家路.2


「……そのせいで、あなたが大事にするしきたり通りに生きれなくなったとしても?」

「別にしきたりで禁じられてるわけじゃない。そんな真似をする者がいなかったからなのか、理由はわからないけど……別に僕はしきたりを破ったことにはならないよ」


「変なところで捻じ曲げて解釈するのね。私には随分と勝手に見えるけど。さあ、着いたわ。ここが私とスフィヤの家。ここの2階に部屋を借りてるの。職人たちの多くが住み込みだから。メリラ……店主、じゃないけど、店主みたいな人の許可を取ってくるわね。部外者のあなたを部屋にあげてもいいかどうか」

「店主じゃないけど、店主みたいな人って誰だい?」


「そこはいいの。メリラが来ても余計なこと言わないで」

そう言ってラズは店の中へと入っていった。


「——この間に僕がこの子を連れて逃げるとは思わなかったんだな……まぁ、そんなことするつもりはないけど」


随分と賑やかな仕立て屋の入口で所在なさげにスフィヤを背負って突っ立っていると、店員と思しき女性に急に声をかけられた。


「こんにちは!何かお探しですか?」

「あっ、いえ。……この子の母親がここに勤めてて、ちょっと待ってるんです」

「えっ?……って、ちょっとスフィヤじゃないの。なんでこんな所で寝てるのよ。起きなさい」

そう言ってスフィヤの頬をビシビシと軽く平手で打ち始めた。


「えっ、ちょっと、人の子供に何するんだ!?」

「えっ?だってラズの息子でしょう?この子は。ラズはあたしの妹みたいな子なの。だからあたしにとってスフィヤは甥と同じ。自分の子供同様に手加減なんてしないのよ」


「いや、この子はラズの子ってだけじゃなくて……」

「あぁ!メリラこっちにいたのね。中を探してたわ!」

「ラズ!なにこの人?それよりスフィヤが拐われたとか、聞いたわよ。見つかってよかったわね。でも、この人誰?まさかあなた恋人?だからスフィヤを安心して預けていったの?変だと思ったのよ。信用もできない人間にラズがスフィヤを預けるはずないと思って!」


そう言ってキャーと騒ぎ口を手で塞ぐメリラに

「違うわ、メリラ……彼は、ティファン……。スフィヤの、父親よ」

「えっ……」

「……」


「父親って、あんた。あんたとあたしは12年も前にあんたの故郷の村で会ったのに、なんで今頃……?」

「ごめんなさい、メリラ。私もさっき彼と再会したばかりで、何も話せていないの」

「そっか……そうよね。ごめんなさい、あたしったら……ラズ、今日はもう上がっていいから。部屋でゆっくり話しなさい。みんな仕事中で2階は誰もいないでしょう」

「ありがとう、メリラ。こっちよ、案内するわ」


ティファンとスフィヤを連れて2階へと向かう階段に連れて行くラズ。その姿をメリラは心配そうに見つめていた。

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