。でも今のあなたの言葉には驚きね。いきなりそんな話をされて、信じられる子がいると思う?あの子は今日まで、ただの仕立て屋の職人の1人息子として育ってきただけなのよ?」


「……君は確かに強くなったよ。そこは僕も感謝しなければいけないな、あの子のために、そんなに変わってくれてありがとう、と。でも今の君の言葉を聞いたらつまらない大人になったと思ってしまったよ。出会った頃の君は、僕の言葉を素直に聞いてくれたじゃないか」

「それは、自分がそうだと言われたわけじゃないからよ。あの狭い村で生きてれば、外の世界に夢も見るようにもなる。あなたみたいな宿命の人もいるのだと、親しみと痛みを覚えたのも事実だった。でも「君がそうなんだよ」なんて、いきなり12歳の子が言われて、信じられると思う?受け入れられると本気で思ったの?」

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